秘密の話
過敏になりすぎている、と思われるかもしれませんが、ガールズラブ、病んでいる表現があります。苦手な方は注意して下さい。
桜比良学園高等部―――
ここの演劇部には部長の間にだけ代々伝わる話がある―――
「先輩達、卒業しちゃったねー。」
「そうだね。」
田中絵美と下浦菜々美は演劇部部活で話していた。
「これからは私達が頑張っていかないとねー。菜々美が部長、私が副部長。皆を引っ張っていって、皆で頑張って、全国大会にいこうね!」
「そうね。」
ふと、絵美は菜々美の様子がおかしいのに気付いた。
何時もと比べて大人しいというか、言葉数が少ないというか…。
「ねぇ、菜々美…どうしたの?何かおかしいよ?」
そう絵美が尋ねると、菜々美は笑みを顔に浮かべ、答えた。
「ねぇ…絵美…?ここの演劇部の部長にだけ伝わる話があるんだって…。」
絵美は何故か聞いてはいけない、と思ったが、好奇心に負け、そのまま聞いていた。
「あのね…、ここの演劇部は部長と副部長の間にだけ存在する『命令制度』っていうのがあって、副部長は部長の命令には逆らえないの…。」
それを聞き、絵美は驚愕した。知らなかったのだ。いくら部長の間だけといっても、そんな話があった何て…。
「う、嘘…!」
「嘘なんかじゃないわ。今年ご卒業された先輩は勿論、その前も、その前も…。話によると、演劇部が出来た頃からずっと続いてるって話よ…。」
「で、でも…!そんな事言われても私は嫌!」
それを聞くと、菜々美は更に笑みを深くした。
「大丈夫よ、絵美…。今から私が特別な言葉を言うから…。それを聞いたら私の命令に何も考えずに従うようになるの…。」
それを聞き、絵美は恐怖を覚えた。菜々美は、本気で自分を忠実に命令に従うようにさせようとしているのだ…。
「な、菜々美…。…!そうよ、そんな話、本当はなかったんじゃない?大体、何処にも変わったところなんてなかったじゃない。本当にそうだとしたら怪しいところなんてすぐに分かるし…。」
しかし、菜々美は首を横に振った。静かに、だがはっきりとした否定だった。
「絵美…忘れたの?命令すればどんな事でも従うのよ…?勿論、誰かを死なせたり、自殺させるような事は命令出来ないけどね…。」
つまり、菜々美は暗に
「命令は精神に関わる事すら従わせる事が出来る」と言っているのだ。
「そ、それじゃ…。い、嫌…いやぁ…!」
「怖がる必要なんて無いわ…。絵美…。」
菜々美が一歩一歩近付いてくる。絵美は逃げようとしたが、あまりの恐怖に上手く動く事が出来ない。とうとう教室の隅に追い込まれてしまった。
「絵美…。これから頑張っていこうね…。」
そういうと、菜々美は耳元で何かを囁いた。それを聞いた絵美は、何かを言う暇もなく眠ってしまった…。
「絵美…。私ね…、絵美が離れていくのが怖かったの…。」
絵美はまだ眠っている。目を開けたら絵美は確実に菜々美の命令に従うようになるのだ。
「絵美は真面目だから、部長と副部長っていう立場に線を引いてしまうって思ったの…。私は今まで通りに接して欲しいけど、絵美がそうしなかったらって思うと…。私はそれが怖かった…。」
そう言う菜々美の目には、愛情と切なさ、そして少しの狂喜が混じっていた。
その時、絵美が目を醒ました。
「絵美、命令よ…。今まで通り、変わらず私に接して頂戴…。」
絵美は、うっすらと微笑みを浮かべた。
「分かりました…。菜々美…。」