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アイアムバグゲープレイヤー!!  作者: 海蛇
十六章.『酷薄水晶』

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#3.『世界』に栄えよエリク君!


「――エリク君、この子の名前どうする?」


 何年が経過しただろうか。

ノア様の提唱する『栄えよう! エリク君計画!!』は、それまで歩んできた人生経験もあってか、とても順調に進んだ。

目の前には、生まれた我が子を愛おしそうに抱きしめながら僕を見つめてくるステラ。

「えーっと……」

「私の子供はどうするの?」

……と、ミース。


 二人同時に子供ができて、二人同時に名前を聞かれていた。

こんな事は中々ない。『親友エンド』でも『ハーレムルート』でも、子供を作るタイミングは一人一人微妙にズレるから、同時に生まれるなんてことはほとんどなかった。

そして稀にあったケースでも、再現性がある訳でもなく、あくまでその回だけだった。


「……ステラとの子供は男の子だから『グラス』、ミースとの子供は女の子だから『シャーロット』で」


 子供の名前は、既に何度も決めている、かつての人生のものにした。

それが一番無難だろうから。

これから先ノア様曰く「ハチャメチャな展開になる予定」らしいので、ここだけは無難に済ませようと思ったのだ。


「なるほど、グラス君かー、うん、まあ、いいんじゃない?」

「シャーロット、うん……そこはかとなく気品が感じられていいわね?」


 幸い二人とも文句もなさそうで、母親として悪くなさそうな顔をしている。

ほっと胸をなでおろしながら、両手を二人に向け。

そうして、二人の母親から、それぞれの赤ちゃんを渡される。

両腕にかかる重さ。幸せの象徴がそこに居た。

布越しでも温かな、小さな命。

何度見ても守りたいと感じさせられる、そんな、大切な存在達。

ひとまずはこれで、と思いながら二人に交互に頬ずりしていると、家のドアがこんこんこん、とノックされた。


「ステラとミースも子供が生まれたらしいわね、おめでとうございますっ」

「これでお二人()立派な母親ですわね」


 どうぞと言う間もなく開け放たれたドアの先には、アーシーさんとシスターの二人。

……そして、二人もまた、布に包まれた赤ん坊を抱いていた。


「ありがとー二人とも。これでやーっと、他の子達に追いつけたよ~」

「ほんとに……私達だけ(・・)やたら遅かったのよねえ? 変な意図を感じちゃうわ?」

素直に祝福を喜ぶステラに対し、ミースは皮肉げに僕をジト目で見てくる。

辛い。攻略の難易度的にきつい方から優先した所為で後になったこの二人には申し訳ない気持ちも湧いてきてとても辛い。

「クレアモラさんもミライドさんも、シスカまで私達より早かったし。ほんと、なんで私達だけ……」

ぷりぷりと頬を膨らませ不満げに睨まれても、僕は苦笑いしかできない。

だって、ミースの怒りはほんとに正当なもので、言い訳のしようがないんだから。

「まあまあ、その分他の人たちよりじっくり時間かけてエリク君と一緒にいられたんだからさー、別にいいでしょ? ミースはほんと嫉妬深いんだから」

幸いにしてすぐにステラがミースの牽制に入ってくれたので、ミースはすぐ「むっ」と、ステラへと意識を向けた。

「べ、別にそんな……だ、大体ステラだって、エリク君がいないところでぶつぶつ愚痴ってたじゃないの? 私だけ嫉妬してたみたいに言うのやめなさいっ」

「やきもちなんて焼いてませんー、私はずっとエリク君を信じてました~」

そして二人していつも流れになる。

これは僕にとって好都合だ。

流れが変わったなら、そのまま次の流れに持っていけばいいのだから。

「それじゃ、とりあえず皆で教会にいこうか」

「あっ、そうだね、子供ができた事、女神さまに報告しないと」

「そうね……こんなところでステラと変な言い合いしてる場合じゃなかったわ」

幸いにしてすぐに二人は口論をやめて僕の方を見てくる。

もう笑顔だ。とってもいい笑顔だ。

――やっぱり母親は、笑ってないと。

「それでは皆で行きましょうね」

「うふふ、女神さまもエリクさん達を待っておりますわ」

こうして僕らは、『恒例の』女神さまへの報告へ向かう。



――言ってしまえば、ハーレムルートだ。

ノア様に「地に満ちようねえ」と誘われ、僕はノア様からある力を授かった。

それは『繁栄』の力。

栄えれば栄えるほどに力が増すという、ノア様本来の力ともいえる強力な加護だった。

ノア様の提唱した『栄えよう! エリク君計画!!』は、「とにかく沢山子供を作って頑張って各地を栄えさせて世界を繁栄させてしまおう」というのが第一段階。

そして僕が栄えさせた地域の人々を、自分の子供も含めて成長させることで、僕自身も繁栄の力によって能力を増強させることができる、というのが第二段階。

そして、それによって創造主の域にまで達することで、アリスを説得することができる様になるのが最終目標となっている。

まあ、ノア様曰く「そこまでいけるようになるまでは相当な時間掛かるけど」という話だが、幸い僕にはノウハウがある。

様々な人生を生き抜き、ずっと繰り返していたノウハウが。

ここから先、スタンピードや災害など様々な困難もあるだろうけど、なんとでもできる自信があった。


「ただいま戻りました。メリヴィエール様。お二人をお連れしましたわ」

「あ……おかえりなさい。それから、二人とも、よく来てくださいました」


 そして、教会には当たり前のように神々しい……いや、あんまり神々しく感じられない、ちょっとオーラの薄い女神さまが鎮座していた。

教会の奉じる豊穣の女神メリヴィエール、その人である。

メリビアではなく、メリヴィエールとして村に顕現(けんげん)し、今はこうして、所在なさそうに僕達を迎えている。

「赤ちゃんが生まれたんですね。おめでとうございます、ステラさん、ミースさん」

「ありがとうございます、女神さま」

「えへへー、ようやく生まれましたよー、いやあ、よかったよかった♪」

まず迎えられたのは赤ちゃんとそれを産んだ二人の母親。

それからようやく僕に視線が向けられる。

「エリクさんも」

「はい」

流石にこの姿の時は敬語で話すようにしていた。

女神メリヴィエールもまた、この時ばかりはあまり表情が出ていない。

というか、表情筋がこわばっているように思える。

相変わらず、人前に立つのは好きではないらしい。

(神様なのになんでこんなに人見知りなんだろうな……)

今一納得がいかない感があるが、声には出さず。

一応は(おごそ)かな場、という扱いで、神聖なる儀式が始まるまでの流れを受け入れた。


「――では始めましょう」


 座していた椅子から立ち上がり、女神メリヴィエールがどこからともなくしゃらん、と、金色の鈴のついた錫杖(しゃくじょう)を取り出す。

凛とした雰囲気を纏う女神は、まさに神様といった感じの神聖さを感じさせてくれて、それまでのちょっと頼りない感を打ち消す、静かな重みを漂わせていた。


「豊穣の女神メリヴィエールの名において、この新たな生命に大いなる祝福を。キリエ・グロース」


 その声は静かで、けれど、とても綺麗で。

そうして、『祝福』の言葉が終わると、キラキラとした眩い雨のようなものが、子供たちに降りかかっていった。

それはやがて雪のようにその肌に溶けてゆき、触れた肌に温かな光をわずかばかり残してゆく。

これが、祝福の付与が終わったという証。

「ありがとうございました、女神さま」

「よかったねー、女神さまから祝福をもらえたよー」

礼儀正しくお辞儀するミースと、我が子の祝福の証を見てニコニコと笑みを向けるステラ。

どちらも、立派な母親になってくれることだろう。

「これにて、祝福の儀を終わりにしたいと思います。シスター、お祝いの席を」

「はい、こちらにどうぞ皆さん……それでは、失礼いたしますわ」

シスターの誘導に従い、僕以外の全員が、奥の部屋へと向かってゆく。

女神まで向かうのだからほんとに独りぼっちだ。

「……」

礼拝堂にかつて立っていた女神像は、今では無くなっていた。

本物の女神さまがおわすのだ、今更偶像崇拝もないだろうと、誰かが言い出し撤去したらしい。

僕もまあ、本人がいるのに同じ顔の像が立っているのは違和感があったので、それでもいいと思う。

けれど、誰もいないとそれはそれで、寂しいものだった。




「――エリクさん、これで、とりあえず当初のヒロインは全員、ですね?」


 ぼーっとしていると、すぐそばのカウンセリングルームのドアが開き、ミルフィーユさんが現れた。

「ええ、ガンツァーさん以外は全員」

種族柄ちょっと無理があるガンツァーさん以外、全員と子供を作っている。

ハーレムルートだからとはいえ、この短期間にここまで進めたのはかなり頑張ったと言えるんじゃないだろうか。

「後、例の女の子も、でしたか」

「そうですね」

未だ閉じ込められたままのあの女の子、と、ドクター。

もう三年くらい閉じ込められたままだけど特に問題ない辺り、もしかして心配するほど危機的な状況ではないのでは? と思ったものだけれど。

ミルフィーユさんもそれほど気にした様子もないし。

なので、今は焦らず、計画を進めることを優先する。

「でもエリクさん、熾天使ノアの計画は、まだまだ初期段階です。ここからが大変ですよ?」

「そうですね」

「世界はもう操作してあるのですよね? アリスさんは?」

「手放しで喜んでましたよ。『沢山の経験値ゲットできるわね』と」

「それはよかったです」

合間合間にアリス(ロイズの姿)と会う機会があったけれど、今のところ彼女的には問題ないらしい。

つまり、このくらいはあの人の想定の範囲内だったか、予想外にしても気にならないくらいの変化でしかなかった、という事だろうか。

今はそれでいい。そうやって気にしないでいてくれれば、どんどん進められるんだから。

「……エリクさん。私は貴方は、一人の女性だけを想っている方が、向いていると思ったのですが」

「そう、なんでしょうかね。僕ももう、なんだかよく解らなくなってきましたよ」

ミルフィーユさんはなんだか悲しげだった。

ハーレムルートとか親友エンドは不誠実かも、と言っていたくらいだし、この人から見たら今の僕は、それこそ不誠実な人生を積極的に推し進める奴に見えているのかもしれない。

でも、それでもいい。

もうこの人にどう思われても、進むべき道は決まってしまったし、今更引き返す気もない。


「これから僕は、沢山の人を愛しますよ。そして沢山の人と、子供を作ります」

「そう、ですね」

「僕の事、どう思いますか?」

「……かわいそう」


 これが、この人の本音なのかな、と、そう思えると、なんだかとても悲しくて。

けれど、きっとそれが本当の事なんだろうと、今の僕の、正しい姿なんだろうと思えると、なんだか情けなくて、涙が一粒零れた。

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