#13.謎の冬着美少女エリーちゃん15歳
「さぁ皆! 年末の感謝祭、いよいよ開催よ!!」
「「「おーーーっ」」」
冬も深まり、そろそろ年明けかという頃。
アーシーさんの音頭で、いよいよ感謝祭が開催される。
感謝祭というと、大体は厳かに年明けまでの期間を過ごすものらしいけれど、この村ではそういうしんみりとしたのはやめにして、年明けまで騒ぎ倒そうという感覚のおちゃらけた祭りになったらしい。
「じゃあエリク君、早く着替えないとね」
アーシーさんの宣言が終わるや、いそいそと村の人たちが家へと戻ってゆく。
仮装の為だ。
僕とミースも家路を急いでいたけれど、僕の気持ちは今一晴れない。
「やっぱり、僕もあの格好になるのかい……?」
「ならないと駄目よ。仮装するんでしょ?」
「うーん……」
仮装、といえば聞こえはいいけれど。
でも、ミースはとても楽しそうだった。
ロゼッタの作った衣装を、いたく気に入ったらしい。
僕はというと、それは勘弁してほしいと思ったのだけれど。
楽しそうなミースに、水を差したくないという気持ちもあって複雑だった。
結局家に戻るまで明確な打開方法など浮かばないままで。
ミースに「着替え終わったらリビングで」と言われ、部屋に戻る羽目になり。
そして、用意された衣装と向き合う羽目になった。
――女物だった。
冬用向きにもこもことした、温かそうな衣装ではあったが、ワンピースで下がスカートなのはいいとしても、胸元が開かれていたり、肩口が出ていたりと、ちょっとお色気も重視したような……本当に、なんで僕向きなのかが全く分からない。
更にタイツや可愛らしい女物のブーツまで用意されている徹底具合だ。
付け毛も用意されていた。
「うぐぐ……」
男としてのプライドが、これを着る事をためらわさせる。
けれど、村人として、確かにこれ以上の仮装はないなとも思える自分がいた。
「お待たせー」
「う、うん……」
かくして、諦めて用意されていたものを着てリビングで待つことしばし。
赤と白の魔女の格好をして出てきたミースは、僕の顔を見て「うーん?」と、今一納得していない表情になる。
「ど、どうしたの?」
「いや、エリク君……衣装着るの下手だなあって思って」
「そんな事言われても……」
女物の服なんて、着慣れる訳がないのだから仕方ないと思う。
胸元は開かれているけれど、僕は女性じゃないから胸だってないからスカスカになってるし、肩口だってなで肩だから上手く止まらずズレている。
タイツはともかく、ブーツはかかとが妙に分厚く、普段はいている靴と違って変な部分に力が入ってしまう。
「んー、足、プルプルしてるわね。ブーツは私のを貸したんだけど、立ってるの辛い?」
「かなり。これで一日中外にいるのは無理かなあ」
まして期間中はこれで農作業までやるのだから厳しい。
農作業そのものの疲れはほとんど感じなくなってきてるけれど、これはそういったものとは違う筋肉を使うと思う。
女の人ってすごいなあと、今更のように感じさせられる。
「じゃあブーツはまあ、エリク君の合うのでいいとして……まずエリク君、付け毛を付け直しましょうか」
どうやら上からしてダメだったらしい。
「ていうか鏡見てつけてる? 後、お化粧とかー」
「そんなの見てないよ……」
そもそも僕の部屋に鏡なんてないし、手鏡も持ってないしで理不尽だ。
女の人なら、それは持ってても当たり前かもしれないけれど。
「男の人でも持ってなきゃ駄目よ。とにかく、こっちきて」
そのまま引っ張られ、ミースの部屋に連れていかれる。
「エリク君はね、素材はいいのよ。ちょっとお化粧すれば……ほら」
ドレッサーの前で座らされて、そのままおもちゃにされる。
頬に冷たい液体を付けられ、細い筆で口紅を塗られ、目元やら頬やらに謎の粉を浴びせられ。
付け毛も一度外して付け直され、鏡の中にいた変な格好をした僕が、いつか見た美少女顔になっている。
「うん、これで謎の冬着美少女エリーちゃん15歳って感じになったわね♪」
ミースもご満悦だった。
「後、服の足りない部分は胸に詰め物とかしましょう。流石に男の子に女物の肌着をつけさせるわけにもいかないし、サラシでも巻けば丁度良く調整できるはずよ」
「肩口が緩いんだけど……」
「それはそういうお洒落よ。街で流行ってるの」
気にしなくていいわよ、とスルーされる。
「結構寒いんだけど?」
「ならカーディガンでも羽織ってなさい。私のを貸してあげるから」
浅葱色のカーディガンを渡されたので、そのまま羽織る。
なるほど、確かにこれなら寒さはなんとか耐えられるかもしれない。
「……今更だけど、僕ってミースとそんなに体型変わらないんだね……」
「そうねえ。背丈以外は、そんなに変わらないんじゃない?」
背丈と、後胸もだけれど。
女の子とそんなに体型が違わない男って、それはそれで問題がある気がするけれど。
「でもやっぱりいいわねえ。エリク君が女の子の格好してると落ち着くわ♪」
かわいいかわいい、と、頭を撫でられてしまう。
ミース視点では妹か何かが出来た気分なのだろうか。
けれど、その扱いもどうかなあと思ってしまう。
「ミースは、僕が女の子の方が嬉しいの?」
「そんな事はないわよ」
割と本気でミースが「そうよ」なんて言ったらどうしようかと思ったけれど、流石にそこまででもないらしい。
ほっと安堵する。けれど。
「でも、見られるタイミングがあるなら積極的に見たいわ」
僕のこの姿は、かなり前向きに受け止められているらしかった。
ミース的に、これはもう隠す必要のない趣味になってるんだと思う。
「僕は、男らしいところを見て欲しいんだけどなあ」
「えっ」
思いを告げても、驚かれてしまう。虚しかった。
「エリク君の男らしいところなんて、いつも見てるじゃない。意識するまでもないわよ」
意外と見てくれていたのは嬉しいけれど。
でも、今は女装の方が貴重だと思われているのだ。
早速スケッチブックを取り出して描き始めている。
安定のミースだった。
「うひょーっ、かわいこちゃんが二人もっ! ちーっすっ!!」
一通りスケッチの時間が終わって家から出ると、同じタイミングで隣に新たにできた小屋から出てきた若い男が軽い声をあげる。
この間村の仲間になった、元野盗のシギーである。
僕がメリウィンで使ったかぼちゃ頭のおさがりを被ってこちらに挨拶をしてきた。
「シギー、この娘見てどう思う?」
「どうって……すごい好みっすよ! デートとかしたい!!」
シギーはとても素直な奴だった。
蹴り飛ばしたくなる素直さだけど。
「ですって? してあげたら?」
「僕はミースとデートしたいから無理かな」
「ふぇっ!?」
「うぉっ、その声……もしかしてアニキっすか!?」
今のちょっとびっくりしたミースは可愛かったけど、それを楽しむ間もなくシギーが今更なことを言ってくる。
やはりというか、村人はこれを僕の仮装ではなく、謎の美少女の登場と考えてしまうらしい。
「うっわ……アニキって、すごい可愛い女の子だったんすねえ」
「男だよ」
ふざけているのか本気なのかもわからないけれど、変な誤解をされても困るし、誤解じゃなければそれはそれで男としてプライドが傷つくしで、色々と複雑な気持ちになってしまう。
「それはそうとミース、デートだ」
「えっ、いや、ちょっ……そ、そういうのは――」
これ以上シギーに構ってやる気もない。
今は、可愛い格好をしたミースと楽しみたいのだ。
手を握ってさっさと離れる。
ミースも「そんな引っ張らないで」と叫ぶけれど、顔を真っ赤にしながら僕の顔を見られなくなっているのが可愛かった。