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今回の作品にはいわゆる『ざまぁ系』のテイストを加えているため、少しだけ残酷描写があります。なるべく、オブラートに包んだ表現を心がけていくつもりです。一話あたりの文字数は、1300〜2000文字前後で調整済みです。よろしくお願いします。
これは清らかな伯爵令嬢ヒメリア・ルーインが、悲劇的なタイムリープの輪から抜け出すまでの物語。
* * *
断罪の始まりは、いつも王宮のパーティー会場だ。着飾った紳士淑女が次期王妃となる美しいご令嬢をひと目見ようと集まっていた。栗色の巻き髪を高く結び、華やかなドレスを纏った伯爵令嬢ヒメリアは、金髪碧眼の王太子クルスペーラと並ぶと絵画のようであり、まさに王妃となるに相応しい美女であった。
しかし、王太子クルスペーラと伯爵令嬢ヒメリアの結婚発表パーティーは、一転してヒメリアの処刑発表に変貌する。
「伯爵令嬢ヒメリア・ルーイン。貴様の悪行の数々、被害を受けた聖女フィオナから聞いておるぞ。そんな女を婚約者にしていたと思うだけで虫唾が走る。貴様はこの国の面汚し、婚約はもちろん破棄、死んで詫びるがいいっ断罪だっ!」
「そんなっ! 一体、どうしてそんな酷いことを?」
するとそれ以上ヒメリアに発言させないためか、甲冑姿の兵士が槍を手にヒメリアを一斉に囲み、抵抗出来ないように脅す。
「うふふ……そう言うことですわ、ヒメリアさん。そうだわっ私と王太子の結婚式を貴女の人生最後の思い出として、プレゼントしてあげるっ! ケーキ入刀の代わりに、この女の処刑を結婚の記念にするの」
「おぉっ。それはいい案だね、フィオナ。ヒメリアのような悪魔には、残酷なラストがお似合いだ。今から楽しみだな……ひひひっ」
実のところ今回の展開はヒメリアにとって、四回目のタイムリープである。懸命に運命を変えようと努力したが、神はヒメリアを救わなかった。
(気が狂っているわ。このカップル、いやこの国は……! 四回目の転生でもこの断罪からは逃れられなかった。あんなに頑張って、神に祈りを捧げたのにっ)
「さあ来るんだ悪魔めっ。ふんっ気の強い女と聞いていたが、聖女フィオナ様の神々しさの前では虫ケラも同然よ」
「貴様の処刑をフィオナ様は望んでおられる! 光栄に思えよ、最後に役立つことができてっ」
「いやぁっ離してっ」
クスクスと笑いながらヒメリアを見送る王太子クルスペーラと赤毛の聖女フィオナ。
「冥土の土産に、良いこと教えてあげるっ。この島国の民は、既に魔法洗脳済みなのっ。だから男達は、み〜んな私に夢中! 聖女フィオナの愉快な奴隷なのヨォ。あははっこの牝豚を痛めつけておやりっ」
ガックリとして項垂れるヒメリアは、抵抗する余力もなく兵士達に牢獄へと連行された。
* * *
優しかったはずの婚約者は、自分を裏切った。もはや洗脳されたクルスペーラ王太子が、ヒメリアの元に戻ることはないだろう。
『僕がキミを裏切ることなんて、あるはずないよ。信じてくれ』
かつて彼が微笑みながら、ヒメリアに誓ったセリフが虚しく胸に響く。悪魔のような王太子、フィオナの奴隷のように言いなりになっている兵士や民衆、魔法洗脳はヒメリア以外の人々すべての心に、到達してしまったのだ。
(嗚呼、神様……私はどうすれば救われるというのですか?)