16.目が覚めて
「……痛っ! こ、ここは……?」
「ゼスト! 目が覚めたのね!」
俺は痛みで目を覚ますと、視線の先は見知らぬ天井だった。そして顔を動かすと、そこには布を水に濡らしていたティリアの姿があった。
「ティリア……」
俺はティリアの名前を呼ぶが、顔を逸らしてしまう。彼女にあんな仕打ちをしておいて、今更合わせる顔が無い。
「……ゼスト」
「目が覚めたか、ゼスト」
ティリアが何かを言おうとした時に、丁度扉の方から父上が入って来た。俺は痛む身体を押さえながら何とか起き上がる。
父上の後ろには、レグラーノ伯爵もいる。母上たちはここにはいないようだ。
「父上、ここは?」
「ここは、兵士用の救護室だ。お前の傷はミリアーナたちでも治しきれなかったから、ここに運んだのだ」
……俺、そんな大怪我していたのか。確かに未だに体が痛むが。自分の切られたところを触れても傷は塞がっているようだ。
「それじゃあゼクティス。私とティリアは外にいる。終わったら呼んでくれ」
「ああ、すまない」
俺が自分の体を確かめていると、レグラーノ伯爵がティリアを伴って部屋を出て行った。部屋に残ったのは、俺と父上のみ。謎の沈黙が部屋を漂う。
父上は俺が眠るベッドの側にある椅子へ腰をかけて、俺を見てくる。それはもうじっーと、見てくる。だが無言だ。な、何か話してほしいのだが。
「お前の魔術」
「え?」
「あの固有魔術はいつ使えるようになったのだ?」
「え、えっと、半年前に俺が魔術の事故をしたのは覚えていますか?」
「ああ」
「あの頃は何となく使えるとは思って練習していたんです。あの事故の原因も固有魔術のせいです。でも、そのおかげで使えるようにもなったのですが」
俺の話を父上は黙って聞くだけ。どうしたのだろうか?
「あの固有魔術は予想外だった。この半年間は1回も俺の前では使ってなかったからな」
……そういえば、父上たちとの訓練では使わなかったっけ。父上はずっと難しい顔をしていたが、突然、フッ、と笑い出す。
「流石は俺の息子だ」
俺は父上の言葉に思わず顔を下げてしまった。俺の前世では殴られる事や罵倒される事はあっても、父親に褒められる事は無かった。
この世界に来てからは、俺の記憶が戻る前は褒められている記憶があるが、記憶が戻ってからは無かったな。指導とかはしてくれていたのだが。
……まさか、褒められる事がこんなに嬉しいなんてな。思ってもみなかった。
「ありがとうございます」
俺は感動しているのがバレないように、頭を下げる。ニヤけた顔なんて見られたら恥ずかしいからな。
「ああ、だが、外に行くにはまだ力が足りない。最低でもあの魔術を普段から使えるようにしなければ」
うっ、それは確かにこれからの課題だ。俺の創造魔術はかなり魔力を消費する。1回の戦闘に1度ぐらいしか使えない。それだったら、1つの武器で戦っているのと変わらない。
戦闘中でも幾重にも武器を変えられるようになれば、戦いの幅も広がるとは思うのだが。
「今のお前ではやはり、外に出ても死ぬだろう。それを黙って見過ごす事は出来ない」
「……はい」
「だからお前をある人のところへ預ける。そこで修行するんだ」
「はい……はい?」
普通に返事をしてしまったが、突然の事に驚いてしまった。
「その人は俺が昔世話になった人だ。少し変わった人ではあるが、腕は確かだ。俺が教えるより、何倍も良いだろう。本当であれば、学園を卒業してから行かせるつもりだったが、お前のレベルは、俺の予想を超えていた。今なら耐えられるだろう」
父上がお世話になった人か。少し興味があるな……小林の話を聞いて少し焦っていたが、父上に負けて少し目が覚めたな。死んだら元も子もない。死んだ事あるのにそんな事も忘れていたなんて。
「わかりました」
「うむ。それでは後はお前たちで話し合うんだ。どうせ、ゼストが一方的に決めたのだろう。彼女の話もきちんと聞いてあげるんだ」
父上はそう言いながら立ち上がると、部屋を出て行く。そんな父上と入れ替わるように、外からティリアが部屋へと入って来た。
……少し気不味いが、しっかりと話し合わなければな。
◇◇◇
「おい、クソジジイ! 何人の下着取ってんだよ!」
「おっほっほ! クリア、お前、見せる相手もいないのに、何でこんな大胆な下着持っているんだ。没収じゃ!」
「ふざけんな! それは、た、た、大切な人が出来た時に履くんだよ! とっとと、返しやがれ!」
「ほっほっほ! この魔術王にクリアのへなちょこ魔術が当たるものか。やり直してこい!」
「ぶっ殺してやる!」




