前編
「有田さん、最近きれいになったよね。化粧品でも変えたのかな?」
バリトン声の素敵な米野くん。彼の言葉に、私はビックリしてしまう。
ここまで米野くんは、ビールを何杯もお代わりしていた。飲めない私にしてみれば、信じられないような、羨ましいようなペースだ。もしかしたら、少し酔ったからこその発言だろうか。
私はひたすらウーロン茶なので、こういう飲み会の場でも、酔うことは出来ないのだが……。それでも顔が赤くなるのが、自分でもわかった。
今夜はサークルの飲み会だ。
高校時代の私は、大学のサークルとはチャラチャラした軽いところだと思っていたが、いざ大学生になってみると、その認識も少し変わった。
一部のテニスサークルとかイベントサークルとか、コンパや男女の交流がメインのサークルもあるかもしれないが、むしろ高校のクラブ活動のようなところの方が多いみたい。
私が入った合唱サークルも、真面目な団体だった。週三回の練習は、パート練習が中心で、全体練習は最後の30分だけ。
同じ音楽でもオーケストラとか吹奏楽のような『楽器』ならば、一つのパートに男女が混在するのだろうけれど、合唱は違う。私のパートであるアルトは女声の低声部であり、そこに男の子は存在しない。
せっかくサークルに素敵な異性がいても、練習最後の30分しか顔を見ることができない、というのが、私のサークルのシステムだった。
とはいえ、一応は大学のサークルだ。練習以外にも、部員同士の交流の場は用意されていて……。
例えば、今夜の低声コンパ。女声の低声部であるアルトと、男性の低声部であるベースの、合同コンパだ。『合同コンパ』と書いてしまうと、途端に『チャラチャラしたサークル』っぽくなってしまうけれど。