第29話
「けっ、なんでお前なんかと」
舌打ちを付いて文句を言っているのは、今回受けた護衛のクエストのソフィアとココナのパーティーとは別の2人組の男子生徒パーティーだ。
名前をエイブラム・アルバーン、学校に入って初めての模擬戦の時にココナに一瞬でやられてしまった男子生徒だ。
「お前ら、足引っ張んなよ」
エイブラムの隣に座る男子生徒も同じようにソフィア達を睨みながら言ってきた。
「ココナ達は何もしてないのになんなのさ」
「コ、ココナ、落ち着いて」
ココナは小声でぶつぶつと文句を言っている。
今はフォルティス平原から森に入って数分のところを2台の馬車を護衛しながら移動中だ。
積み荷が多く壊れ物もあるので、馬達も走らずに歩いての移動となっている。
そのため、エイブラム達は右側を、ソフィア達は左側を護衛する形で歩いていた。
ソフィア達はディケイルから極秘任務を与えられたが、何も情報がないので、普段通りにクエストを行いながら情報収集をすることにした。そこでクエスト板で目に付いたのが、近隣の村への荷物を運ぶ護衛の仕事だった。
クエストの難易度もEランクと低いので、そこまで難しくはない。
そんな考えからクエストを受けた結果、今のような状態になっている。
「にゃ」
「来たの?」
「にゃあ」
俺は森の中から何かが近付いて来るのを猫の耳で感じ取る。
「おじさん、何か来るみたいです」
「了解だ。何か来る!馬車を止めろ!」
先頭の馬車に乗っている御者が返事をして、後ろの馬車の御者に声を掛けた。
2台の馬車はその場に止まった。
「で、どっちから来るんだ?」
「えっと・・・」
「にゃ」
「向こうだそうです」
俺が方向を尻尾で指すと、ソフィアが通訳?して右奥の方を指差した。
「数は」
「にゃにゃにゃあ(少し多い)」
「少し多いかもしれません」
当たり前のようにソフィアは俺の言っていることを通訳していく。
「・・・・・・お嬢さんは猫の言葉がわかるのか?」
「いえ、なんとなくそう言っている気がして。あ、見えました!」
ソフィアが指差した方向から、少なくとも十数体のトカゲの戦士のような魔獣が出てきた。
戦士といっても鎧は着ておらず、手に斧や剣、槍といった武器を持っているだけだ。
大きさは約2mぐらいで人より大きい。
こいつはリザードマンという魔獣で、グループを作り、色んな場所に生息している。
知能もそれなりに高く、今回のように積み荷が多い馬車等を襲うことも多々ある。
「リザードマンぐらい!ファイアボール!!」
エイブラムが突出してきた先頭のリザードマンにファイアボールを放った。
森の中なので、火属性魔法は控えなければならないのだが、そんなことお構い無しだ。
「グギァア!!」
ファイアボールは見事にリザードマン命中し、苦しそうに燃えている。
「にゃ!!」
「んあ!?」
俺は嫌な予感がして、即座にソフィアの魔力制御をした。
その予感が的中して、燃えているリザードマンを別のリザードマンが飛び越えて、エイブラム目掛けて斧を振り下ろそうとした。
「う、うわあぁ!!」
「アクアスピア!」
腰を抜かして転んだエイブラムに斧が振り下ろされる寸前のところ、ソフィアが放ったアクアスピアが横からリザードマンを貫いて吹き飛ばした。
リザードマンは知能がある分、囮のような作戦を取ってくることもあるのだ。
なので、油断していると足元を掬われてしまうのだ。
「よ、余計なことを!!」
「それより来ます」
エイブラムは助けてもらったにも関わらず、ソフィアに難癖をつける。が、今はそんなのに構っている余裕はない。
リザードマンは仲間を殺られ、俺達を馬車ごと囲もうと動いているのだ。
「ん、アクアスピア!」
「ココナキーック!」
ソフィアとココナは囲まれる前に数を減らすため、動き出していた。
「エイブラム!こっちもやるぞ!」
「ちっ!」
エイブラムは不機嫌そうにして、ソフィア達と反対側のリザードマンの対処を始めた。
そして、リザードマンの数が残り5体になったら、奴らは森の中へと逃げて行った。
「へっ!雑魚め」
エイブラムは最初の失態がなかったように、偉そうな態度で言った。
「お、おい、エイブラム、あれ不味くないか?」
「あ?放っておけば消えんだろ」
「そんなわけないじゃない!リアン!」
「にゃあ!」
エイブラムは自分の魔法が原因で森が燃えているのに、放っておこうとしたのだ。
ソフィアと俺はエイブラムを放って置いて、火事になっている範囲の全体が視界に収まる位置まで離れた。
火の元の目の前だと、どこが燃えているか解りづらいからだ。
本当は高い木の上とかに上れたらいいのだが、ソフィアにそんなことは出来ないので、今回は諦める。
ある程度、燃えている範囲が見えたところで、俺は魔力制御を始める‼
「んん・・・ん?」
俺が魔力制御をしても、ソフィアはいつものように魔法を唱えなかった。
「にゃ?」
「こ、これって・・・えっと・・・んっ」
ソフィアは俺が制御した魔法が解らないようだ。
(マジか!?それなら代わりの魔法を)
俺は急いで別の魔法に切り替えようとする。
「リ、リアン!んあ!い、いきにゃり変えなっんんっ!!」
突然俺が魔力制御を変えたのが悪かったみたいで、ソフィアが悶え始めた。
「さ、さっきの!さっきのわにゃったから!!んんっ!」
ソフィアがそう言うので、俺は再びさっきの制御に戻した。
「ア、アクアレイン!!」
アクアレインは指定範囲にただ雨を降らせる魔法なので、実用性はあまりない。たぶん、だからソフィアはすぐにこの魔法名が出てこなかったのだろう。
ただ雨といっても、今回は森林火災になりそうだってので、強めの雨を降らせていた。
お陰様で、火の手はどんどん弱まっていっている。
そして、完全鎮火すると。
「ふにゃぁ」
ソフィアは腰が抜けてしまったのか、その場に座り込んでしまった。
「にゃ?」
「大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから」
ソフィアはそう言いながら、俺の頭を撫でてくれる。
「おーい」
馬車の近くにいたココナが大声で呼びながら、こちらにやってきた。
「大丈夫?」
「うん、ちょっと疲れただけだから」
「そっか。大丈夫そうなら出発するって言ってるけど、どうする?」
ココナのどうするは、きっと下着事情のことだろう。
「んー、まだ平気かな」
「それじゃあ行こっか」
「うん。リアン、行こ」
「にゃ」
ソフィアが馬車に戻ると、御者の人がリザードマンを退治してくれたことと、森林火災を抑えてくれたことを、誉めてお礼を言ってきた。
リザードマンの退治を同じようにしていたエイブラムは、特に誉められたりお礼を言われることはなかった。どうやら火災を起こしそうになったので、悪く見られているようだ。
そのせいか、エイブラム達は荷物を送り届けた後、町に戻るまでもずっと不機嫌そうにしていた。
因みに御者の人に最近何か起こっていないかと聞いたところ、森にゾンビが出ると噂しか聞くことが出来なかった。




