#10.段飛ばし、フラグ回収成立
「はぁ……はぁ……っ」
僕は今、山を登っていた。
真夏に似合わない雪積もる雪山。
「……すごい景色、だなあ」
山の頂上付近から見える景色はとても美しく、空はより一層青く見えて、そして――とても寒かった。
なんで僕が雪山なんかに登っていたのかというと、ただの好奇心だった。
いや、色んな戦場を渡り歩いていたなら、もしかしたら山にくらいは登ってたのではないかと思ったのだ。
だから、記憶を取り戻せるんじゃないか、山に関する記憶がそこにあるんじゃないか、という好奇心だ。
まあ、実際に山に着いてみたら何故か雪景色で、謎のバリアみたいなものに阻まれて戻ることができず、進むしかなくなったんだけど。
また例のアリスの声が聞こえてくるんじゃないかと期待していたけれど、残念なことにそんなこともなく。
では、ここの山は一年中真冬みたいな感じなのかと考えると、それはちょっと異常すぎるんじゃないかと思わされる。
でも、これが現実なのだと言われたら頷くしかない。
実際、雪は積もっていて、とても寒いのだから。
(夏服で来るような場所じゃ、ないよなあ……)
頭は辛うじて麦わら帽子をかぶってるからまだましとはいえ、半袖短パンで登るような場所でもない。
これはもう、死にに行ってるようなものなのではないか。
更に視線を下に向けると、巨大な鳥が「キョエエエエエッ」とけたたましい鳴き声をあげながら飛び回っている恐怖映像付きである。
(……余計なこと考えてると足を滑らせそうだ。疲れたし、いい加減休もう)
疲労が限界に達してきたようなので、手ごろな岩場に腰掛けて道具袋を取り出す。
(せめてご飯くらい食べないと……お腹の中から温まらないと死んでしまう)
こんな寒い山の中でも、何故か料理はほかほかと湯気を出し続けている。
冷める様子もない。
昨夜沢山作ったカレーが余ったので、朝ロゼッタから「どうぞ」とお弁当として渡されたけど。
やっぱり皿に盛られたカレーは冷めていないし、袋の中を汚したりもしていなかった。
謎が多い。
「まあ……おいしそうだからいいんだけどね」
この寒い中では、持っているだけでも熱が伝わるほかほかなカレーは大変ありがたい一品だ。
辛いのも体を温める要因になるだろうし、現状では最高の料理であるといえよう。
カレーを皿のまま弁当に、という考えは流石天然なロゼッタだなと思いはしたが、結果オーライだ。大変アリだった。
「いただきます」
ぱちりと手を合わせ、食べ物とロゼッタに感謝。
そして食べようとして――かじかんだ指先が、カレー皿をうっかり滑らせ――
「あ……っ」
――無情にも、カレーは皿ごと落下していった。
「あああ……」
そしてカレーは、ずっと下で旋回していた巨鳥の頭上に落ち。
《ズガガガガガガガガガガガカガガッ》
とてもカレー皿とは思えない強烈な打撃音を鳴らした後――
『キュワァァァァァァァァァァッ!?』
――鳥を撃墜した。
「なんか……ごめんよ、鳥」
カレー一つ落としたばかりに大惨事である。
罪のない鳥がカレーのせいで死んだ。
僕はこれからどれだけの罪悪感を背負って生きればいいんだろう。
「よし、忘れよう」
辛いから忘れることにした。
思い出そうと思って入った山で忘れることになるなんて、なんて皮肉なんだろう。
《あれっ!? ちょっとカレー作ってたらいつの間にかエリク君が山に入ってる!? どうして? チュートリアルルート中は山に入れないはずなのに!?》
そして「これからどうしよう」と、軽い絶望感から途方に暮れていたところで、待ちわびたアリスの声が聞こえた。
……そうかやっぱりこれも「おかしな事」だったんだ。
こんな冬景色、どうみても間違ってるだろうし。
《またやっちゃったみたいだなあ。まずいなあ、冬の山にはエリアボスの『ロック鳥』がいるのに……今のエリク君じゃ一撃で即死しちゃう……》
そんな危険生物が居るならちゃんと入れないようにしてほしかった。
《あ、あれ? ロック鳥死んでる!? お、おかしいなあ……エリク君たら、どうやって倒したの……?》
どうやらさっきの鳥がそれだったらしい。
死因:カレーは流石にどうなのかと思う。
でも、さっきの奴がボスだというなら、もしかしたら山賊ボスみたいに何かいいものを落としていたりするんだろうか。
そう考えると放置するのはもったいない気がする。
「とりあえず降りてみるか……」
本当は、このままどうにもならなかったら山頂まで登って、国境付近をうろついているオーランドの兵隊を頼ろうかとも考えたんだけど。
もしかしたら、あの鳥が死んだことで何か変わったことがあるのかもしれないし。
そうして下山した僕は、中腹付近で大量のアイテムが落ちているのを発見した。
やっぱり料理やら鉱石やらがほとんどだったが、そんな中に埋もれるようにスケッチブックが混ざっていたのが謎かった。
「ていうかこれ、ミースの……?」
見覚えのある表紙の、いつもミースが大事そうに抱えている奴だった。
多分、間違いないだろう。
「……どんなの描いてるんだろう」
いつもいつも、何かを描いているけれど何を描いているのか聞いても教えてくれない。
はぐらかされたりごまかされたり逃げられたり、とにかく隠そうとするのだ。
まあ、ちょっと恥ずかしそうに照れてるみたいでその時のミースは可愛いんだけど。
「よし、見よう」
好奇心が罪悪感に勝った瞬間だった。
きっとずっと見せてくれないだろうし。何が描いてあるのか気になっていたのだ。
「……あれ? 僕?」
そこに描かれていたのは、畑の中で作業をする男の子の絵だった。
クワで耕していたり、スコップ片手に岩をどけていたり、種を撒いていたり。
躍動感あふれる、まるで生きているかのように、そのまま動き出すんじゃないかと思えるような絵が何枚も。
(いや、畑だけじゃないな……なんか、戦ってたりしてる……)
これは、賊と戦っていた時の絵だろうか。
ショートソード片手に勇ましく向かう後ろ姿。
ミースにはこう見えていたのか、あるいは僕という奴はこういう感じなのか。
自分の戦う姿なんて気にしたこともなかったから、これはちょっと恥ずかしくも思えるけど。
でも、細部までしっかりと描きこまれていて、絵画とか全く解らない僕にも絵としてとても綺麗なのがよくわかる。
(すごいなミース……いつもこんなのを描いてたのか……うん? これは、水着の……僕?)
ご丁寧に女物の水着を着ている時の僕らしき少年まで書かれていた。
横には「かわいい♪」という女の子らしい丸文字。
そうか、そんなにかわいいのか、僕。
その後も僕が取った覚えのないポーズを取る水着の少年がハートマークにまみれながら何枚か描かれていた辺り、ミースの妄想が爆発していたのだろうか。
軽くショックを受けながら、その絵は見なかったことにしてスケッチブックを畳む。
「とりあえず、届けてあげないとな」
届けてあげて、色々追求した方がよさそうな気がしたのだ。
幸いにして山の入り口に張られたバリアみたいなのは解除されていて、その後「なんとか修正できたわ」というアリスの声が聞こえたので、まあ、今後は山は大丈夫なんだろうなと思いながら村へと戻った。




