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アイアムバグゲープレイヤー!!  作者: 海蛇
三章.ロゼッタルート

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#5.子供を作ろう! できない!?

 ロゼッタと結婚してからというもの、結婚前に村の人たちから「いつ結婚するの?」と聞かれていたのが「いつ子供ができるの?」にシフトしていっている気がする。

今日もアーシーさんから「気が早いかもしれませんが」と、子供にどんなことを覚えさせたいのかなど聞かれ、返答に困ったのだけれど。

「エリクもだったの? 私も、友達から聞かれて困ってたの……」

家に帰り、これをロゼッタに聞かせてみると、やはりロゼッタも同じだったらしく、出先で友人を中心に根掘り葉掘り聞かれて返答に困っていたのだと解り、「困ったわね」と、二人して苦笑いしていた。

「でも、中々子供ってできないもんだね」

「そうね。私、結婚したらすぐに子供ができるものなのだと思っていたわ」

二人、窓から畑を見て、小さくため息。

「まだコールは芽吹いたばかりだから、少しかかるのよね」

「うん。グリーンストーンを使っても、ちょっと時間がかかるみたいだからね」

今、畑には緑色の小さな芽がいくつも芽吹いている。

冬でも栽培できるという『コール』という緑色の葉野菜だ。

元々は植える予定なんてなかったけど、ロゼッタが教えてくれたある事(・・・)から、急遽植えることにした。

その為に植えていたキャロットとかを引き抜いてまで。

「でも、不思議だよね。赤ちゃんがコールから生まれてくるなんて」

「そうね。私たちも、野菜から生まれてきたんだと思うと、ちょっと不思議な気分」

――赤ちゃんは、愛し合う夫婦が二人で植えたコールが立派な球状に育った頃、その中から生まれてくる。

僕も知らなかったけれど、子供というのはそうやって作るものらしい。

「都会なんかだと鳥が運んでくるものらしいけれど。それって、コールから生まれた子が連れていかれてできるらしいわ」

「ロゼッタのお母さんは物知りだったんだね」

これも全部、ロゼッタのお母さんがロゼッタに教えた事らしい。

ロゼッタも自慢げに「そうなのよ、お母さんはとっても読書家だったの」と、胸を張る。

家の一角を占める小さな書庫。

その蔵書も、元々はロゼッタのお母さん――アリシアさんのものだったというのだから、かなりの知識人だったのだろう。

そんな人の言う事なら、素直にうなづけるというものだ。

「僕、子供の頃からずっと不思議だったんだよね。『人間ってどうやって産まれるんだろう?』って」

「私も子供の頃に不思議に思ったわ。だからお母さんに聞いたのよ」

そういう意味では、ちゃんと聞けて、そして答えてくれる大人が近くにいたロゼッタは、ちょっとうらやましいと思えた。

僕にはそんな疑問、教えてくれる人はいなかったから。

「……そういう記憶、だったね」

また思い出せた。最近、些細なことからよく思い出せる。

良い兆候なのかもしれない。

「エリクも、段々と昔の事を思い出せてきて、その分だけ沢山動けるようになってるって言ってたものね。完全に思い出せるまで、もうそんなに掛からないんじゃない?」

「そうかもね……うん」

だけどそれは、果たして思い出してしまっていい記憶なんだろうか?


 僕はここにいる。

それは、僕自身が戦争と無縁の場所にいるからそうなっているだけで。

では、ロゼッタのお父さんや村の多くの、戦場に向かったという男の人たちは、一体いつ戻ってこれるのだろうか?

戦争は終わったのか。

それとも、まだ続いていて、どこかでこの村の男の人たちが、戦っているのか。

もし前者ならいい。

でも、後者で、僕が一人だけ逃げてきた奴だったとしたら――

(やめろ、考えるな)

最近、戦争について考えようとすると、途端に自分の中で強いブレーキがかかるように感じる。

思い出せない、というより、思い出してはいけないと、そう思うようになっていたのだ。

今もまた、疑念が生じそうになった途端にそれがとても嫌なものであるように、そんな予感を覚えた。

だから、今は忘れる。


「コールはひと月掛かるらしいから、月末くらいには赤ちゃんが見られるのかな?」

「そうかもしれないわ。楽しみね。でも、コール一つにつき一人なのかしら? どれに産まれてくるのか解らないから、沢山植えてしまったけれど……」

今、コールが植わっているのは畑の三分の一ほど。

もしこれ一つにつき赤ちゃんが一人生まれてくるのだとしたら、月末頃には二十人近い赤ちゃんに囲まれることになる。

流石にそれはないんじゃないかと思うけど、ないとも言い切れない。

「全部上手に育つとも限らないし、もしかしたら上手くいった一つにだけ授かるものかもしれないから……」

「そうね。でも、月末が楽しみ♪」

「そうだね。僕たちの子供、どんな子なんだろう」

楽しみは後回し。

でも、僕達は今、とても幸せだ。

こうやって将来を語り合える相手がいる。

希望に満ちた日々があって、毎日がキラキラとしていた。

こんな幸せが、村で畑を耕した先にあったのだから。

(確かに……あんたの言った通りだったな、隊長)

隊長の言っていたことは正しかったのだ。

兵隊なんかやめて、畑を耕しお嫁さんを貰って生きる。

それは、とても幸せなことなんだと、今ようやく気付けたのだから。




 でも、幸せはいつも、壁にぶち当たることでとどめられてしまう。

「うーん……これもダメ、かな?」

「おかしいわ、もう、最後の一つなのに……」

月末。見事に結球したコール畑は、緑に彩られ、大層おいしそうに育ったが。

残念なことに、赤ちゃんは一人も生まれなかった。

「僕達、二人で植えたのに……何がいけなかったのかな?」

「解らないわ……お母さんに教わった方法の通りにやったはずなんだけど……もしかして、すごく確率が低いのかしら? 何度も何度も作って、ようやく、とか?」

アリシアさんの言った通りの方法が正しいという前提なら、後はその方法を繰り返すしかないのだろうか?

何か、試行錯誤の必要があるのか。

ちょっと、調べてみる必要があるのかもしれない。

「私、お母さんの本をもう一度読み直してみるわ。もしかしたら、赤ちゃんの作り方で何かわかるかもしれないし」

「そうだね。僕も村の人に聞いてみるよ」

これは真剣に考えなければならない難問だ。

でも、人間というのはいつも、そんな難題を乗り越え生きてきたはずで。

この村の人たちだって、そうやって数を増やし村を維持していたはずなんだから、きっと何か解るはず。

そのまま手をこまねき、同じことを繰り返すのは農夫としても正しくはない。

農業とはいつも、失敗や挫折を乗り越えた先にある、さらなる実りを求めるものなのだから。



「――えっ、こ、子供の、作り方、ですか……?」

とにかく困った時は、アーシーさんに頼るに限る。

そう思った僕は、真っ先にアーシーさんの家に出向き、素直に僕たち夫婦の直面した難問を、どう解決したらいいかを問うてみた。

しかし、アーシーさんはそれを聞いた途端固まってしまう。

「あの?」

「あっ、い、いえ! わ、解らない訳ではないのですが……その、貴方、そういった事は、知らなかったのですか? 知らないまま、ロゼッタと結婚を?」

「はい……コールから赤ちゃんが生まれるというのは聞いたんですが」

「コールから!? えっ? コールですか!?」

驚かれてしまう。何か間違っていたのだろうか。

もしかしてコールではなくかぼちゃとかなのだろうか?

あれも確かに赤ちゃんが収まりそうなサイズ感はある。

「違っていましたか?」

「あ、いえ……あの。コールというか、その……あっ、もしかして比喩的な意味……?」

「比喩……?」

何だろう余計に混乱してきた。

というかアーシーさんが混乱している気がする。

僕のした質問って、そんなにとんでもない事だったんだろうか?

「えーとえーと……ごめんなさいエリクさん。まず、事情を整理させて? エリクさんは、ロゼッタとその……赤ちゃ……ごにょ、を、作りたいんです、よね?」

「はい。そうなんです。それで、ロゼッタと二人で――」

「あのっ、まず、貴方はロゼッタを、どう思いますか? その、身体を見て」

「身体を……?」

顔を、ではなく身体を、と言われると、思い浮かぶのは二つ。

「胸が大きくなってきて、大人びてきてると思います」

「そ、そうですか……ええ、大事なことですね、それは」

「それと、華奢でかわいい」

抱きしめるととてもフィット感がよかった。

「……興奮、しますか?」

「え?」

「ロゼッタを見て、興奮、しますか?」

何を言い出すんだろうこの人は。

ロゼッタを見て興奮? そんな訳の分からない事――

「しますね」

――よくよく考えれば結構興奮してた気がした。

水浴びをして帰ってきた時のロゼッタとか、ベッドで一緒に寝る時の薄着のロゼッタとか、見てるとドキドキするのは確かにある。

「で、でしたら……それに従えばいいと、思います」

「従う……というと?」

今一曖昧でわかりにくい。

いつもはっきりと教えてくれるアーシーさんらしからぬ説明で首を傾げてしまう。

「で、ですから、抱きしめたいとか、キスしたいとか、思うでしょう?」

「ええ、まあ……思いますね、それは」

「そのままっ、そのまま、一杯ハグとかキスとかしていたら……きっと、そういう気になりますから」

「そういう気?」

「ああもうっ、これくらいで勘弁してっ! こんな事、男の人に教えることじゃないわよぉっ!!」

それまでも話しにくそうに視線を逸らしたりしていたけれど、ここで何かが耐え切れなくなったのか、アーシーさんは突然そう言い切って家のドアを閉めてしまう。

「あっ、ちょ、アーシーさん?」

『ごめんなさいエリクさんっ、大事なことなのは解るの。解るけど、そういうのは私からは言えませんっ! 恥ずかしすぎますっ』

これ以上は無理、と、はっきりと拒絶されてしまい、流石にそれ以上聞くわけにはいかなくなってしまった。

恥ずかしい? 何か、言えないような事があるのか……?

「ありがとうございました。ごめんなさい」

まだ聞いているか解らないけれど、それでも話を聞いて、教えようとはしてくれたことに感謝をし。

僕はまた、当て()ない答え探しをすることになった。


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