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案内された喫茶店の占いコーナーは、白い陶器の香炉でラベンダーの香りを焚いて、淡い色のハーブが飾られていた。
ナチュラルな木目のデスク、白いレースの布の上に、タロットカードや水晶がさりげなく置かれている。全てが優しい女性らしいカラーリングで、どちらかと言うとアロマセラピーのコーナーと言った方がしっくりくる。
「ふふっ。まるでアロマかハーブティーのショップみたいでしょ。怖いイメージじゃないから、安心してちょうだい」
「ええ。なんだか、あんまり占いって感じじゃなくてびっくりしました。もっと黒い布で包まれていて、呪術とかスカルとか飾られているのかと。大陸では魔女ってこういうナチュラルなイメージなんですか」
「それはきっと黒魔法のイメージね、私は魔女の中でも白魔法を引き継いでいるから。ハーブティーやアロマオイルで困っている人を助けたり、民間療法とか東方の漢方のイメージに近いかな? アロマやハーブも魔女の領域なのよ」
どうやら、レイチェルの中にあった魔女のイメージは、完全に黒魔法寄りのイメージだったようだ。スカルや呪いを使った怖いイメージのものが黒魔法で、アロマやハーブオイルは白魔法ということらしい。どちらも魔女には違いないのだろうが、悪い方の魔女ではなくて助かったとレイチェルは内心思った。
「では、さっそくはじめましょうか。レイチェルさん、貴女今気がかりなこととかある? 取り敢えず一枚引きでタロットを引いたけど、恋人のカードの逆位置っていうのが出たんだけど」
占いの素人であるレイチェルでも恋人のカードが正位置ならば意味合いがよくて、逆位置だと恋愛トラブルを示すのだろうということくらいは察することが出来た。
「私、この国の花嫁候補会って言うのに入っているんです。次期王妃の候補が集まっているんですけど、友人のカシスがおそらく王妃になるだろうって。あの子、昔は良い子だったのに、取り憑かれたように人を見下すようになって。あと、博物館で特別展示しているダイヤモンドもすぐにでも返して欲しいと」
「まぁ! 博物館だって特別展示のチケットを売ってしまったはずだわ。開催期間を早めに終わらせたら、チケット代を博物館側が返すようになっちゃうじゃない」
「ええ、カシスは権力を振りかざし過ぎで。博物館の経営まで潰されるなら、私が花嫁候補会を抜けるしかないのかな」
カシスの横暴は特に急ぎの理由があるわけではなく、真面目に博物館で働くレイチェルを苛めたいようにしか見えない。勤勉で清楚なレイチェルに花嫁の座を奪われる危機感が、常にカシスの中にあるのだと、博物館関係者は時折噂していた。
「それにあのダイヤモンドは元を辿ると、この国で発掘されたものだから。個人所有というよりは、博物館展示の方がいいと思うわ。曰く付きだしね……」
大陸の魔女の方が、向こうで有名な曰く付きアイテムに詳しいだろうし、言っていることは大体あっているのだろう。要は、曰く付きアイテムの取り扱いに困った宝石管理連盟が、上手いことカシスの家を乗せて、この島にダイヤモンドを返して来たと考えるのが妥当のようだ。
「つまり、曰く付きアイテムを元の場所に戻しただけと……そういう、カラクリだったんですね。別にカシスが特別な存在として選ばれたわけじゃ無かったんだわ」
「そういうことね、けどもし花嫁候補会を抜けたいなら、良いチャンスかも知れないわよ。そのカシスって子はそれを望んでいるのでしょう。きっとレイチェルさんさえ居なければ、自分が王妃になれると勘違いしているのね。なれないのに」
あっさりと、カシスは王妃にはなれないと断言してしまったリーナに、レイチェルは驚いてしまう。しかもごく当然のように、きっぱりと言い切った。
「えっ? 今、なんて……」
「実はね、先に花嫁候補会のザックリとした情報は、我々大陸の魔女協会の方に届いているの。どの占い師が見ても、カシスさんが王妃様になれる可能性はないから。本人と周りが勘違いしてしまっているのね。それと、残酷なようだけどレイチェルさんも王妃様になる可能性は今の時点ではないわ。けど、今より明るい未来を作ることは可能よ!」
「えっ? カシスでも私でもない? あの、自惚れるわけじゃないですけど、何人かの花嫁候補が離脱したせいで、ちょうどいい女性は私とカシス以外残っていないんです。それとも、意外とあまり爵位の高くないお嬢さんとまとまるのかしら? それなら可能性はあるけど……」
ある程度爵位などの身分で王妃を決めると思われていたが、そのほとんどは縁戚婚になっている。爵位は低めでも、縁戚でない娘から選ぶのか知れないとレイチェルは考えた。
本当に誰とも纏まらなかった時のために、年齢の低い少女を二人確保しているが、もう少し早い結婚をと急かされるようになった。やはり、レイチェルと同世代から選ぶしか道はない。
「うん。これ以上は個人情報だから、言えないけど。可能性のない問題のために、自分を犠牲にすることないわ。自分のやりたいことがあるのなら、しばらくこの島から離れるのも良い方法かもね」
「自分がやりたいこと……私、王妃候補じゃなかったら、もっと勉強したかったな」
レイチェルの中で一つの答えが導き出されたようだった。
(そうよ、この島の呪いはそうそう解けないわ。だけど、不幸な結末を迎えなくてもいい子には早めの離脱を願う。それが、赤毛の魔女から分離した善の白魔法使いである私、リーナの役目)
結局、カシスの横暴から博物館を守るために、レイチェルは留学をしたいという体裁を作り、島を離れた。一周目のタイムリープとは違うタイミングで、レイチェルは離脱したが結果はそれほど変わらなかった。




