08
たった二人となってしまったクルスペーラ王太子の花嫁候補は、二人とも同い年の十歳だった。島の酒場では世間の噂話も多く、酒が入るとタブー視されていた話題も自然とあがる。
『結局、クルスペーラ王太子の花嫁候補会って、カシスさんが亡くなって実質消滅したんですってね』
『まだ十歳の女の子を二人だけ残して解散だなんて、これはしばらく嫁取りの話題自体避けたい方針なのだろう』
『その二人の女の子達だって、本当に嫁入り出来る年齢まで無事でいられるかどうか……。おっと、少しばかり言い過ぎましたな』
ペリメーラ島の網元の子孫であるヒメリアと中央大陸から渡ってきた赤毛の少女フィオは、まるで御伽噺を再現したかのように伝承の人物達と被っていた。
『本当の伝承かは分からないが、この国の王族の初代は本来網元のお嬢さんを嫁に取るつもりだったんだろう。それが心変わりして、大陸からやって来た少女に乗りかえてしまった』
『ああ……そのお話か。怒った女神様は、族長の息子の命を奪ったが、子孫は王族となって現在に至るんだっけか。まぁこの島は、王族が出来てから代々島民じゃなくて大陸から花嫁を貰うのが伝統なのかねぇ』
『そりゃあ貿易のことを考えれば、常に中央大陸とのパイプ役が必要になるしなぁ。けど、代々大陸から嫁を貰ってたんじゃ、そのうち現地人の血が薄くなってしまう。いい加減そろそろ、網元の一族から花嫁を娶らないといずれ女神様の呪いが……』
『何処までの話かは知らんが、ルーイン一族も今回でその伝承から解放されたいんだろうよ。けど、まさか十歳の女の子を花嫁候補として残すなんて、随分と勇気があるなぁ』
だが、島に伝えられている伝承が真実か否かは今となっては確認する術もなく、おそらく御伽噺と被る人物を敢えて最後に残したのだろうとの評判だった。
* * *
おそらく亡くなったカシスと特別な関係を結んでいたであろうクルスペーラ王太子は、ひどく心が荒れていた。無理矢理別れさせられるどころか、相手は不自然な形で突然亡くなってしまったのだから。
「何故、カシス姉さんを殺したんだ? 答えろっ!」
「違う! 私じゃ、私じゃないっ」
王宮内で暗部と呼ばれる仕事を受け持つ者達を片っ端から尋問していく王太子は、復讐に取り憑かれた悪魔のようだった。
「だって、おかしいだろう? 早く次の王妃を決めてくれ、世継ぎが欲しいという割に、最も可能性のある女性が死んだ。残りの少女が王妃となり、世継ぎを産めるようになるまで何年かかると思っているんだ?」
「ひぃいいいいっ。しかしながら、大陸の推薦者が来てから、ゆっくり検討するという計画でしたので」
「じゃあなんで大陸から来た少女も婚姻年齢に程遠い、十歳の女の子なんだ! そんな子供がすぐに花嫁になれるはずもないのに。やはり僕に王位を継承させたくないだけだ」
彼の感覚では年頃の娘の中で、最も親しかったカシスと結婚するのが自然の流れだと考えていたのだろう。婚姻を急かす割に、花嫁候補の年齢を一気に引き下げたことも王太子の中で周囲に対する疑いが深くなる。
「医者が言うには、同じ一族同士で結婚を繰り返すといずれ特定の病気に弱くなるとされています。ですから、親戚ばかりとなっている島民から嫁取りをするより、大陸から遠い血を入れた方がと」
「だが、王家は何回も大陸から花嫁を貰っていて、特定の貴族の血が濃いとまで言われている。矛盾ではないか。それとも、いずれこの島は大陸の植民地になるのか?」
「そんなことは考えておりません!」
もしかすると、ただ単に自分に王位を継承させたくなくて婚姻を遅らせているだけなのではないかと疑うのは、仕方がないことだった。最悪の場合は植民地化するために王族自体を無くそうと考えているのではないかと、警戒するようにもなってきた。
「ちっ……! もういいっ。大陸以外の花嫁候補も小さな女の子を残したそうだが、その子は本当に無事なのだろうな。まさか、また……」
「クルスペーラ王太子、落ち着いて下さい。カシス様は、本当に不慮の事故で亡くなったのでございます。本当です……呪われているとしか」
「呪いを解く方法を考えましょう。島の伝統に則って、かつて女神がこの島にいらっしゃった頃の伝統に!」
疑心暗鬼になっているクルスペーラ王太子からすると、呪いだ女神だと語り始めた王宮の人間達が全員自分の敵に見えてしまう。
せめて残りの花嫁候補達と面会だけでもと勧められたが、今度もまたどちらかの身に何かが起きたらと考えるだけで、少女達に会うのを躊躇するのであった。




