第34話
「っ!?ソフィア!!」
ソフィアとソフィアの肩に乗っていた俺は、ココナに突き飛ばされた。
すると、ソフィアが立っていた場所に、魔法堕ちしたヘンリー・ヘイグの背中の触手が槍のようになり、地面を突き刺した。
「おっと」
そして、そのままヘイグは黒いローブの男も襲いだす。
「やはり興奮状態になるとまだ完全な制御は出来ませんか。まぁ、丁度いいかもしれません。貴方達にこの魔法堕ちした人間の魔獣『イブリス』の戦闘能力の実験台になって頂きましょうか」
そう言うと、黒いローブの男は一気に遥か後方まで跳躍した。
ヘンリー・ヘイグが魔法堕ちして出来た魔獣、イブリスは近くにいるソフィア達に狙いを定める。
イブリスはこちらに手を翳し、何かを言うように口を動かす。
「んっ!?ふぁ、ファイアボール!!」
ソフィアはいきなり始めた俺の魔力制御に驚きつつも、ファイアボールを放った。
そして、イブリスからも黒いファイアボールのようなものが放たれた。
ファイアボール同士が衝突し、爆発を起こそうとするが、それも一瞬だった。
何故なら、ソフィアのファイアボールは黒いファイアボールを霧散させて、そのままイブリスに直撃する。
「今のって魔法?」
ココナはイブリスが何を言ったかは聞き取れなかったが、明らかに魔法と同じ現象だということはわかった。
「ココナ!まだ終わってないよ!」
「う、うん!」
「んっ・・アイスコフィン!!」
イブリスはソフィアの魔法で身体が凍っていく。
「やあぁ!!」
身体強化をしたココナがそこに連続で打撃を入れる。
「うっ!!」
だが、凍っていないイブリスの背中の触手が鞭のようにしなって、ココナを弾き飛ばした。
「ココっんあ!?エ、エアロハンマー!!」
ソフィアは間髪入れずに、俺の魔力制御による魔法を放つ。
イブリスは触手を地面に突き立てると、石の壁が地面から隆起して現れた。
「ソフィア!下がって!」
ソフィアはココナのやることを理解して、巻き込まれない位置に移動する。
吹き飛ばされたはずのココナがいつの間にかイブリスの背後に回っていたのだ。
そして、イブリスの背中辺りに手を置く。
「フレアバースト!!」
ゼロ距離からのココナのギフト『全開』の全魔力を使用したフレアバースト。
イブリスは防御する暇なく、限界を越えたフレアバーストの大爆発に巻き込まれた。
「やった!!」
ココナの魔法は1回撃つと、しばらくの間使えなくなる。
身体強化の魔法もほぼ使えなくなるので、最後の止めにしか使えない。
「っ!?」
だが、煙を掻き分けるようにして、空気の弾丸が飛んできた。
エアロショットだ。
煙の中から放たれたエアロショットをココナの手足が撃ち抜かれ、風穴が空いて血が噴き出した。
「つっ・・・あ・・・」
ココナは足に力が入らず、そのまま倒れそうになる。
そこに再び煙を掻き分けて、黒いファイアボールがココナを襲おうとする。
「アクアウォール!!」
ソフィアは本来は自分の目の前に発動させるアクアウォールを、ココナの前に発動させる。
(よく制御出来たな)
今のは俺が魔力制御していない純粋なソフィアの魔法だ。
ファイアボールは水の壁に当たり霧散する。
ココナはその間に地面に倒れてしまう。
「ココナ!」
ソフィアは急いでココナの元に行こうとする。
だが、敵はまだ立っている。
戦いにおいて、感情に流されるような判断は危険だ。だから俺は。
「ふぁっ!?ちょ、り、リアン!」
俺はソフィアの魔力制御をして、イブリスがいる方向に攻撃魔法を構築する。
「んんっ!ふぇ、メテオフォール!!」
ソフィアが魔法を唱えると、巨大な火球がイブリスがいるであろう場所に、まだ晴れていない煙を掻き分けながら飛んでいく。
そして、メテオフォールは見事に命中して、大爆発を起こし、再び土煙が辺りを包んだ。
「ココナ!」
ソフィアは再びココナの元へと駆け寄る。
そして、すぐに状態の確認をする。
ココナは右腕と左足に穴が空いており、真っ赤な血が地面を濡らしていた。
「えっと・・・えっと・・・」
ソフィアは混乱しているのか、治癒魔法の魔力制御に苦戦する。
「えっと・・・ひ、ヒーリング!」
ソフィアの手から優しい光が漏れ、ココナの身体を癒していく。
次第に傷が塞がり、血も止まった。
だが、やられたときのショックなのか、血を流し過ぎたのか、ココナは気を失ったままだった。
「・・・うん、息はある。これならきゃあっ!!」
突然、ソフィア達を突き上げるような形で、地面が隆起して、爆発を起こし吹き飛ばされた。
地面にあったのが土や細かな石のおかげで、大きな怪我はないが、俺も含め、細かい傷を複数負ってしまう。
「う、うぅ・・・な、何で」
振り返るとイブリスが何ともない姿でさっきメテオフォールを放った場所とは違う場所に立っていた。
ソフィアはメテオフォールで倒したと思っていた。
ソフィアは改めて先程メテオフォールの放った方を見てみる。
そこには大きな岩が崩れた跡が残っていた。
「まさか・・・私はあれを」
イブリスは煙の中、ココナに魔法で攻撃するだけでなく、自らを守るストーンウォールの魔法も使っていたのだ。
ソフィアの顔は絶望の色に彩られる。
ココナも気を失ったままで、少し離れた位置に転がっている。
俺はソフィアの首に掴まっていたので、ソフィアの戦意を回復する意味合いも込めて、魔力制御を行う。
「んっ・・・り、リアン・・・うっ、くっ」
俺がまだ戦おうとしている意思を表明することで、ソフィアも痛みに耐えながら立ち上がる。
イブリスはこちらに手を翳し、再びファイアボールを放ってきた。
「ファ、ファイアボール!!」
最初の時と同じようにソフィアはファイアボールを放つ。今度は自らの魔力制御で。
そして、最初と同じ様にソフィアのファイアボールがイブリスのファイアボールを霧散させて、イブリスに向かって飛んでいく。
(っ!?まずい!!)
俺はソフィアの肩から離れ、前に飛び出す。
すると、イブリスの背中の触手が槍となって、ソフィアの前に飛び出した猫の俺を突き刺した。
イブリスは最初と同じ方法で、ソフィアのファイアボールを受けた。
それから教育して、何か別の攻撃を加えてくると俺は考えた。その結果がこれだ。
戦いにおいて同じ戦法を使うのは、こういったリスクがあるのだ。
俺の予想通り、イブリスはファイアボールを放った時に、触手を影から動かしていたのだ。
「・・・・・・え?」
ソフィアは目の前で起こったことを信じられずにいた。
「りあ・・・ん」
俺の小さな猫の身体は触手からずれ落ち、そのままぽとりと、地面に落下する。
(・・・やばいな。意識が遠くなってきやがった)
小さな猫の身体では大き過ぎる攻撃。
身体から血が物凄い勢いで無くなっていくのがわかる。
俺の目にはソフィアが泣きながら何かを叫んでいるのが見えていた。




