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[ランキングタグを使って小説を書いてみた]ドロー4から始まる無敗伝説

作者: ばやとな

※ページ下のランキングタグが本文です


 このスペースで200文字書かないと投稿できないので、適当になんか書きます。

 ランキングタグの中で、<font color="red">炎</font>と打つと文字の色が変化します。

 できれば本文でもその機能を使えるようにしてほしいんですけれど……実は、それをやると本文内で『&』とか『>』とかいった記号が使えなくなるんですね。

 厳密に言うと特殊文字を使うことによって&や<>を表現することもできますが、そうしてしまうとhtmlの知識がない作者さんに混乱を招いてしまいます。


 これはただの要望ですが、通常の今ある小説執筆機能と、htmlの知識がある人専用の小説執筆機能を選択できるようになってくれると、自分は嬉しいです。需要がどれだけあるかわかりませんが。


それではランキングタグを使った小説「ドロー4から始まる無敗伝説」をお楽しみください。


170228追記:元ネタにした有名カードゲームは、全104枚じゃなくて108枚でした(ワイルドとワイルドドロー4を2枚ずつだと勘違いしてたけど、実際は4枚ずつ)……が、そうすると1回戦の戦略に辻褄が合わなくなるので、そのままでいきます。

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 とある王国の夜の繁華街。
 4人の女子が四角い机を囲み、真剣な顔をして向かい合っている。
 それはともすれば密談のように、その場には緊張した空気が張り詰められていた。

炎の4

「うっ……炎のドロー2! これで……どうだ!」

「……残念、風のドロー2ですよ」

 それぞれの女子は、その手に数枚のカードを携えている。
 彼女たちがのめり込んでいるのは、この世界で最も流行っているであろうカードゲーム「MANA」であった。
炎の0~9、スキップ、リバース、ドロー2
水の0~9、スキップ、リバース、ドロー2
風の0~9、スキップ、リバース、ドロー2
土の0~9、スキップ、リバース、ドロー2
ワイルド
ワイルド・ドロー4

 合計104枚のカードが女子たちの手元を飛び交い、場に積まれ、山札から引かれていく光景が広がっていく。

「さて、そろそろおしまいにしましょうか。風の8MANA

「ぐ……これ以上負けてたまるか。今月の給料をつぎ込んでるんだ。風の1!」

土の1……お願い! アイツの上がりを防いで!」」

 どうやらこの女たちは、金銭を賭けてこのカードゲームを行っているらしい。
 2人分の悲痛な声を被せられながら、手順が回ってきた女は考え込む。

(場にあるカードは『土の1
 私が今持っているカードは土の6 水の1 そして炎のリバース……
 選択肢は2つ、土の6で数字を変えるか、水の1で色を変えるか)

 この女もまた、大金をかけているのだ。今のままでは負けることは確実。次の手順で待っている、おだやかに優しく微笑む少女に全てを持っていかれる。
 なんとしてでもここでの上がりを防がないと、コツコツと勝つことで積み上げてきた金が一瞬にして全てむしり取られる。そんな恐怖にかられながら、どちらのカードを出すべきか悩み尽くす。

(どっちだ!? 土の6水の1か……!)

 判断の材料となるものは何もない。信じられるものは己の直感のみである。
 たっぷり3分ほど悩み抜いた挙句、

「つ、土の6……!」

 恐怖のあまり震える指先でカードを掴み、見え見えの虚勢を張って土の6を場に出す。そして次の手番で待っていた、ニコニコ微笑む少女の顔を覗いた。覗かずにはいられなかった。
 その少女は場に出たカードを見ても一切表情を変えること無く、穏やかに微笑み続けているのみである。その顔色からは何かを読み取ることも難しい。

(た、助かった、のか……?)

 どんなカードゲームの熟練者であれ、勝ちが確定したときには多少なりとも表情が変わるものだ。喜び然り、爽快感然り。
 全く反応しているように見えない少女を前にして、このターンはしのげたかと安堵しかけた、その時である。

「はい、水の6、上がりです」

「「「のおおぉぉぉ!!」」」

 この世で一番聞きたくなかった言葉を浴びせられ、対面していた女子3人は絶望のあまりにそれぞれの反応を示す。
 一人は、これが悪夢なら冷めてくれと言わんばかりに机に頭をガンガンと叩きつけ。
 一人は、もはや考えることを全て放棄したのか、椅子の背にもたれかかったまま口から魂を吐き出しており。
 もう一人は、未だに負けたという事実を認められないのか、狂ったように笑いながら現実からの逃避行をしているところであった。


 今回の賭けの勝者となった少女は、机の上においてあった賭け金を総取りすると、敗者となった3人を置いて机から離れていった。少女は既にこの3人に対する興味をなくしたようで、御礼の言葉も別れのあいさつもすることはない。
 顔に貼り付けていた笑顔を解きほぐし、まったくもってつまらない勝負だったと言わんばかりに深くため息を付く。

(ああ、今回も大したことなかったですね。賭け金は釣り上げてみたけど、参加者のレベルはサッパリでした)

 少女が賭けMANAを始めてから、かれこれ1年ぐらいにはなる。夜な夜な近場の賭博場に入り浸ってMANAの強者と思われる人と勝負を重ねているのだ。
 法外な賭け金も、彼女にとっては強者を釣るための撒き餌でしかない。彼女を打ち負かしうる人を見つけ、その人と真剣勝負をする。それだけが彼女の望みであった。

(今日も収穫なし、と…… ホイホイ強者が見つかるわけ無いとはいえ、こうも成果が出ないと精神的に来るものもあります)

 周りを見渡しても、彼女のお眼鏡にかないそうな強者の気配はない。これ以上の長居は無用であると判断して、今日の賭けMANAは切り上げることに決めた少女。
 賭博場のマスターに別れのあいさつをして、さっさと使用人のいる家に帰ろうとした、そのときである。

「おじゃまするよー、お、ちょうどいたかぁ!」

 見るからに軽薄そうな、メガネを掛けた女が賭博場のドアを開けて入ってくる。
 少女は特に興味をもつこともなく、その脇を通って帰ろうとしていた。

「おう、ちょっと待ちな。セオーリ王国第7王女のナルちゃん」

 少女、いや、この王国の第7王女であるナルは、その言葉を聞いて飛び上がりそうなほどに驚く。
 この1年間、王族の身分を隠しながら賭博場に入り浸っていたが、正体がバレたことなど一度たりとしてなかったのだ。
 負けが込んだ相手からの逆恨みにあって、住処を突き止められようとしたこともあったが、全てうまい具合に誤魔化していた。
 その情報をどこから仕入れたのかは気にしたようだが、それを尋ねても無駄だと判断する。これほど確信を持って話しているということは、今さらシラを切っても無駄なことだろう。

「……なんの用ですか? 私を誘拐して身代金でもせしめようと?」

 ジョークっぽい感じで笑いながら女に言葉を返す。

「それは残念でしたね、私は放任……というか、半ば存在しないことにされてますので、誘拐したとしても誰も助けようとはしませんよ」

「まあな。王族の出来損ないなんてその辺の町娘と変わんねえ。ナルちゃんも大変だな」

 ケタケタと笑いながら失礼なことをのたまう女に対して、ナルは眉をひそめた。

「それで、なんの用ですか? 私はそろそろ帰ろうかと思っていたんですが」

「いやあ、出来損ないとはいえ、あの女王様の子どもだろ? いっちょMANAで手合わせしてほしくてさ」

「……300万ゴールド賭けられるのなら、やらないこともないです」

 300万ゴールドといえば、家が一軒建つレベルのお金だ。つまり、今のナルにはこの女に対してまともに相手をする気などなかった。
 この女が興味があるのは『女王の子ども』であって、『ナル』ではないのだ。世界最強と名高い女王様の子どもがどれほどのMANAの実力者か、それにしか興味はないのだ。
 怖いもの見たさの挑戦者に、ナルが興味を示すことなどあり得ない。彼女が求めているのは血が沸騰するような熱い勝負、恐ろしく強い敵を出し抜いて倒したときの爽快感。
 この女がそれを味わわせてくれることはない。そう判断したナルが、この勝負を受けることなどないはずだった。

「ふぅん、300万か。ほらよ」

「え……?」

 しかし、その女が持っていたカバンの中身を見せた瞬間、ナルは固まった。
 カバンの中に入っているのは、300万はくだらない、少なく見積もっても1000万はあるであろう金貨のまとまりである。

「こ、これは……?」

「300万を賭けた勝負、受けるんだろ? 一対一の勝負だ。今さら逃げるのは無しだぜ」

 馬鹿げている。彼女はそう思った。
 だけど、300万かければ勝負を受けると言ったのはナル自身なのだ。それを撤回することは彼女のプライドが許すことはない。
 それと、ほんの僅かながら、ナルの中に名前も知らない女に対する期待感が芽生えてくる。

(こんな高い賭け金の戦いを受けるのなら、もしかしたら……!)

 改めて女を見渡すナル。口元は不敵に微笑んでおり、ナルとの戦いを今か今かと心待ちにしているようにも見える。
 この女と戦うことに300万ゴールドを賭ける価値を見出したナルは、同じくカバンにぎっしりと詰まったゴールドを見せつけながら敵対の宣言をした。

「その勝負、受けましょう。賭け金は300万ゴールド、一対一のMANA、5回勝負の3セット先取でどうでしょうか?」

「おぉ~ いいねいいね♪ ルールはセオーリ式にのっとれば大丈夫か?」

「ええ、それではあちらの卓へ行きましょう」

 不敵に微笑む二人は近くにあった机へと向かい、対面に向かい合って座る。
机上においてあったMANAカードが104枚全部揃っていることを確認し、丁寧に重ねてからデッキをシャッフルし始めるのだった。



 MANAには、複数のローカルルールがある。有名所で言えば、ドロー2をドロー2で返せたり、炎の3,4,5を同時出しできたり、2人対戦のときはリバースもスキップと同じ効果だったりといったものがそれだ。
 今回採用されるセオーリ式のMANA、基本ルールは以下のような感じである。

・同じ属性()か、同じ数字(記号)のカードを出していき、先に手札をなくした方の勝ち。

炎の7水の7土の7など、数字(記号)が同じなら、何枚でも同時に出して構わない。

炎の3,4,5といった連番は不可。

・手持ちが残り一枚になった時には、カードを出す際に「MANA」と叫ぶ必要がある。

・スキップを出すと、次のターンを飛ばす。今回は2人対戦のため、スキップを出せばもう一度カードを出せる。

・リバースを出すと、カードを出す順番が逆回りになる。今回は2人対戦のため、特に意味はない。

ワイルドワイルドドロー4は、基本的に場のカードにかかわらずに出せる。ただし、場のカードがドロー2ならば出せないし、ワイルドドロー4ワイルドを重ねることはできない。出した人は次の属性を指定する。

・ドロー2(ワイルドドロー4)を出すと、相手にカードを2枚(4枚)引かせることができる。2枚(4枚)引いた相手はそのターンはカードを出すことはできない。

・ドロー2、ワイルドドロー4は、場に出た時に重ねることが可能。引かなければならないカードの枚数は累積されていく。

・記号カードで上がってはいけない。手札に記号カードしかないときは、山札から2枚カードを引くことができる。

・チャレンジやドボン、芋掘りルールは不採用。



(残り一枚にさえしなければ、「MANA」と叫ぶ必要がない点が勝負の鍵となりますね)

 300万という大金がかかった勝負は、ナルにとっても初めての経験となる。今まではどんなに高くても20万がせいぜいであったが、その15倍の大金が彼女を慎重にさせるかといえばそんなことはない。
 300万ゴールドでさえ今までに賭博場で巻き上げた金の2割ほどしか賭けていない。その程度の賭けでは、彼女の求めるような狂おしいほどに張り詰め戦いからは程遠いのだ。

「ねえ、お姉さん。提案なんですけれど」

「うん、なんだい?」

「お互いのカバンを賭けませんか? もちろん、中身はそのままで」

 いつの間にか周りにはギャラリーが集まっており、どよめきの声が上がってくる。
 ギャラリーに見られないように手札を持つのも、ギャンブラーには欠かせない素質だ。ギャラリーの誰が相手とつながっているのかはわからないのだから。
 素人目に見てもずっしりとした重さのカバンに、300万ゴールドというとんでもない賭け金。そして今のセリフからは、この勝負が常人には理解できない領域にあることを匂わせてくれた。

「おお、さすが異端児。その勝負乗ったぜ!」

 対する女も、逡巡することもなく陽気に応える。ナルが王族であることを知られないようにする程度には気を使ってくれているみたいだ。
 そんな女の行動に少しだけ感謝しながらも、ナルは聞きたかったことをこのタイミングで女にぶつけていった。

「ところで、あなたの名前は何ですか? 私だけ一方的に知られているのは不公平です」

「おっ、それもそうだな。わすれてたよ。アタシの名前はセロだ。」

「セロさんですね。それじゃあカードをシャッフルしたので、適当にカットしてください」

「へーい。 まあこんなもんでどうよ」

 凡人には目もくらむような大金がかかっているというのに、そんな緊張感は微塵も感じさせないセロの態度を、ナルは訝しげに覗き込んだ。

(セロさん……本当の強者なのか、それともただの馬鹿なのか。できれば前者であってほしいものですね)

 シャッフルとカットを終えたMANAカードが、二人の手元に7枚ずつ配られる。一呼吸置いて、それが試合中の流儀であるというかの如き笑顔を顔に貼り付け、1回戦の戦略を立てるためにナルはカードをめくり上げた。

炎の4風の2水の2風の9土の9水のドロー2ワイルド ……悪くないです)

 同じ数字のペアが2つあって、ワイルドも保持している。
 一対一の戦いでは強力な武器になるスキップがないのは痛いが、セオーリ式のルールではドロー2がうまくハマれば相手の手番を飛ばすことができる。水のドロー2を使うタイミングが勝敗を決することになりそうだ。
 問題となるのは相手がドロー2を保持しているか否か。ナルの手元にはドロー2が1枚しかない。これを返されたら目も当てられないのだ。

「ふんふんふん、それじゃあ最初のカードは……風の4! どうぞ!」

 セロが山札の1番上のカードをめくる。最初の手番が来るのはナルであり、迷うこともなく一枚のカードを選んで場に送り出した。

炎の4です」

 わかりやすいように、カードを相手の方に向けて場においたナル。
 幸先よく孤立していた炎の4を潰すことができたが、まだ序盤も序盤である。場が大きく動くことはないだろう。
 しかし、そんなナルや周囲の人達の予想を大いに裏切って、セロはいきなり勝負を仕掛けにくる。

ワイルドドロー4だ」

「……はい?」

 ナルは思わず耳を疑い、顔面に貼り付けた笑顔を一時的に歪ませた。場に出されたのは誰がどう見てもMANAの最強カードであるワイルドドロー4よりほかならない。
 相当に手札が偏っていたのか。いや、例え手札にがなかったとしても、こんな序盤に最強のカードを捨てるような真似は、少なくともナルの考えている戦略の中にはなかった。

(残念……ただの馬鹿でしたか……)

 傍目から見れば、いきなり4枚ものカードを引かされて勝ちから遠ざかったことに落胆しているようにみえるだろうか。
 実際はそうではない。ナル自身が僅かにでも期待していた相手が、MANAのイロハも理解していないようなやつだったことに対する失望であった。

(まあ、受けてしまった勝負はしょうがないです。さっさと3連勝して帰ることにしましょう)

 たった今、ナルが引いたカードは、炎の0土の7風のリバース、そして。

(あ、こっちにも来ましたか)

 ワイルドドロー4であった。

(MANAに含まれているワイルドドロー4は2枚だけ。セロさんには悪いけれど、このワイルドドロー4はセロさんには絶対防げない弾丸です)

 今さっき出てきたワイルドドロー4と、今ナルがもっているワイルドドロー4。これ以外にワイルドドロー4がないことは自明の理だ。
 何なら今すぐ出してもいいのだが、3本先取の戦いなら相手の手札を無駄に増やしてもそこまで有利に働くことはない。だったら適切なタイミングまで使うのを待ったほうがいいだろう。
 一瞬のうちにそこまで判断したナルは、しかしながら表情をまた元の張り付いたような笑顔に戻し、にこやかに次の手順を回すべく手を差し出した。

「どうぞ、次はセロさんの番ですよ」

 ワイルドドロー4で山札から引かされたナルは、このターンは1回休みだ。場を支配する属性はとなり、そのままセロの手番が回ってくる。

「ホイ、水のリバースだ」

風のリバースです」

風の3

風の9土の9

「ふうむ……土の6水の6

 ここまで来て、現在のナルの手札は6枚、セロの手札は2枚にまで減った。
 この辺がちょうどいいタイミングだろう。そう考えたナルは、不可避の一撃を浴びせるために、手札の右端においた最強のカードに指をかける。

ワイルドドロー4です」

 あくまで笑顔は崩さず。それでいて冷徹に相手の上がりを妨害する。
 この勝負は、相手の上がるタイミングをいかに見計らえるか、自分の上がるタイミングをどこまで悟らせずにいられるか。そんな心理戦を呈した戦いなのだ。
 間違っても、序盤の序盤でワイルドドロー4を捨てるようなやつが勝てるような勝負ではないのだ。
 そんなことを考えながら、ナルはセロにカードを4枚引くように促した、その時である。

MANAワイルドドロー4返し、だ。」

「は……はあぁぁ!?」

 思いもよらなかった反撃を喰らい、ナルは慌てて山札の下を漁る。
 下から3枚目にあったはずのワイルドドロー4は、果たして水の4に変化していた。

(まったく! 気づきませんでした!)

 おそらくは先ほど、土の6水の6の同時出しをした時だろうか。セロはカードを出す手にもう一枚水の4を仕込んでおき、場札にあったワイルドドロー4とすり替えたのだろう。
 周囲の人でさえ誰ひとりとして気が付かなかったが、これは考えるまでもないイカサマである。周囲にいたギャラリーたちも、セロに対してブーイングの嵐を浴びせ始めた。
 帰れ、どういうつもりだ、馬鹿にしてんのか……そんな罵声をかけられながらもセロはどこ吹く風でナルに話しかける。

「外野が色々言ってるけれど、どうするんだ? なんならこの勝負はノーサイドで終わるか?」

「……いえ、俄然面白くなってきました。今の1敗は油断した私への戒めです。セロさん、今から私は全力をもってアナタをぶちのめします」

 2枚重ねられたワイルドドロー4に従い、ナルが8枚のカードを山札から引いてセロに手番を回す。当然のことながら、場の属性をに指定したのはセロであり、最後は風の8で勝負が決まった。

 1回戦は、イカサマがキレイに決まったことによるセロの圧勝。最終敵なカードの枚数は0対13であり、誰もが一方的な展開だったと振り返った。
 しかし、1勝は1勝、1敗は1敗。いかに大差だろうと僅差だろうと、セット制のMANAは勝つか負けるか、0か1かの戦いでしかない。

(まあ1回戦は様子見みたいなものですからね。2回戦に向けての布石を打つことにしましょう)

 ナルは手札になっていた13枚のカードと、場に出ていた20枚ほどのカードを重ねると、隣においてある山札への上にその束を戻す。
 出し抜くべき相手に出し抜かれたことに、煮えたぎるような興奮を覚えるナル。その目はこの1年間で誰も見たことがないぐらいに輝いており、確実に相手を仕留める狩人の目となっていた。

 2回戦のシャッフルはセロが行う。カードを配る前の段階。誰もがイカサマを警戒するときだ。
 MANAにおいて、シャッフルする人が何かを仕込むことを防ぐために、シャッフルされたカードはカットしなければならないという暗黙のルールが存在した。

「はい、カット頼んだ」

 シャッフルする人とカットする人は別々。ゆえに、最初に配る段階で有利なカードが来るように仕込むことは不可能。
 そのことはみんな頭ではわかっている。だけど、さきほどとんでもないイカサマを見せてくれたセロなのだ。

(アナタのイカサマに比べればショボいけれど……私だってやられっぱなしは性に合わないです)

 みんながセロに意識が向いている時に、ナルは密かに仕込みをかけた。
 イカサマとも言えない、ほんの小さな仕込み。だがこれこそが彼女の強者たる由縁であり、MANAを勝ち抜くための秘策である。



水のドロー2だ」

土のドロー2返しです」

「く……またかあ! さっきからいいところで邪魔してきてさ。マークキツイって!」

「何を今さら。それがMANAの醍醐味でしょう? はい、土の5水の5。上がりです」

 2回戦、3回戦はナルが勝利した。
 ギャラリーから見てもこのナルという少女の言い知れぬ強さがひしひしと伝わってくるような、そんな試合であった。

 1回戦でセロが見せたような、派手な上がり方でこそない。
 しかしながら、セロの手札が数字カードだけになった時、決まってナルはドロー系のカードを出してセロの上がりを妨害してきたのだ。
 セオーリ式ルール上、最後に記号カードで上がることは許されていない。「MANA」と宣言した相手にはドロー2をぶつけ、上がりを妨害することはセオーリでの常識と言っても過言ではなかった。
 もちろん、上がろうとする側も工夫はする。「MANA」と叫ぶ必要をなくすために、同じ数字のカード同時出しで上がるのは基本的な戦略である。
 しかし、このナルにいたってはその戦略が通用しないようにギャラリーは感じていた。例えセロが3枚同時出しで上がろうとしていたところで、ドロー2をぶつけられて再びカードを増やされるのである。
 天性の読み。そんな言葉が周囲を囲む人たちの頭のなかに浮かぶ。

(くだらないですね。わかってしまえばなんてことないトリックなのに)

 周囲の人達の歓声を浴びながら、冷めた頭で考えるナル。
 相手のセロもナルの仕込みに気づいていないのか、ヘラヘラした顔でカードをシャッフルしてナルに104枚のカードを手渡す。受け取ったナルはというと、セロのイカサマを防ぐためのカットをしつつも、2・3回戦目と変わらない仕込みをかけていた。

 7枚ずつのカードが配られ、4回戦が始まる。ナルは自分のカードを確認するふりをしながら、セロの様子をこっそりと見ていた。

(セロさんの手札は、数字カードが6枚に記号カードが1枚ですか、割と戦いやすいですね)

 自身の勝ちをほぼ確信したナルは、もはや自分の中では冷めてしまったこの勝負をとっとと終わらせるためにその指を動かした。



 4回戦も順調に進み、お互いの手札が残り少なくなっている。そんな中、ナルが待ち望んでいた展開がやってきた。

風のスキップ そして風の3だ。」

(来ました)

 セロの手札は残り2枚。そのどちらもが、ナルにとっては数字カードだと確信しているものである。
 すなわち、今のセロはドロー2を持っていない。2・3回戦で何度も生じたシーンの焼き直しだ。

MANA 風のドロー2です」

 ドロー2を持たざるセロにこれを防ぐことはできない。そして、ナルの手元に残っているのは風の7。これを出せばこの勝負を終わらせられるのだ。
 ナルがそう信じて出したカードなのに、何やらいいようのない不安が襲いかかってくるのか。それとも不敵に笑うセロに対して不快感を覚えたのか。

「……早く、2枚引いてください?」

「へぇ~。まるでアタシがドロー2を持っていないことを知っているかのような口ぶりだねえ」

「持ってないんでしょう。無駄に時間を引き伸ばしても見苦しいだけですよ」

 確信を持って喋る。ナルは1回戦の反省を活かし、相手がカードをすり替えた瞬間がないかを常に意識しながら手札を切ってきたのだ。
 結果は白。場札や山札を確認しても、荒らされた形跡などどこにもない。数字カードをドロー2に変化させることは不可能。
 そう結論づけたナルが、いよいよ勝負の幕切れを掴んだその時のことだ。

「ざーんねん、MANA水のドロー2だ」

「……え?」

 あり得ざる結果に、ナルの脳みそは混乱を極める。

(そ、そんなはずはない! 確かにセロさんはこのカードを……!)

「いやあ、2回もあんな手に引っかかるとはな。でも今回はあんたの仕込み、逆に利用させてもらったぞ」

「……詳しく、聞かせて下さい……!」

 そういうナルの頭には既に結論が出ていた。
 この4回戦。セロは既にナルが小さなイカサマを仕込んでいることに気がついていたのだ。そして、そのことを逆に利用してナルを追い詰めたのである。
 これはただの確認作業。しかし、ナルにとってはセロが期待に足る人物かどうかという別の側面も含めた答え合わせだ。

「まずよ、最初に104枚のカードを確認した時点であんたのイカサマは始まっていたんだ。数字カードが全部同じ向きに揃っているかという確認がな」

 その言葉を聞いたギャラリーにどよめきが走る。
 当然だ。数字カードが全部同じ向きに揃っていたからといって、そのことがなんのイカサマにつながるというのだろうか。

「さらに言えば、あんたは数字カードを出す時に、わざわざアタシが見えやすい向きにして出してくれた。最初は親切な子だなーと思っていたけれど、実際のところは違った。ただ、数字カードの向きがずれないようにしたかっただけなんだ」

 全て見抜かれている。そのことを理解したナルは、淡々とセロの回答に間違いがないことを確かめるという単純作業に入っていた。

「そして、違和感を感じたのは4回戦のカードが配られた時。……今思い出せば、2・3回戦もそうだったのかな。手札を空けたら、数字カードがみんな逆さまになっていたんだ」

 鋭いものは、今の言葉でセロの言いたいことを理解する。そして、少女のイカサマとも言えない小さな仕込みに驚嘆の色を浮かべた。

「記号カードは上下逆さまになっていても違和感ないものばかりだけど、数字カードは違う。水の⇂とか、風のεとか、手札に入っていると気持ち悪いんだよな。ほら、アタシって几帳面な正確だし」

「几帳面かどうかは知りませんが……それで、あなたは……」

「そう、ひっくり返した。数字カードだけを、な」

 ここまでくれば、ギャラリーもみんなこの少女の仕込んだ小さなイカサマを理解したのか。中には驚きのあまりに目を見開き続ける人や、手近にあったMANAカードを使ってセロが言ったことを確認する人もいる。

「タネさえわかってしまえば対策は簡単。4回戦で配られた札には水のドロー2が入っていたんだけど、それもわざとひっくり返した。こうすることで、アンタにはドロー2がただの数字カードにしか見えなくなるって算段だ」

 ナルは深い溜息をつくと、勝者を褒め称えるようにぱちぱちと拍手を送る。

「大正解です。まさかたった2,3回の対戦でそこまで見抜いてくれる人がいるとは思いませんでした」

「いやあ、アンタもなかなか考えたもんだよ。色々とイカサマには出会ってきたけど、これを見るのは初めてだ。はい、水の1で上がりっと」

「それほどでも。では、恨みっこなしの5回戦と洒落込むことにしましょう」

 そういう二人の間には、爽やかな空気が漂っていた。
 ナルの顔に浮かんでいるのは、張り付いた笑顔などではない。1年越しに求めていた人を見つけられた少女の、どこにでもあるような自然な笑顔であった。



土の7!」

水の7!」

水のスキップ、そして水のドロー2

風のドロー2返し!」

 お互いを認めあった二人の戦いは熾烈を極めた。
 ナルが上がろうとすればセロが阻止し、セロが上がろうとすればナルが邪魔をする。
 長引く戦いに、既に山札は底をつこうとしている。場札をシャッフルして新たな山札にする作業を2回も繰り返しているというのに、未だにその終着点は見えてこない。

(でも、なんででしょう……心の底から、楽しい気持ちが湧き上がってきます!)

 300万ゴールドもカバンも、第7王女としての立ち位置もどうでも良かった。ただ、眼の前にいる強敵との戦いを、一分一秒でも長く楽しんでいたかった。
 2人の額には滝のように汗が流れ落ち、ギャラリーに伝播した熱気が賭博場の室温をサウナ状態にまで引き上げている。
 
「楽しいか、楽しいよなあ! MANAの魅力はこんなもんに収まったもんじゃねえからなあ!」

「ええ、そうですね! 母がMANAを極めた理由が、少しだけわかったような気がします!」



 お互いに肩で息をし、腕を使って額の汗を拭う。3回目の山札シャッフルも行い、いよいよ勝負は幕切れへ向かおうとしていた。

MANA!! アタシは次のターンで上がるぜ? できるものなら止めてみな!」

 まだ手札は残り2枚あるのに、必要のない「MANA」を叫んだセロ。
 残り1枚でなくとも、次のターンで上がれるときには「MANA」と叫ぶというローカルルールもある。セロはそれに則って次のターンで上がることを宣言したのだろう。
 それはすなわち、手札が2枚とも数字カードで、しかも同数であることを宣言しているに他ならなかった。

(絶対に阻止してみせます! ワイルド……属性はどうしましょう?)

 場に出ているのは『風の0』今のナルにはワイルド以外に出せるカードはない。なんとしてでもセロの持っていない色を、4分の2の確率を当てなければならない。

(だけど、セロさん。今回のアナタのイカサマはバレバレですよ)

 セロがかけているメガネがうまい具合に光を反射して、セロの手札をうまいことナルに教えてくれている。
 メガネに映り込んだセロの手札は、炎の4、そして土の4だ。

(今までどんなに目を凝らしても見えなかったのに、そんなにいきなりハッキリ見えてたまったもんですか。あれは私からを引き出すためのイカサマでしょう)

 そう結論づけて、風の0の上にワイルドを重ねると。

ワイルド!」

 そう叫んでからセロの顔を見る。ナルの予想とは裏腹に、心底愉快そうな声で笑ってから、

炎の8土の8、上がりだ!」

「なっ……裏の裏をかいてきましたか!」

 お互いのすべてを賭けた5回戦は、セロの勝利。
 何十分、何時間にも及んだMANAの戦いは、セロが宣言通りの2枚同時出しをすることでその幕を閉じたのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「カバンはいらないってどういうことですか、セロさん」

 汗だくになりながらお互いに固い握手を交わした後、夜の道を一緒に散歩するナルとセロ。
 もともと賭けで巻き上げた金、自分の認めた相手に賭けで奪われるのなら本望だと言わんばかりにカバンを差し出したナルだったが、セロは断固として受け取ることはなかった。

「ああ~。まあ金には困ってねえしな。それより、アンタのことに首を突っ込んだほうが面白そうだと感じたわけさ」

「はあ、どういうことでしょう」

「噂には聞いているぜ。お前の母さんだって、もともとは位の低い貴族だったらしいじゃないか。それを、MANAの実力ひとつでこの国の女王にまでなり詰めるなんてな」

「よくご存知ですね」

 この世界では、外交問題が時としてMANAを使った代理戦争にまで発展することもある。MANAの強者であることは、国のトップに立つ者としての絶対必要条件なのだ。
 今は王族の爪弾き者である第7王女のナル。しかしながらそのMANAの腕前は、まだ荒削りな部分はあるが、いずれはあの王女をも超えることになるかもしれない。

「アタシには叶えられなかった夢、アンタになら叶えられるんじゃないかと思ってさ」

「深入りすると面倒なことになりそうですね。そのへんで話止めてください」

「……ほんと、食えない第7王女だよ」

 やれやれと肩をすくめてから、手頃な場所でセロとナルは別れを告げる。
 また数日後に、同じ場所で戦うことを誓い合って。
― 新着の感想 ―
[一言] これいいね。 アイデア次第で広がるし
感想一覧
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