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「では、みんな……クリスマスのお話は楽園の島ペリメライドに伝わる赤毛の魔女のお話よ。もしかしたら、誰かの前世の話かも知れないんですって」
シスターマリア……即ちヒメリア・ルーインが、クリスマス会で子供達にねだられて話す楽園の島の御伽噺。それは、聖女ヒメリアと赤毛の少女フィオの因縁の原点であり、ともすれば彼女達の前世であるかも知れぬ物語である。
* * *
むかしむかし、遠い昔。
未だ、人と精霊が地上で共に暮らしていた頃のお話しです。
大きな海の真ん中に、ペリメーラと呼ばれる島がありました。ペリメーラ島の別称は楽園の島。精霊と女神信仰によって成り立つ、本物の楽園、後の世でペリメライドと呼ばれる国の前身です。
『ペリメーラの民よ、この私……女神ペリメーラを信仰するのならば、あなた方には絶え間ない幸福と充足を与えましょう』
「「「女神様、万歳! 女神ペリメーラ様こそ、我らが生きる希望っ!」」」
人の手を使わなくても果物が自生し野菜が育つ、周辺の海には美味しい魚が海遊し、温暖な気候のおかげで冬の寒さに怯える心配もありません。ペリメーラ島に生まれた人々は特別な苦労をしなくとも、自然の恩恵……即ち女神ペリメーラ様の加護のおかげで楽に生活することが出来ました。
「はぁ。何にもしなくても大体の食べ物は手に入るし、服の素材も植物からいろいろ作れるし。こんなに恵まれていていいのかねぇ」
「でも、たまには外のものも食べたいよね。漁師さん達、早く遠洋漁業から帰って来ないかなぁ」
「しっ……! 贅沢言って、女神様の耳に入ったらどうするんだい?」
敢えて、危険を侵す可能性のある職業を挙げると漁師さん達でしょうか? 周辺で取れる魚よりも少し贅沢なものを望んだ場合、海原を船で行くことで、ペリメーラ島では手に入らない魚を入手していました。ペリメーラ島を統べる女神様が、その贅沢を認めていたかは定かではありません。
「今度、大陸国に貿易に行って珍しい酒や煙草を買い付けてこようと思うんだ。このペリメーラ名物の果物や魚を物々交換してさ」
「えっ……ペリメーラ島の品物は、島外へ持っていっちゃいけないんじゃ……」
「いつまでも古い習慣に囚われて、鎖国してたら世界から取り残されるぞ。ともかく次の遠洋漁業は大陸に向かい、貿易のルートを確立するからさ」
「女神様の言いつけを守らないなんて、罰当たりな……」
女神の言いつけを守らず、大陸国にペリメーラ島の果実や魚を持ち込んだある日。貿易に向かった漁師の一人が波に飲まれて死んでしまいました。ペリメーラの島民が事故で亡くなることは珍しく、女神の加護が及ばない海域まで進出したせいだと人々は怯える様になりました。
「あぁ……欲に駆られて、ペリメーラ島の外洋になんか出たから、ついに人が死んだんだ。やっぱり、ペリメーラの民は島の周辺だけで生きていきゃいいんだよっ。変に外の世界に関心なんか持たずにさ」
「けど、考えようによっては、女神様のご加護が本物だったということにならないかね。島の海域だけで漁をしている分には絶対に人なんか死なないんだから」
「まぁそう言われてみれば、そうなんだが……」
また別のある日、今度は難破した船と今にも海に飲まれそうな大陸国の男と赤毛の少女を発見しました。男の方は立派な軍服に身を包み、かなり地位の高い人物であることが窺えます。
男と赤毛の少女は今にも息絶えそうでしたが、まだ女神への信仰が残っていた漁師は、大陸国の男をペリメーラ島へと連れて帰ることにしました。島に自生する薬草で煎じた薬と島民の看病が功を成したのか、男と少女は一命を取り留めました。
「ん……ここは?」
「おぉっ気が付かれましたか? 三日三晩眠りっぱなしで心配しましたが、女神様の加護が効いた様ですな。一緒にいた赤毛の少女も先程意識が戻りましてな。安心していいですぞ。あの可愛いらしい女の子はお連れさんか何かかな」
「赤毛の少女……? いえ、私の知り合いには赤い髪の者はいませんが。けれど、無事なら何よりです。お礼申し上げます」
当初、赤毛の少女と男は家族か何かだと予想されていましたが、大陸の男は赤毛の少女と面識が無い様子。おそらく、偶々乗船した中で生き残りがその二人だけだったのだろうと島民達は推測しました。
何はともあれ、命を助けられて良かったと、まだ女神様のご加護は健在なのだと……島民はすっかり信仰を取り戻しました。
ただ一つ、誤算だったのはその赤毛の少女こそが、将来この島に因果を残す【伝説の赤毛の魔女】だったことです。
『ここが、ペリメーラ島。私が探し求めていた楽園の島』




