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ループ五回目の伯爵令嬢は『ざまぁ』される前に追放されたい  作者: 星里有乃(星井ゆの花)
時を超える手紙

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05


 ついに、その日がやって来た。


 聖女フィオナがクルスペーラ王太子と婚姻することは、朝一番のニュースになった。そして、ヒメリア・ルーインは婚約破棄になるどころか、異端審問にかけられるという。


『聞いたか? まさか、赤毛の魔女たる特徴を持つ聖女フィオナが王妃の座に収まり、聖女そのもののヒメリア嬢が異端審問にかけられるなんて』

『魔女裁判と呼ばずに異端審問と称するところを見ると、フィオナ様に配慮しているように思えるけどね』

『しっ……この島の大半は既にフィオナ様に深い信仰を持っているのよ。悪口を言っているように思われたら大変。ヒメリア嬢は可哀想だけど、ここは自分や家族を守らないと』

『明日は我が身か、この島は本当に狂ってしまったんだよなぁ』


 結婚式の招待客は、その殆どがフィオナ信仰に篤い信者が中心である。本来ならば、王族の結婚式にはそれなりの家柄では無いと招かれないが、今回は家柄よりもフィオナへの忠誠心が基準だ。

 そのため、これを機に自分達の家を繁栄させたいと願う野心家がこぞって聖女フィオナを支持する方向性に動いた。


『フィオナ様についていけば、いいメシが食える。いいものが着れる。これまで差別されていた者でも、飛躍のチャンスが貰えるんだ!』

『一見、フィオナ様は素晴らしいのに。どうしてヒメリア嬢のことをあんなに憎んでいるのかしら? それさえなければ、心の奥底からフィオナ様を信仰できたのに』

『因果だよ、因果。今世だけで生まれた憎しみじゃなく、前世から続く深い憎しみが彼女を変貌させたのさ。なんせ、ヒメリア嬢はこの島の古い古い女神様に瓜二つらしいからな』


 一般庶民に豪華な食事を振る舞うフィオナは、見ようによっては本物の聖女だ。フィオナの中で聖女らしからぬ部分は、ヒメリアへの憎しみが人々の想像以上に大きいことくらいだろう。


 悪夢のようなループ四回目は、ヒメリアにとって残酷な結末を迎えた。が、何処かに存在しているであろう普遍の神はヒメリアを見捨てなかった。


 糸車が回転するように時の輪が廻り、ヒメリアは五回目のループを迎える。五回目のヒメリアは女神と瓜二つと言われる亜麻色の髪を短く切り、因果を断ち切るように女神と決別を果たす。


「なかなか似合うじゃない!」


 島を出るために思い切ってハサミを入れたヒメリアの髪。もう、タイムリープのための糸車の絹糸は残っていなかったが、代わりにヒメリアの髪が因果を廻す。

 意外なことに修道女さながらのショートヘアとなった彼女の容姿は清廉かつ活動的で、長い髪とは違う魅力に溢れていた。そして、その微笑む姿は古代女神の面影はなく、ようやくヒメリアが自分自身になれた瞬間だと言える。


 紆余曲折を経て無事に船に乗り込み、一度は大陸へと渡ったヒメリア。修道女見習いとして入会した教会本部の協力のもと、赤毛の魔女と化したフィオナを浄化する計画が実行に移された。



 * * *



 中央大陸の修道院で暮らすようになってから、ヒメリアの日々は忙しく過ぎていった。孤児院の子供達の世話や、悪魔祓いの仕事など意外とやることが多い。

 クルスペーラ王太子の婚約者だった頃には発揮できなかった聖女の浄化魔法は、大陸に渡ってから習得したもの。ヒメリアは自分自身でさえ気づけなかった可能性を、あの島を出てようやく開花させたのだ。


 ペリメライドでのタイムリープは、今では御伽噺のような夢の中の出来事だったのでは無いかとさえ思ってしまう。


(実際に、子供達に聞かせても大丈夫な範疇で読み聞かせのテーマになっているし。今回のクリスマス会でも、ペリメライドでのタイムリープ事件は魔女の呪い事件として話したわ。徐々に御伽噺扱いになるのかしら?)


 修道院主催のクリスマス会が無事に終わり、孤児達と遊んだ部屋は一つずつ閉じられる。ヒメリアも他の修道女と手分けして、飾り付けの片付けのため部屋をまわっていく。すると談話室では、まだお話しを聞きたいのか、絵本を片手に暖炉の前で待っていた子が二人。


「ねぇ、ヒメリアお姉ちゃん。ペリメライドの赤毛の魔女の話は分かったけど、その後ヒメリアお姉ちゃんはどうやってフィオちゃんを助け出したの」

「そうだよ! 僕、どちらかっていうと恋物語より冒険譚の方が知りたいんだ」


 男の子と女の子の兄妹は、どうやらヒメリアの冒険譚に興味があるらしい。確かに本物のフィオを取り戻すエピソードは、聖女の魔力を得てから初めての冒険譚と言える。


「まぁ。私はいいけど、貴方達はもうすぐ消灯時間でしょう? 日を改めて続きをお話しするのはどうかしら」

「えぇっ僕まだ眠くないよ。だって、夜の九時を過ぎたところだよ」

「すぐに夜の十時を過ぎてしまうわ。子供の時間としては、そろそろ限界よ。サンタさんだって、子供達がいつまでも起きていたら素敵なプレゼントを枕元に置きにくいでしょう?」


 眉を顰めて不満を見せたが、サンタさんからプレゼントを貰いそびれるのはもっと困るようだ。


「じゃあ、年末年始のお話し会ではフィオちゃん奪還話を聴かせてよね。約束だよ」

「ええ、約束するわ。だから今日はサンタさんに迷惑をかけないように早くベッドについてね。二人ともお休みなさい」

「はぁい。お休みなさい」


 部屋に戻る二人を見届けたのち、ヒメリアは自分もサンタさんからプレゼントを貰っていたことを思い出す。レオナルド公爵からのプラチナリングと、正式なプロポーズだ。


(まだ、もう少し考えさせてね。公爵様)



 今年のクリスマスの夜は、ほんの少し寂しくて。けれど明日への鋭気を養うための優しさに溢れていた。


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* 2024年04月28日、第二部前日譚『赤い月の魔女達』更新。 小説家になろう 勝手にランキング  i1122560
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