表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/72

02


「皆のもの、よく集まってくれた。今日は王宮を解放して、我が国の跡継ぎクルスペーラ王太子と聖女フィオナ様の婚姻の儀を行う。盛大な宴は、すべての民と愉しむつもりだ。さあっ存分に飲めっ! 歌えっ!」

「「「うぉおおおおおおおっ」」」


 王太子クルスペーラと聖女フィオナの愛を誓う記念の結婚式は、特別に王宮の庭を開放し屋外に祭壇を設置して島中の民を集めて開かれた。


「クルスペーラ王太子に栄光あれっ! 聖女フィオナ様はこの世の女神であるっ。我々に振る舞われる料理の数々は、彼らに従う契約の証である」


 普段は見ることすら叶わない高級な料理や酒が庶民にも振る舞われ、宴は飲めや歌えやのお祭り騒ぎ。それらがすべて、国民にかけた魔法洗脳を強化させるための呪われし料理とも知らずに。


「いやぁメデタイ、メデタイ! 聖女フィオナ様の御慈悲で、我々庶民もこんな旨い食べ物にありつけるんだ」

「この島国はフィオナ様の神がかり的な占いで、もっと将来良くなると噂だよ。あとは……悪魔の申し子と予言されるあの娘さえ殺して仕舞えば」

「おぉ! フィオナ様が自ら、悪魔の申し子ヒメリアを断罪されるぞっ」


 一見すると賑やかで愉快なその結婚式は、実のところ非常に残酷で、極めて異質なものだった。


(酷い、酷いわ。私、何もしていないのに。いえ、私だけではなく、お父様もお母様も使用人も……私の味方をする者は皆、処刑されてしまった。残るは私だけ……)


 純白のウェディングドレスに身を纏った聖女フィオナの手には、ケーキ入刀ならぬ断罪のためのオノがギラリと光る。処刑台に向かう新郎新婦は、言葉が出せないほど痛めつけられ縛り上げられたかつての王妃候補であるヒメリアを殺すために、足並みをそろえる。


「ひひひっ! ざまぁみろぉおっ。ヒメリアッ! あの世で生まれてきたことを悔やむがいいですわぁあああっ」


 ザシュッッッ!


 返り血が純白のウエディングドレスに飛び散った。ヒメリアの視界は曖昧にぼやけて、肉体から魂が乖離してしまった。それは、清らかな伯爵令嬢のあまりにも哀しい結末。


 残念な事にヒメリアの四回目の転生の記憶は、そこでプッツリと途絶えていた。



 * * *



「はぁはぁっ。やめて、助けてっ」


 かつての婚約者とその恋人に断罪されるという恐怖のシナリオ、息苦しさを覚えて目覚めると……そこは見慣れた自室だった。ふかふかのベッドはご令嬢に相応しい豪華なもので、先ほどまでの悪夢はただの杞憂ではないかと疑ってしまう。

 けれど、自分の首筋を鏡で確認すると……うっすらと断罪の傷痕が浮かび上がり、そして消えていった。タイムリープが完了したと言わんばかりの神からのメッセージ。聖痕の如く最初目覚めと共に浮かび上がったそれは、ヒメリアに悪夢は悪夢ではなく、パラレルワールドでの悲劇だと教えている。


「この傷痕、あらっ消えたわ。うぅ……微かにまだ痛い気がする。まさか時間が巻き戻っているの。それとも同じ人生をもう一度繰り返してる……五回目よね」


 目が覚めると再び、伯爵令嬢ヒメリア・ルーインに転生していたのである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
* 2024年04月28日、第二部前日譚『赤い月の魔女達』更新。 小説家になろう 勝手にランキング  i984504
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ