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アイアムバグゲープレイヤー!!  作者: 海蛇
二章.狂気の前兆

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#5.賊は資源

 湖で一通り遊び、村の人たちとの交流も楽しんだ後、『水浴び会』はお開きになり、また皆で村へと戻ってゆく。

何か色々と忘れちゃいけないことが起きたような気もするけど、ロゼッタと水を掛け合って楽しんだり、ステラと湖の中にいた虫を投げつけあったり、水辺でたたずむミースに見惚れてみたりと、振り返ってみればいい思い出ばかりな気がするから不思議だ。

帰り道すがら、ロゼッタと思い出話を語り合いながら歩くのもまた、楽しかった。



「エリクさんに大事なお話があります」

翌日の事。

昼下がりにアーシーさんが家を訪れ、食事中の僕らは昼食を一旦止めて対応する事に。

「この間のミースもそうだけど、ご飯食べてる最中に来る人が多い気がするの……」

結構雑談で盛り上がっていたので、ロゼッタもちょっと不機嫌だ。

「まあ、アーシーさんなら、きっとほんとに大事な話だろうから」

ミースの時だって鍛冶屋さんが戻ってきたって話だったし、必要のない話の為に訪れたりはしないのだろうけれど。

とりあえず、何の話なのか聞いてみないことには始まらないと思ったのだ。

「うふふ、エリクさんの中では私はそういう人になっているのね。嬉しいわ」

何をどう受け取って喜んでいるのかは今一解らないけれど、アーシーさんの好感度が上がった気がした。

「まあそれはともかくとして……お話の続きね。実は、先日水浴びの際に湖に賊が見つかったようで」

「えっ、そうなの!?」

「ああ……」

そういえばそんなのが居た気がした。

あれはそう……僕が女物の水着を着た時に――

「発見した人によると、ちょっとしたら姿が見えなくなっていたらしいから、どこかに潜んだんじゃっていう話なんだけど……エリクさんはご存じ?」

「ええ、一人、倒しましたよ」

――正直、あまり思い出したくなかった。

間違いとは言え、渡された水着を着たら女の子扱いされて、賊に戦利品かのように扱われそうになっていたなんて。

そういえばその時は武器一つ持っていなかったけれど、僕は素手でも賊くらいは瞬殺できるくらいには強いのだろうか。

「まあ! すごいわ、早速一人倒してくれたのね。うふふ、思った以上に頼もしいのね、エリクさんって♪」

「エリク、いつの間に……」

手放しに喜ぶアーシーさん。

ロゼッタはというと、どちらかというと驚きの方が強いようだった。

まあ、それはそうだろう。

着替えの時以外にはずっと一緒だったし。

まさか着替えのちょっとの間にやったなんて思わないだろうし。

「でも、賊が一人だけで行動しているはずがないから、どこかに拠点みたいなものがあるはずよ。だから今後は、賊の出没に気を付けた方がいいかもしれないわね」

「そういえば、アジトがどうとか独り言話してたっけ……やっぱり、西の森の方にいるんでしょうか?」

「そうかもしれないわね。あるいは……山の方に居る可能性もあるけれど。でも、国境の兵隊さんを恐れる賊があっちの方に拠点を作ることは今までなかったから、どちらかといえば西の方が可能性が高いでしょうね」

以前、村の周囲の地形の説明をロゼッタから聞いた時にも言われたけれど、やはり西の方が賊が潜んでいる可能性が高いようだった。

だとするなら……西に向かう必要がある。

「西の森は、たまにだけれど、生活に困った人が果物や薬草を求めて向かう事もあるから……放置するのはまずいと思うの」

生活に関係するなら尚の事、無視はできないだろう。

ロゼッタもじ、と僕の顔を見つめている。

怖いのだろう。不安そうに眉が下がっている。

さっきまでニコニコ笑顔だったのに、戦いの予感を感じ取ったのだろう。

「大丈夫だよ」

賊くらいは瞬殺できる。

水着で素手でそれなんだから、きっとフル装備で挑めばなんとかなるだろう。

「それじゃ、今日は予定を変更して、ちょっと西の森に向かってみます。何かわかるかもしれないし」

「そうね……できれば、何か手伝えればいいのだけれど、村の人は私も含めて非力だから……ごめんなさいね」

「いえ、人間なら、モンスターよりは考えることも解りますし」

いざその時にならないと思い出せないモンスターとの戦い方よりは、同じ人間だからで考え付くことを事前に一つ一つ潰せる分だけ、人間相手の方がマシとすら思える。

そういう風に考えてしまうのは、やはり僕が戦争をやっていた人間だからだろうか?

あるいは……そう、僕自身が、記憶を取り戻すために、それを求めていたのかもしれない。

「じゃあエリク、せめてちゃんとご飯は食べていってね」

「そうだね。お腹を一杯にして、万全にしていかないと」

その場はそれで話がまとまり。

中断していた昼食も、アーシーさんが「それじゃあよろしくね」とすぐに帰ってくれたこともあり、冷ますことなく再開できた。


 人間がモンスターより怖いのは、頭が回って、武器や罠を使ってくること。

マンイーターのような、モンスターが本能的に使っている罠も厄介と言えば厄介だけれど、人間の使う罠という奴は、とにかく簡易的なものでも油断ならない、習性や感情を利用した面倒なものが多い。

こちらが人間を知っているなら、相手も人間を知っているのだから。

だけどこちらが有利に働く点と言えば、相手が、まだ僕が戦える人間だと解っていない辺りだろう。

不意打ちを決められれば、かなり有利に動けるかもしれない。

だから、早急に動く必要があった。

村の為に、皆の為に、できるだけ高い戦果を挙げなくては。


「……そういう覚悟をしていたはずなんだけど」

そんな僕の覚悟やなんかは、数回賊を倒した辺りで立ち消えてしまった。

罠はあるにはあった。とても見つけやすい範囲で。

賊も居るには居た。とても弱かったけど。

「意外とあっさり倒せるものなのねえ、賊って」

そして、何故かミースが隣にいる。

一通り進行中にいた賊を倒したからか、勝手に切り株に腰掛けスケッチブックを開いていた。

「何を描いてるの?」

「気にしなくてもいいわよ」

「死んだ賊?」

「いないじゃない」

やはりというか、賊は倒すと消え去っていた。

代わりにというか、倒した賊は薬草やらパンやらはした金やらを残している。

「別に、戦利品なんて描くほど暇じゃないわよ」

ミースがちらほらとスケッチブック越しに見ているのは、賊の居た場所ではなく、僕の方。

「ていうか、なんでついてきたの? 危ないよ?」

「これだけ強いなら問題ないでしょ? 大丈夫よ、私は後ろの方にいるから」

気にしないで、と、勝手に話を打ち切られてしまう。

そのまま、無言でスケッチである。

「その服、可愛いよね」

「なっ」

なんとなく褒めてみる。ミースの手は止まった。

いや、確かに可愛いのだ。

薄緑色のワンピースに、赤と緑のチェック柄のカーディガンを羽織って、同じ柄のベレー帽を被ってて、中々におしゃれなのではないかと思うのだ。

「……何気に見てるわよね」

「うん?」

「なんでもないわ」

ぽそぽそと何かつぶやいていたけれど、聞き返すといつもの「気にしないで」が返ってくる。

都合の悪そうな時もそうだけど、それ以上は掘り返してほしくない事なのかもしれない。

単純に照れてるのかもしれないけれど。

「私のお洒落に気付いてくれるのはまあ、嬉しいけどね。でも、それよりもロゼッタの事を褒めてあげなさいよ。毎日かわいい服着てるでしょ?」

「うん。毎日褒めてるよ」

そして毎日顔を真っ赤にしてるロゼッタを見て楽しんでいた。

「……そ」

すん、と視線を逸らされてしまう。

なんだろう、嫌われるようなことは言ってないつもりなんだけど。

「まあ、いいわ。ちゃんと褒めてるなら……これで、よし、と」

ぺたん、と、スケッチブックを閉じ、背を向ける。

「帰るわ」

「え、なんで?」

「危ないんでしょう? 私も流石に賊のアジトとやらに入るつもりはないし」

危ないだろうし? と、さっきまでと矛盾したようなことをのたまう。

けれど、「危ないから帰る」というのは僕にとってもありがたいので、止める訳にもいかない。

なんだか納得いかないものを感じるけれど、とりあえず「解った」とだけ返してその背を追いかけた。


「なんで追いかけてくるの? いいから先に行きなさいよ」

「だって、一人にして賊に襲われたら困るし」

「別に私が襲われたって気にしないでしょう? 何かあんたが困るの?」

「いや、気にするよ。ミースが酷い目に合ったりなんてしたら僕が困る」

絶対に嫌な気持ちになるはずだ。

想像だってしたくない。

「う……」

「……?」

何を気にして足を止めたのか。

けれど、またすぐに歩き出してしまう。さっきより速足だ。

「き、気にしてくれるのは悪い気はしないけど、気にしなくていいわよ。この辺は歩き慣れてるし」

「そうはいかないよ。森の出口まで送る」

それでミースが安全に村に帰れるならその方がいいに決まっていた。

「……勝手にしなさいっ」

背中を追いかける形になるせいで表情は見えないけれど。

でも、怒ってるというよりは、照れてるという感じなのだろうか?

口調からは特にきつさは覚えないし、嫌がってる風でもない。

ただ……二人してほとんど走るような速度で出口まで向かったから、それ以上は何も話す暇もなく。

そう掛からず、森の出口まで着いてしまった。

「……じゃ、帰るわ」

「うん、気を付けて」

肩で息をするミースに対し、僕は呼吸一つ乱さず。

そしてミースが離れていくのを見送り、そのまままた、森へと戻った。


「なんだあ? お前は!!」

――賊を倒した場所に戻ると、倒した賊がまた居た。

「こいつら、復活するのか……」

別の賊が来たのかとも考えたけど、どう考えても森で最初に倒した奴と顔が同じだった。

多分、同じ奴だ。

「不審なガキだな、とっ捕まえて――うぎゃっ」

そして倒したときの悲鳴まで同じ。

落としたのも薬草。うん、枚数まで同じだ。

(なんだこれ……洞窟のグリーンストーンみたいだな)

なんでそうなるのか解らないけれど、戦利品があるのはありがたい。

とりあえず慎重に先に進んでみると……やっぱり、同じ場所に同じ人数、同じようにくつろいでいた。

「――はっ」

「ぎゃぁぁぁぁぁっ」

「てきしゅ――うげえっ」

最初に倒したときと同じように、樹の影から強襲し、二人を撃破。

三人目がその場に現れようとしていたので、一旦樹陰に隠れ。

「どうした!? あ、あれ?」

誰もいない、アイテムが落ちているだけの場所に現れた三人目は、困惑したようにうろうろとして。

そして、落ちたアイテムを見つけるや「うわラッキー!!」とテンション高めにアイテム拾いに精を出す。

それ、お前らの仲間の遺品なんだけどな。

「欲深いよっ」

「うわっ――」

そのまま背後にこっそり忍び寄り、ショートソードでバックアタック。

一撃で撃破。

拾われたアイテムまで含めて落ちる。

(……意外と美味しいな、これ)

一度着た時と同じアイテムが手に入る。

これを繰り返せば簡単にお金が手に入るのではないだろうか。

そう思いはしたけど、薬草はともかくパンはちょっとかさばるし、小銭もはした金程度。

何より失敗したら命にかかわるので、モンスターを倒すよりはマシかなくらいの収入と考えた方がいいかもしれない。


 そのまま、さっきミースと二人でたどり着いたアジトの手前まで戻って、戦利品がちょうど二倍になっているのを確認してから、改めてアジトへと入り込む。

流石にさっきまでと比べて賊の人数が多い。

けれど、うろうろしている奴らは物陰に隠れて奇襲すれば難なく倒せたし、同じ場所で動かずに固まってる奴らも、視線は時々動くので、その時を狙ってアイテムを撒いたりして動かすことができたので、各個撃破も難しくなかった。

――賊、モンスターよりもちょろい……?

(だめだ、油断なんてしたら、危ない)


『いいか坊主、人はな、強い敵にぶち当たって死ぬよりも、油断や慢心から死ぬことの方が、はるかに多いんだ。今まで戦ってた奴らの多くは、俺たちを舐めたり、お前を見て油断したりしていた。今なら分かるな?』


「――っ! ああ!」

不意に脳裏に響く声。

それはあの……アリスの声なんかと違って(いか)つかったけれど。

けれど、頼りになる声だった。信頼できる声だった。

そうだ、僕はいつだってこの声を聞いて、戦っていたんだ。

油断はすべきではない。

賊は弱いかもしれないけれど、僕が油断したら、殺されてしまうかもしれないんだから。



 そうして賊を倒し抜けた先には、小さなキャンプのような仮設の拠点が一つ。

その周囲を守るように、それまでより上等な装備を付けた賊が二人、立っていた。

――来るところまできた。

初回であまりに手応えがなくて拍子抜けしていたけれど、ここからか本番だと覚悟を決め、気を引き締め。

「――っ!!」

僕は、無言のまま、一気に駆け出して行った。

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