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世界を救った聖女のおはなし

作者: 辺野 夏子

 

 昔昔、とあるところに一人の少女がおりました。


 彼女は散歩中にうっかり馬車に轢かれて死んでしまったのですが、女神様に『聖女として生き返らせてあげましょう』と言われ、頷きます。


 なにせ、このままだと次の輪廻はモモンガなのだそうです。彼女には野生で生きていく自信がありませんでした。


 そう言う訳で、少女は聖女になりました。魔王を見つけて倒さねばなりません。


 しかし、女神様は『あなたの好きなようにやりなさい』と言い残し、それきりでしたので聖女は途方に暮れ、とりあえず散歩をすることにしました。


 その途中、彼女は森の中で一匹の竜が倒れているのを見つけ、治癒します。


 竜と言うものは、寿命が長く、力が強く、数が少ない生き物なので、世間の人々からは恐れられ、敬遠されている存在なのです。そのため、この竜は二百年生きていて初めて女の子に優しくされたのでした。


 そんな訳で、竜はいたく感激し、聖女に永遠の忠誠を誓いました。


「聖女と言っても、何をするのかわからないのよ」


「このあたりには、珍しい魔法を使える人間を捕まえて、自分の城で働かせる悪徳貴族と、竜を襲ってその肉を食らう恐ろしいエルフが出ると聞きます」


「この辺りは、そんなに危ない所なのね」


「その他にも、自分を姫騎士と信じ込んでいる女装男や、金に汚い猫も出ます」


「困ったわね。私、このあたりから離れる事にするわ」


「私の島に行きましょう。潮の流れが強くて、空を飛ばないとたどり着けない所です」


 聖女は、竜について行くことにしました。だって、そんな危ない人たちに会いたくないからです。


 彼女が助けたのは、竜王でした。のっぴきならない事情で数が減ってしまった竜達は、もはやオスしかおらず、緩やかな滅びの真っ最中でした。


 竜達は聖女の来島に喜び、島中のありとあらゆる宝物を持ってきましたが、なにせ聖女に選ばれるぐらいには良識のある少女ですから、自分が生活できるだけの畑や家を貰うだけにとどめました。


「私はこの島が気に入ったわ」

「そうでしょう、そうでしょう」


 白銀の竜は、朗らかに頷きました。彼はとても威厳のある見た目なのですが、争い事や、難しい事は苦手でした。


 彼は、この黒絹の髪の美しい少女がいつまでこの島にいてくれるのか、それだけが気がかりでした。


「ここでしばらく待っていれば、誰かしらが迎えに来るはずよね」


 何せ聖女は非力ですから、一人でうろうろするより、安全な所で待っていた方がいいと考えたのです。


 しかし、聖女のお迎えはいつまで経っても来ませんでした。だって、誰も竜の住む楽園の様な島を知らないのですから。



 聖女は、竜王のお嫁さんとなって、寿命が尽きるまでお姫様の様にたのしく暮らしました。



 さて、魔王はどうなったのでしょう?


 実は、王都の貴族達の中に、聖女を捕まえて、魔王降臨の生贄にしようと手ぐすねを引いている人たちがいたのです。


 しかし、肝心の聖女がいつまで経っても現れないので、魔王もなかなか復活出来ず、世界は平和でした。


 その後、聖女の産んだ新しい竜達が、お城の騎士と力を合わせて魔王を打ち倒し、世界はもっと平和になりましたので、女神様もこの結果にいたく満足されました。


 めでたし、めでたし。




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[良い点] 悪徳貴族に肉食系エルフ、姫騎士まがいの男に守銭奴の猫……もし主人公が魔王を倒す冒険に出ていたら、何だか濃い旅になりそうでしたね。 それにしても、馬車に轢かれたのも竜に出会ったのも散歩中の…
[良い点] テンポがいいなあと感心して読んでいたら、「島流しにされましてよ」の作者さんでしたか! 面白いのも納得です。エッセイも毎回楽しみにしています。 [一言] 「自分を姫騎士と信じ込んでいる女装男…
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