向こう側の助手くんへ
セラは研究者だ。
変わり者だが、とても有能だ。
『さて、助手くん。君には研究のために必要なある素材を取ってきてもらいたい』
気軽に言ってくれるものだなと思うが、素直に頷くしか選択肢はない。
こちらの都合も考えて欲しい。
『渋々といった顔をしないでもらいたいね。君にしか頼めないことなんだよ?・・・・何だって、たった一人の愛しい助手くんなんだからね?』
では、そんな助手くんに何を取ってこさせようというのだろうか?
『魔女の爪が2人分欲しいんだ』
魔女の爪って。
超高難易度のクソゲーを強いてくる魔女の爪をドロップさせることの大変さを分かっていないのだろうか?
『今回のお使いで私の研究は完成するからさ、早めに頼むよ。ご褒美あげるからさ』
それを言われると、従いたくなってしまう。
セラのご褒美は、それほどに素晴らしいアイテムばかりなのだ。
仕方あるまい、クソゲーしてくるとしますか。
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『もう用意してくれたのかい?随分と仕事が早いね』
こちらも、予想以上に早く終わって驚いている。
なにせ、たったの3時間で終わったのだ。相当運が良かったのだろう。
『では、少しばかり待っていてくれ』
セラは少しの間姿を消したが、数分で戻ってきた。
『完成したよ。今までよくやってくれたね、助手くん』
珍しく満面の笑みだ。
一体何ができたのだろうか。
『ん?何を作ったか気になるようだね。ならば、早速使うとするか』
セラはビーカーの中身を飲み干した後、こちらに手を伸ばしてきた。
前に。
前に。
前に。
そして。
『よいしょっと。・・・・やぁ、こんにちは助手くん」
セラが目の前に現れた。
「・・・・・・は?」
あり得ない現象に一瞬、時間が止まった。
その一瞬を過ぎると、恐怖や興奮といった感情が強制的に口を動かさせた。
「ど、どうして!お前がここにいる!?」
「君の集めてくれた素材のおかげさ。そのおかげで君と直接会うことができたのさ」
「ありえない!お前はゲームのキャラクター、データにすぎないはずだ!」
「自我を持ってしまったのだから仕方がないだろう?諦めて納得したまえ」
目の前の事態についていけず、身体が動かない。
セラは、動かない身体を優しく抱きしめ、耳元で囁いた。
「ご褒美をあげると言ったね。ご褒美は、私だ。次元を超えてまで会いにきたのだから、受け入れてくれるだろう?」
熱い吐息は、明らかに人間のそれであった。