14.説得(物理)
「……これはまた」
俺は屋敷から出て来た父上を見て苦笑いをする。レグラーノ伯爵も似たような顔をしている。母上は呆れているが。
屋敷から出て来た父上の格好は、普段の訓練着などではなく、魔獣の討伐などで使う、父上が本気で戦う時の装備をしているのだ。
魔防特性の付いた白銀の鎧に、父上愛用の剣と盾。剣は120センチ程の両刃で、柄のところに魔石が組み込まれた魔剣だ。能力は雷撃付与だったかな。
それに盾。あれも鎧と同じ魔防特性が付いており、各種属性耐性も付いていたと思う。父上の本気の本気の装備だ。
「ゼスト。今のお前では、外の世界が厳しい事を教えてやる」
「……父上、悪いですが、俺は父上を認めさせてみせます」
俺も自分の剣を腰から抜く。あの魔術はまだ魔力消費が大きいため、そう簡単には使えない。
審判は、レグラーノ伯爵がしてくれる事になった。まあ、この中で父上と同じぐらいの持つレグラーノ伯爵しか審判は出来ないだろう。
「2人とも、怪我はある程度までは構わぬが、後遺症の残るもの、死に関わるものは無しだ。気を失うかどちらかが降参するまでとする。準備は良いか?」
レグラーノ伯爵の言葉に俺も腰を低く構える。父上は盾を前に出して構えている。そして
「始め!」
レグラーノ伯爵の開始の合図と共に、俺は駆け出す。父上は俺の予想通り盾を構えたまま動かない。まあ、予想も何も、これが父上の基本のスタイルだからな。
俺は父上の左手に持つ盾に隠れるように近づく。父上がこの程度で、俺を見失うはずは無いのだが、しないよりかはマシだ。
俺が父上の間合いに入った瞬間
「ふん!」
俺の眼前に盾が迫る。俺はそれを予想出来ていたので、バックで避け、盾の左側を通り抜けるように父上へと近づこうとしたが、あらかじめ準備をしていたのか、地面から電撃が放たれる。
俺は再び下がって避けると、そこに迫る一振りの剣。父上の剣は常時雷が滞留しているため、受け止める事が出来ない。触れた瞬間感電してしまうからだ。
俺は横に飛び、父上の剣を避けると、剣はそのまま振り下ろされる。特に激しく爆発するというわけでは無いが、父上が振り下ろした剣が触れた地面には、深く斬撃の跡が残されている。雷で切れ味を上げているのだ。
父上は、振り下ろした剣を戻しながら、再び盾を構える。父上は殆ど自分から攻めに入る事は無い。基本は待ちの姿勢だ。これが父上のスタイルになる。
俺は生まれてこの方、この鉄壁を崩した事は無い。だけど、今日はそうも言っていられ無いからな。何としても、あの壁をこじ開けなければ。
「どうした、ゼスト。その程度か?」
「まだまだ、これからですよ、父上!」
俺は空いている右手を父上に向けて風魔術ウィンドカッターを発動。前世でいうかまいたちのようなものだ。
父上は盾でかまいたちを防ぐが、俺は再びその横を抜ける。先程と同じように迫る剣閃。手加減無しに俺の首を狙った一撃。くらえば即死だろう。
だけどそれを、俺は身体強化全開で避ける。避けた瞬間から次の攻撃が来るが、剣は避け、盾は逸らして、何とかこの距離を保つ。俺がギリギリ耐えられる距離を。
俺も避けてばかりでは勝てない。父上の剣戟の合間を縫って剣を振っていく。父上の盾に全て阻まれるが、それでも攻撃を止めない。
「うぉぉぉおおっ!」
ガキィン、ガキィン! と、剣と盾がぶつかり合う音が鳴り響く。時折振られる雷を纏った剣を避け、更に俺は剣を振る。
父上にはまだ触れない。触れないが、少しずつ父上へと近づいていく切っ先。俺の剣が父上に触れようとした瞬間、気が付けば目の前に父上の剣先が。
「うおっ!?」
俺は咄嗟に体を逸らし、体制を立て直そうとしたが、顔面に激痛が走る。そして俺は吹き飛ばされてしまった。
「がはっ!」
一体何が起きたんだ? 俺は殴られたところを手で押さえて、顔を上げると
「敵から目を逸らすな」
俺へと迫る父上の姿が、俺に向かって振り下ろされる剣。俺は転がって避けるが、脇腹を軽く切られる。
俺は何とか立ち上がるが、下から振り上げられる剣で左肩を切られた。それと同時に痺れる体。俺は立つのも辛くなり片膝をついていると、再び盾で殴られた。
「お兄様!」
「ゼスト!」
俺は庭の端の壁まで吹き飛ばされて、壁に激突する。その光景を見て、心配そうな声をあげる、セリーネとティリア。
「……この程度か、ゼスト? この程度なら大陸を出るなど夢のまた夢の話だ。お前が誰を探すのかは知らんが、諦めてここに残れ。そうじゃ無いとお前は死ぬぞ?」
……そんな事は言われなくてもわかってるんだよ。俺が力不足なのは。でもそんな事で探しに行かなかったら、ずっと後悔したまま生きていく事になると思う。そうなるぐらいなら俺は!
「……まだ立ち上がるかゼスト。こうなったら手足の何処かを切り落とすか。そうすれば、戦う気も無くなるだろう」
俺の側まで来て剣を振り上げる父上。ティリアたちが叫ぶ中、表情を変えずに振り上げた剣を俺へと振り下ろした。
目の前に迫る斬撃。涙を流しながら叫ぶセリーネ。同じように涙を流すが、祈るように手を握るティリア。
……こんなところでやられてたまるか。俺は全身の魔力を一気に放出する。こんなところで、やられて
「たまるかっ!」
俺は両手を振り上げ、振り下ろされた父上の剣を弾き上げる。父上は驚きの表情で俺を見て来るが、俺はそのまま立ち上がり、右手に持つ剣で切りかかる。父上は盾で防ぎ、俺から距離をとった。
「ゼスト、お前……」
「父上の言う事はわかる。俺の力は全然だ。かなりの強敵に出会ったらかなり厳しい戦いになるだろう。だけと、それでも俺は行く。父上を倒して!」
俺は創造魔術で作り上げた双剣、風天・雷牙を構えて、父上を見る。
「行くぞ、父上!」




