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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

かなり不気味な塩漬けの味

作者: 卒塔婆釖

大学一年生の頃の話だ。


僕は自分が本当に生きているのかという思いを胸に日々を送っていた。

季節は春、今日は世に言う春一番な季節なんだが頭では理解していてもそれを実感できないぼんやりとした気分で講義を受けていた。


気がつくと講義は終わり、僕と静寂だけが教室を支配していた。

ふらふらと席を立ち、亡者の様な足取りで廊下に出た。


「ねぇ、なんか怖い話とか知らない?」


と、女子生徒数人に話しかける怪しい男がいた。

僕はその男を師匠と慕うようになるのだが、まあそれはまだ先の話であるのだ。


女子生徒らはテンプレートな服装、顔、容姿、特に特出するところがない社会が認める一般的な女子大生。

対して話しかけている男はよれたTシャツとジーンズにクロックスという人をバカにしているのか?と思ってしまう格好だ。


男はあからさまに不審がられて引かれている、当然と言えば当然だ。男は急に面倒くさくなったようで適当に会釈をして女子生徒らを後にした。


「ねぇ、君新入生?何か怖い話し知ってる?」


と、またまたそれが挨拶であるかのようににやけた顔をこちらに向けながら今度は僕に話しかけて来た。


あまりかかわり合いたく無かったので適当に会釈して通りすぎようとした。

すると、ガッっと手首を捕まれた。

一瞬ビクッとして男に向き直る。


「うお、さわれた。」


そりゃあ生きてるんだから触れるに決まっているじゃないか。それとも遠回しに幽霊扱いをしたいのだろうか。

まあ、本当に驚いているから嫌味で言ったわけではないということはわかるが、僕が幽霊っぽい人間と思われるのもしゃくなので無理に捕まれた手を払った。


男は何か面白い物を見る目で「お前、生きてないかと思った、っていうかちょっと幽霊かと思った。ごめんな。」と、まくし立てて「俺、幽霊と人間間違えたの初めてだわ。」なんて当然の事を言っている。


そろそろ僕に向けた盛大な茶番なんじゃないかと思い始めてきた。


「いや、本当に悪い。不覚って言うか。・・・飯でも奢ろうか?」

「ナンパならさっきの女子生徒にしたらどうですか?」


我ながら結構きついことを言う。


「俺は男は興味無い。が、面白いことは好きだ。本物の幽霊が見えるトコで飯食いたいだろ?一回くらい見とくもんだぜ。幽霊ってのは、人生観が変わるからさ。」


口が減らない男だ。・・・まあこのところ金欠気味であったから食事の誘いは嬉しいのだが。

奢られるのは嫌じゃないので付いて行くことにした。無論宗教の勧誘とかマルチ商法なんかを話始めたら速攻で帰るが。


あれよあれよと町外れの喫茶店に来てしまった。思い返して見れば完全に男の術中にハマってしまっていて、僕はそれをちょっと楽しいと思い始めてきてしまっていた。


それは置いておいて、喫茶店の外観だが幽霊とかそういったものが出そうに無いようなお洒落な店だったので休日にでも本を読みに来ようかなとか関係ない事を思っていた。


店内に押し入る様に入り、近くの二人がけの席にかける。

しばらくしたらマスターらしき人が小走りで走って来たのでメニューをざっと見てドライカレーを選んだ。男はコーヒーを頼んだ。ボソッとコーヒー苦手なんだよなぁ。と聞こえた様な気もしたが無視した。


「それで?本当に幽霊が見れるんですか?」


「まあ待てって。・・・そうだな。お前霊感ある?なんか感じない?あの部屋の隅とか。」

と、カウンターの角を指差した。


「生憎、霊感は殆どありません。ていうか幽霊なんて見間違いが多いですよ。あなたが僕を幽霊だと思った様に。」


「根に持つなよ。あれは外見とかそういう物じゃなくて何て言うか感覚的な物でな?俺ははっきりと幽霊を見たことがあるんだが、あの時のお前はそういうこの世のものではないような異物感を放ってたよ。」


「はあ、そうですか。」

自分ではわからないがそういう物なのだろう。今度から気を付けないといけない。


マスターがコーヒーとドライカレーを持ってきて特に何も言わずにカウンターの裏に引っ込んでしまった。どうやらあまり歓迎されていないようだ・・・。


「おい、そろそろ出るぞ。」

「えっ」


その時ゾワリと、本能が恐怖を伝えて来た。鳥肌が立ち脳が危険信号をひっきりなしに鳴らしている。

手汗で手がベッタリと湿ってきた。心なしか呼吸が荒く感じる。


「なんだ。お前霊感あるじゃん。」


平気そうな顔をしている男に畏怖と感嘆を向けながら嫌に重い首を回して店内をグルっと見回す。


「そっちじゃないぞ。下向いてろ。」


僕は子犬のように飼い主の命令に従って下を向いた。

直感的に感じてしまった。圧倒的な恐怖と・・・痺れるような酩酊感。これを面白いとか、そういった風に感じる余裕は今の僕には無かった。


何分たったのだろうか。張り詰めていた気をふっと緩めてしまった。


視界の端にスーッっと、透明な足が通りすぎた。

理解できなかった。バクバクと鳴る心臓をなんとか落ち着かせようとした。


「な?面白かっただろ?」


この人は悪魔か鬼のどっちかの生まれ変わりだろうと思った出来事であったのだった。

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