01
赤毛の少女フィオが、本物の魔女に挿げ替えられている頃。網元の娘ヒメナの子孫であるヒメリアも、不思議な夢に苛まれていた。
まだ十歳のはずのヒメリアは、大人のお姉さんになっていて他の人達は皆ヒメリアのことをヒメナと呼んでいた。
(私、ヒメナなんて名前ではないのに。それにどうして大人の姿になっているんだろう?)
ヒメナは日課で族長の息子クリスに会っており、体裁上は網元の娘として漁業の報告を行なっていることになっているが、実のところ二人きりの時間を作る口実だった。
クリスは銀髪に褐色の肌の端正な美青年で、髪や肌の色が違うクルスペーラ王太子といった印象を持った。
彼が笑ったり動く姿をヒメナ越しに見ると、クルスペーラとの違いは色合いだけでなく物腰や表情だということもよく分かる。そして、女性人気が高く恋心を抱くものは後が絶えない様子。
(クリスさんってクルスペーラ王太子みたいに王子様っぽくはないけど、男らしくてカッコいい人だな。島の女の子達が夢中になるのも当然かも)
ヒメリアは子供ながらに、クリスという男性が頼り甲斐のある魅力的な人だと理解した。
だが、意外なことにそのモテ男のクリスはヒメナの婚約者のようで、ヒメナはいつも島の女性達から嫉妬されていた。嫉妬に耐えながらもクリスとの結婚を信じて頑張っていたヒメナに、突然別れ話がやってくる。
『ごめん、ヒメナ。フィオリーナと結婚することにしたんだ。女神様の予言とは違う未来を選ぶことになるが、自分の心に従うよ』
クリスの後ろには手の甲に包帯を巻いた赤毛の美女フィオリーナがいて、まるでフィオを大人のお姉さんにしたような容姿だった。ヒメナよりも胸が大きく強調するようなスタイルで、同性から見ても色っぽいことが分かる。
心変わりで婚約破棄されたヒメナの気持ちを考えると、彼女のあまり大きくない胸が痛んだ。
(ヒメナは子供っぽいから、振られちゃったのかな)
いつしか時代は流れて、フィオリーナはこの島の女王になっていた。だが、余所者のフィオリーナを以前から快く思っていなかった島民達に吊し上げられて、いよいよ魔女狩りで処刑というところだった。
フィオリーナはかつての恋敵ヒメナの霊魂と手を組み、魔女の因果を断ち切るための魔術を使った。蚕の糸車がくるくると廻り、タイムリープの魔法が発動する。
『貴女の因果と私の因果が巡り合い、この島が魔女の呪縛から解放されるまで……この時は繰り返す……!』
* * *
「はっ……夢、か」
ヒメリアが目を覚ますと夢の中でヒメナだった時とは違い、十歳の小さな女の子の姿に戻っていた。ベッドから出て床に足をつけると、フローリングに白い糸が落ちているのを見つけた。
「何だろう、これ?」
何かの糸のようなものが、結び目の途中でプッツリと切られていた。何かを結ぼうとして切ってしまったものなのか、ヒメリアには検討もつかない。
(変な夢見ちゃったな、フィオちゃん元気かな……)
今日も教会で花嫁候補会の勉強があるはずだが、フィオは下宿先のおじさんとおばさんが亡くなってしまったことで、塞ぎ込んでしまって欠席のはずだ。しばらくは、ヒメリアとクルスペーラ王太子の二人だけの勉強会となるだろう。
すると、メイド長やお母さんがウキウキしながらやって来て、驚くようなことを告げた。
「ヒメリア、今日はカシスさん主催の宝石会の日ね。お母さん、バルティーヤ卿の作る宝石は結構、贔屓にしているのよ。将来のために、ヒメリアにも何か買ってあげましょうね」
(カシスさん……? お母さんは、一体を何言ってるんだろう。カシスさんは落石事故で亡くなっているはずなのに。それともそういう内容のお別れ会でもするの?)
万が一、ヒメリアの勘違いでカシスは死んでなかったと仮定すると、今カシスの葬儀の話をすることは自分の親とはいえ、信用を失うだろう。ヒメリアは言いたいことをグッと堪えて呑み込み、話の流れを掴もうとする。
「今日の会にはクルスペーラ王太子も出席するの?」
「当たり前じゃない、ヒメリア。だって今日の会は花嫁候補会の一環ですもの。ただ、例の中央大陸からやって来た少女もいるらしいのよね。大陸貴族の流れを汲んでいるらしいし、揉めないように気をつけないと。ヒメリアも、初めて会うお友達と喧嘩しないようにね」
「初めて会うお友達……えぇと、その子の名前は……」
中央大陸の貴族の流れを汲んでいる娘で、最近花嫁会に加入した少女はフィオだけのはず。フィオとヒメリアは何度も一緒に勉強会をしているし、母親がフィオの存在を知らないはずはない。だが、母親に限らずヒメリアでさえも、その少女と初めて会うような言い回しに困惑する。
「女の子の名前? 確か、フィオナちゃんよ。中央大陸で聖女の称号を得ている神童フィオナちゃん。強力なライバルになるけど、それと人付き合いは別……ヒメリアも仲良くすることを心がけて」
「フィオ……ナ? フィオちゃんじゃなくて、フィオナちゃん」
ヒメリアはこの時、いつの間に時間が巻き戻った挙句、違う未来が始まってしまったことに気づいた。
――それは、波乱のループ二周目の幕開けであった。




