#14.狂乱のかぼちゃ祭り・開催!
「エリク、エリク、朝よ、起きて」
それは、とても珍しい目覚めだった。
いつもは自分で起きてロゼッタにおはようを言うのに、今日に限ってロゼッタに起こされていたのだ。
「ん……うん」
言われるまま瞑っていた眼を開き、光を受け入れる。
一瞬白に染まる視界が、やがて色を取り戻し――目の前には、かぼちゃのお化けが居た。
「――!?!?」
何が起きたのか解らない。解らないけど、応戦しなくては。
そう思い飛び起き。
「あはは、驚いてる。おはよう、エリク」
――それが、ロゼッタの仕掛けたいたずらだったのだと気づき、僕は落ち着いたのだった。
レッツメリウィンパーティー!!
かぼちゃ頭を被ろう!
かぼちゃ料理を食べよう!!
かぼちゃを使ったお菓子やスイーツを食べて、夜には広場で焚火を囲んで夕食会!
歌って踊って楽しく過ごそう! 秋の夜長を豊穣の女神に捧げるのだ!!
……という事で、僕は今、かぼちゃ頭を被って村を闊歩していた。
村中がかぼちゃ頭。どこを見てもかぼちゃ頭だった。
一応近づけばかぼちゃの目とか口とかから見える顔で判別はできるので、知り合いに会っても会話は可能なのが救いだろうか。
だが、やはりというか、村人同士でもこの格好は話しにくいらしく、いつもと違って俯いていたり、逆に身体を反ったりしてなんとか相手と視線を合わせようとしている姿も見られる。
「あらエリク君、おはよう」
「おはようミース。当たり前だけど、君もかぼちゃ頭なんだね……」
勿論ミースもかぼちゃ頭だ。
しかし、今日のミースは……服は黒系で統一されていてお洒落なんだけど、かぼちゃ頭のせいで台無しな感じだった。
ちょっと残念だ。最近はミースの日替わりのお洒落を見るのも楽しみになってきたんだけど。
「このメリウィンのかぼちゃ頭……言い出したのはどこの誰かも解らない外部のイベント企画者らしいんだけどね。正直重いわ見えにくいわで辛いわ……」
「ああ、ミースもそうなんだ……結構肩が凝るよね」
「そうなのよ! 全く、なんでこんな変な格好してるのかしら……確かにかぼちゃは秋っぽい作物ではあるけれど……はぁ、しばらくは外出時はこんな格好だから、気が重いわ」
楽しいお祭り、という話だけど、実際にはかぼちゃ頭を被る奇祭というのは村人にとっても微妙な扱いになっているのだろうか。
それともミースが特別……いや、僕と同じような感覚なだけなんだろうか?
「ロゼッタは楽しそうにしてたんだけどね。朝一でかぼちゃ頭だったから驚かされたよ」
目が覚めたら目の前にかぼちゃ頭が、というのは事前にイベント内容を聞いていても心臓に悪かった。
危うく反射で攻撃しそうになってしまった。
もしあのまま攻撃してしまったら、最悪なことになっていたに違いないから、気付けて良かったと心底思う。
そんなロゼッタだけど、とにかく朝からいつにないハイテンションで落ち着きがなかった。
こんな変なかぼちゃ頭を被る祭りでも楽しめるのは、お祭り好きの血が騒ぐのか、それとも天然だからなのか。
「あの子は……まあ、ね。お祭り好きだし、天然だし」
「どっちもなんだ」
「どっちもなのよ……はあ、まあ、私は今年はあの子のテンションにずっと付き合わされることもないだろうし? 頑張りなさいね」
どうやら今年付き合わされるのは僕らしかった。
まあ、いいんだけど。
かぼちゃ頭でも、ロゼッタはロゼッタだし。
「ミースは、焚火の周りで歌ったり踊ったりはしないの?」
「私はパス。あんまり騒がしいの好きじゃないし」
「そうなんだ……」
ちょっと残念というか、できればミースも参加してほしかったというか。
ミースが歌ったり踊ったりするところは、ちょっと見てみたかったんだけども。
「何よ、どうしてそんな残念そうなの?」
「ん? ミースを見てると楽しそうだから」
「なっ……」
またからかわれてると思ったのだろうか。
俯いてプルプルと肩を震わせているミースを見て、またぞろ怒声の一つも浴びせられるのかと思ったが。
「……ばかね。そんな事言って。ロゼッタと一緒に回るんでしょ? 私なんて気にしなくていいから」
はあ、と小さくため息をつきながら、背を向けて歩き出してしまう。
怒りだすこともなくそそくさと。
「……あれ?」
後には、何が起きたのか解らず、ぽかんとしている僕が取り残されるだけだった。
「あらエリクさん、おはよう」
そのまま村の様子を一通り眺めていたのだけれど、広場に入ろうとしたところでアーシーさんと鉢合わせる。
目元に、独特な切れ目が入ったかぼちゃ頭で中々に特徴的だ。
「おはようございます、アーシーさん……個性的なかぼちゃですね」
「ええ、ちょっと失敗してしまいまして」
アーシーさんは意外と不器用な人らしかった。
「でも、これはこれで格好いいかと思ってそのままにしてしまいました☆」
アーシーさんは意外と独特なセンスをお持ちの方だった。
「お祭りは楽しんでいますか?」
「ええ、まあ」
祭りと言っても、広場を入り口から見た辺り、どうやらまだ準備中らしく、村人に交じって行商の人たちやなんかが何かの準備をしているらしかった。
ただ、出会う人皆がかぼちゃ頭なので、ある意味この奇祭は十分堪能したと言って良いだろう。
「ふふ、初めて見るエリクさんは変なお祭りだと思うかもしれませんが、これはこれで楽しんでる方も結構いるんですよ?」
「……確かにロゼッタも楽しそうにしていました。かぼちゃ頭を作るのは、僕も楽しいと思いましたよ」
自分で被って村を歩くと、肩が疲れるわ見えにくいわ話しにくいわで良いことなど何もないかのようだったが、それでも皆で同じ格好をしているという一体感は感じられた。
これが祭りというものなのか。だとしたら、こんな妙ちくりんなかぼちゃ頭にも意味はあるのかもしれない。
「大体の流れは昨日の内に話した通りですけど、実はあの場で話し忘れていたことがありまして」
「言い忘れですか?」
「ええ」
とても大事なことなんです、と、かぼちゃ頭越しにウィンクする。
いつもならドキリとする仕草だろうけど、かぼちゃ頭越しなので全部台無しである。
ほんと、この頭は女性のドキドキするポイントを全部台無しにしていくなあ、と、むなしい気持ちに襲われた。
「夕方から、広場で焚火を焚いて村のみんなで踊ったり歌ったり、皆で用意した料理を食べて豊穣の女神様に感謝の気持ちを捧げる、と言いましたよね?」
「はい。今からちょっと楽しみですけど……その時もかぼちゃ頭を?」
僕はそれを想像して「なんて奇妙な祭りなんだ」と思っていたけれど。
でも、アーシーさんは「いいえ」とにこやかぁに首を振る。
普段は小さな仕草だろうに、かぼちゃ頭のせいでかなり大仰な動きだ。
「流石に飲んだり食べたりするときは外しますよ。踊る時も、流石にこれをつけながらでは大変でしょうし、ね」
それを聞いて安心したというか、一日ずっとつけているものと思っていたから、思わぬ重労働かと思っていたところだ。
それくらい、かぼちゃ頭は重い。
鉄のヘルメットなんかよりずっと重いのだから、女性陣には尚の事厳しいだろうし。
「かつてこのお祭りが収穫祭と呼ばれていたころは、焚火の周りで若い男女が恋を語らいあい、男性が女性にダンスを申し込んで、それを女性が受けることでプロポーズが成立していたことがあったんですよ」
「へえ……プロポーズ、ですか」
ロマンチックな話、と思えなくもないけれど。
今一、恋と言われてもパッとしないのは、僕自身が恋愛なんて気にしたこともなかったからだろうか。
だからか、どうしても聞き流しているような、適当な返事になってしまう。
本当はもっと、色々関心を持つべきなのかもしれないけれど。
「ふふ、エリクさんにはまだ興味がなかったかしら? でもね、私がぱっと見た限り、村の女性陣の中でも、特に若い子達は、例年より気合の入った、お洒落な格好をしていると思うわ。お祭りに合わせてドレスを縫った子も多いんじゃないかしら?」
そういえばロゼッタもいつになく真剣な様子で服を縫っていたように思える。
あれはこれに合わせるためだったのか、と思うと納得だけれど、アーシーさんの言葉には何か思わせぶりな印象を受けてしまう。
この人が、僕に何を伝えたいのか。
その真意を探ろうとして……指を、口元に当てられてしまう。
「そう、考えてくださいね。貴方はこの村で唯一の若い健康な男性。この村の若い女性達にとっては、唯一の旦那様になってくれるかもしれない人なんですから」
意識されてるんですよ貴方は、と、恥ずかしくなるようなことを言われてしまう。
「そ、その……はい、考えます」
顔から火が出そうになるというのはこういうことを言うのか。
指が口から離された時、僕は熱くなる顔に、ゆだりそうなめまいを覚えていた。
「ふふふ、ちょっとからかい過ぎてしまったかしら」
僕の様子がそんなに面白かったのか、アーシーさんは口元に手を当て、くすくすと笑いながら去っていった。
からかわれていたのか。そうならよかったんだけど。
でも、もし村の女性達から、アーシーさんが言われるように意識されていたのだとしたら、僕は、どうしたらいいんだろうか?
もしかして、ロゼッタやミースも僕を意識してお洒落を……?
そう考えると、まためまいを覚えてしまう。
どうしたらいいのか解らない。
あくまで様子見で着ただけだけれど……途方もなく疲れてしまった気がする。
「か、帰ろう……帰って、ちょっと休まないと」
お祭りはまだ、始まったばかり。
広場はまだこれからが賑わいという感じなのだから。
考えなければならないことはあるけど、今はひとまず、ゆっくりと落ち着きたいと思ってしまった。




