7話「ナンシー家」
誤字がありましたので直しました
~メルク・ナンシーここに眠る~
俺達は今、ノアさんの夫でアルドとメグの父親であるメルクさんの墓の前にいる。
ノアさん達は墓の前で立ちただただ静かに黙祷をささげる。
俺は軽く目をつむり先ほどまでの事を思い出していた。さっきまで会話をしていた人の墓の前に立つというのはいささか変な気分だ。
ノアさんに取憑いていたメルクさんを納得のいく形で成仏させてから数時間もたってはいなかった。
それだと言うのに、ここにいる理由は目を覚ましたノアさんにメルクさんの事を話すところまでさかのぼる。
☆
「ん……ここは?」
「お目覚めですか?」
どうやらノアさんが目を覚ましたようだ。正直な話目を覚ましたらいきなり見知らぬ男が居たら驚くであろう。男でなくても驚いただろうけれど。実際目を覚ましたばかりであるのに目をこれでもかというほど見開いていた。
「え?誰?!どうしてここに!?」
「まぁまぁ落ち着いてください。いきなり知らない男がいて驚くのも無理はありませんが、今は安静にしてください。今まで……といっても数日ですが寝たきりだったのですから」
俺はノアさんを落ち着かせるように穏やかに、それでいて有無を言わさないように話す。
とことで数日とはいえ飲まず食わずでよく生きていたよねこの人。点滴とかしてなかったし栄養摂取どうしてたんだろ。
「子供たちは?」
「そうですね、今連れてきましょうか」
今まで倒れていたにもかかわず子供の心配をするとは。なかなかに母親しているじゃないですか。確かにこの人ならおっさんの言う通り安心かもしれんな。
さて、母親の頼みである子供たちを連れてこなければいけないな。部屋の外で待っている子供たちを。
「「お母さん!!」」
「アルド、メグ!」
母と子の感動の再開だ。
特にアルドとメグからしたら数日寝たきりの母親を見守る事しかできなったのだ。母親は何だか分からないが、無性に懐かしく感じているのだろう。
子供たち二人は声を出し涙を流している。
それに対しノアさんは涙は流すものの声を抑え泣いている。
泣き方は違うけれど泣いている理由は同じ。久しぶりに会えた。たったそれだけ。けれどもたったそれだけの理由でも泣けてしまうのだ。
本当に愛しているから。
そんな親子にそっと祝福のヒールをかけておいた。
「あの……失礼ながらあなたは?」
「おっと申し遅れました。俺の名前はユウマ・アマノです。息子さんが助けを求めていましたので、引き受けさせていただいた次第です。」
「そう……だったんですね」
「兄ちゃん、お母さんを助けてくれてありがとうございます」
「ありがとうございます!」
ノアさんは俺がいることになんとなくだが納得し、アルドとメグは俺にお礼をしてきた。できた子たちだ。
「いいよ。それよりお母さん元気になってよかったな」
俺は笑いながらアルドとメグの頭を撫でてやった。
さて、そろそろいろいろと落ち着いたとこだろう。おっさんの話をしなくちゃな。
「そうですか……あの人が」
「はい。信じがたいかもしれませんが」
「いえ……信じます。倒れているときあの人の夢を見ていた気がします。あの人の泣きそうな顔の夢を」
夢の中でノアさんに訴えかけていたのだろうか。今ではもう確認することはできない。けれどそれは、決して夢の中だけの物語ではないのだろう。寝言でつぶやいていたように。夢から覚めた今でもうっすらと覚えているのだから。
ノアさんが何かを考えてから口を開く。
「今からあの人のお墓参りに行きたいと思います」
「それなら俺もついて行っていいですか?今一度伝えたいことがあるので」
「伝えたい事?」
「はい。自分の言葉できっちりと伝えたいので」
「分かりました。アルド、メグお父さんのお墓参りに行きますよ」
☆
こうして俺はメルクさんのお墓参りにきている。
伝えたいことはまだ言えていない。いざ言おうとしてもなかなか口が回らない。
自分が臆病者だと認識させられた。
でもこれでいいのかもしれないな。俺が変に何かを言ってもメルクさん的にはいい迷惑だろう。
「アマノさんありがとうございました。こうしてまたあの人の愛を確認できましたし、この子たちの成長も見れましたし」
「いや、俺は何もしていませんよ」
本当に。俺は何もしていない。したことは霊と話をしたことくらいだ。あまり何度もお礼をされるとむしろ皮肉に聞こえてしまう。
「またこの子たちと平和に暮らせそうです」
笑顔のノアさんが言った。その両手にはこれまたいい笑顔の子供たち。いい画だ。
だが、その笑顔は長くは続かなかった。
いきなりノアさんから笑顔が消えた。笑顔の代わりに驚や怒りなどの負の感情の顔だった。
その視線は俺の後ろの方へと向かっていた。
そこには身なりのい小太りのおっさんとSPみたいな図体のいい人が立っていた。
「探したぞノア。さぁ帰るぞ」
「お父……様」
ノアさんのお父さんだったようだ。
ノアさんはひどく怯えている。実の父親にする反応じゃない。
いや、そうでもないか。もとの世界でも自分の子供に暴力を振るうキチ○イはいた。
そのせいで親にたいして殺意や恐怖などの感情が芽生える。今のノアさんの表情がそれだ。
そういえばノアさんはメルクさんと駆け落ちしていたんだった。そのこともあり今の表情なのだろう。
「奴はもう死んだ。なら、もう心残りはもうあるまい。おとなしく帰ってくるんだ。お前にはふさわしい相手がいる。その相手ももう決めてある。あとはお前が帰ってくるだけだ」
「勝手なことを言わないで!何が私にふさわしい相手よ。そんなの……お父様に利益があるってだけでしょう!?そんな相手私は嫌!死んだほうがマシよ!」
ノアさんは声を張り上げて反発をした。
「だから私は帰らない!」
そして強く拒絶した。
やはりあのおっさんはキチ○イの性質を持っていましたか。そうだと思っていましたよ。だって好きだった相手が死んだから心残りないだろうって。意味わかんない。
それに金持ちってやっぱり結婚相手勝手に決めるんだな。二次元の話だと思ってた。
金持ちや貴族が皆こうではないと思っている。思っているけれど目の当たりにすると皆こうなのでは?と思ってしまう。
○○厨とかと同じだな。一部の過激派のファンが問題を起こしたせいでその作品のファン全員が悪者扱いされる。それと一緒だ。
それでも皆一緒だと決定しないのはノアさんの影響だろう。ノアさんは普通の(何をもって普通なのか)考えを持っている。
少なくとも夫が死んだから心残りがないなんてふざけたことは言わないだろう。
そもそもその言葉そっくりそのまま自分に返ってくるんだよな。分かってんのか?おっさんよ。おっさんが死んでも誰も心に残してくれねーよ?すぐどっか行くよ?わかってるの?
「その言葉自分に返ってくるってわかってるのかなあの豚野郎」
……とか思っていたら口に出してしまった。ほっほう、しかもおっさんが豚野郎に進化している。
やってしまいましたねぇ。傍観してようかなぁとか思っていたのに。やばいよ。思いっきりこっち視てるよあの豚野郎。キモイノデミナイデクダサイ。
「貴様……今何と言った?この私を豚畜生呼ばわりしなかったか?」
「いえいえとんでもない。そのようなこと致しませんよ」
「そうであろう。この私を豚畜生ごときで呼ぶわけがない」
「ええ。豚に失礼ですからね」
おっとつい本音が。顔真っ赤ですよおっさん。おっさんの赤面した顔なんて見ても嬉しくないのでやめてもらっていいですか?
あーあ、完全に怒ってるよ。頭どころか全身に血がいきわたってるよ。当たり前か。
どうしようかな。すごく面倒くさそうなんだよな。まったく誰だよあいつ怒らせたの俺だよごめんなさい。
「き、貴様ぁ」
プルプルと怒りに震えるおっさんが俺の目を見つめてくる。そのたびに俺のSAN値が減っていく。
いや、ステータス上にそんなものはなかったけど。減ってる気がしてならない。今だってほらゴリゴリ減ってるよ。そろそろ発狂のダイスふらないといけないかも。
「もうよい!おい!ノアを無理やりにでも連れてこい!お前はあの汚らわしい血が流れるガキとこの私を豚畜生呼ばわり……あげくに豚畜生に失礼だとかぬかしおる奴を殺せええええええ」
「いやああああ!」
「「お母さん」」
馬鹿なこと考えているといつの間にか話が進んでいる。あのおっさん左のSPにノアさんを連行命令し……右のやつにはなんと命令した?
子供を……殺せと言わなかったか?
本当にキチガイ野郎だ。この家族に不幸が来てるのこいつのせいなんじゃないのか?そう思ってしまうね。
特にアルド君。速攻でSPに殺されそうになってる。おおよそ子供が精神的に耐えれるであろうものはとっくに過ぎている。けど妹を必死で守ろうとしてるアルド君マジかっこいい。
ま、見ていて気落ちのいいものじゃないし。子供に意味もなく暴力をふるうなんてどうかしてる。人としてだけでなくいろんな意味で。
だから、アルド君を殺そうとしているSP2号(ノアさんを掴んでいる方が1号)の手を掴んでそのまま手を潰し豚以下のおっさんに向かって投げつけた。シューーーート!超エキサイティング!
「ぐわっ」
コントロール抜群!きっとステータスの命中の欄は100だな。見れないからわからんけど。
1号は流れについていけないようだ。唖然としている。素人だなこんな時に唖然しちゃうなんて。だが俺にとってはチャンス以外の何物でもないので有り難い。
そんな1号君は腕を折ったのちにノアさんを救出。折った腕は握ったままなのでおっさんの方へと投げつけてみました。いかがでしょう。
「ぐえ」
大変好評のようでワタシモウレシイデス。
なんていうか、元の世界じゃ絶対にできなかったこととか特に俺TUEEEEEEEEEEEができて楽しいです。超エキサイティングしちゃいそう。つく○オリジナルから出そう。
「メルクさんに一方的かつ強引に誓っちゃいましてね。ノアさんでもどうにもならない事が起きたときは、俺があなたの代わりに助けますよって」
こんなに早くその時が来るとは思ってなかったけど。
「くそっ、覚えていろ!私の邪魔をさらには侮辱までも……絶対に後悔させてやるからな」
「ええ。お待ちしております」
「くっ」
ふむ、小学生でも引っかからないような煽りに面白いくらい引っかかってくれました。楽しい……けどいかんな。
さて、余計なお世話を焼いていしまったな。ナンシー家の人たちに今の俺はどう映るのだろう。
変に状態を悪化させてしまったし憎んでいるだろうか怒っているだろうか。それならそれでいい。けどまだこの家族から離れるわけにはいかない。
「兄ちゃん……強いんだね」
「ああ、兄ちゃんは強いよ。お前たちを守るくらいには」
ここで弱いなんて言わない。無駄に不安にさせないためにも。俺はこの子らの前では強くなくてはいけない。この子たちが守る側に立つまでは。
例えフォルゲン隊長との約束を破ることになろうとも。
「アマノさん、ありがとうございました。おかげさまでお父様に連れていかれずに済みました。子供たちの命まで。なんとお礼をしたらよいのか」
「いえ。余計なお世話を焼いてしまっただけなので。むしろ悪化させてしまい申し訳ないです」
「そんなことはありません!最悪の事態は避けることができました」
その言葉は子供を想う母親としての言葉だった。
俺としては今の言葉がとてもありがたかった。
「そうですか、ならよかったです」
本当に。
風も慰めてくれるかのように体を冷やす。
「冷えてきましたね。そろそろ帰りましょうか。アマノさんもよければ家でご飯食べていきますか?」
ノアさんの一言で解散する流れになった。ご飯に誘われたが遠慮しておこう。なんかだいぶん時間がたっている気がするけれどノアさんは今日元気になったばかりなのだから。家族水入らずを邪魔するわけにはいけない。
家に帰ってから若干後悔したのは内緒の話である。
◎
次の日ギルドにお仕事をもらうために足を運ぶと俺に用のある人だまりができていた。
なにこれ怖いキモイ人がうじゃうじゃいる。殺されるんじゃないの俺?
ドッキリかと疑いもしたがこの世界にそんなことをする暇人居ないなと結論付けた。身内ならまだしも点で知らない人にドッキリしかけるとかコミュ力ありすぎぃ。
さて、この人たちだがナンシー家の知り合いらしい。
なんでも医師でも匙を投げる病を治したという噂が広がったのだとか。なぜ広がってるんですか?
答えは簡単。ノアさんたちが仲良く昔のように買い物をしていたからだ。ね?簡単でしょ?
てか、本当にノアさんタフだな。タフってか実は人間じゃない可能性が微レ存?普通の人間ならまだ動けないはずなんだよな。栄養失調的な意味で。数日何も口にしてないのだから死んでいてもおかしくないのだが。
そこはこの世界の人はそういう体の組織をしているってことと母は強しってことで一つ。
集まった人たちの依頼は大体同じようなものだった。負傷した家族や冒険仲間の回復、病の治療などだ。
正直な話俺にも生活がかかっている為、この人数をボランティアしてやるつもりはない。
ナンシー家は特別だ。今もまだ続いてるし。
そんなわけで俺に生活が懸かっているからギルドで正式に依頼してね♡というと皆一目散にギルドへと入っていた。 きっと俺がキモかったのだろう。
フォルゲン隊長が危惧していたことは起きなかった。何故?
てことで一人首根っこを掴んで聞いてみた。
「そりゃ、変に反論して激情を買い治してもらえなくなる位なら素直に従うんですよ」
だそうだ。なんか捻くれてる様な正論のような。
依頼人の中にはなんと肉屋や八百屋の人がいた。これはラッキーである。その人たちにはお金じゃなくしばらく食材の融通を頼んだ。
これでしばらく食に困らないな。あれ?今のところあの王から貰ったの家だけじゃね?
……気にしないでおこう、無能っぷりが露見してしまうから。ふふふ。
食は何とかなったけど服はどうするかな。もしかして食の方も衣の方も自己申告制?近いうちにフォルゲン隊長に聞くとしよう。
◎
まずは肉屋さんの依頼をしに病院にやってきた。ここにいるらしい。
てか、何気に病院の場所も今知ったところだ。ギルドからそう離れていない場所にあった。
さてこの肉屋、自分のところで飼育をして加工までしているらしい。やべーな。
飼育しているモータル(元の世界の牛)に蹴られあばらが折れ内臓も少しやられたらしい。本当になんでこの世界の人ってこれで生きていられるんでしょう。
やられどころが悪くて骨が折れるくらいは元の世界でもあったが……内臓か。もしかしたら牛でもなったのかもしれんな。
話がそれた。
蹴られたのは3日前らしい。タイムリー。絶対使いどころ違うねごめんなさい。
医者からは持っても今日までと診断されていたらしい。むしろ今日までよく生きれるなんて診断で来たなと言いたい。実際生きてるけども。
そんな診断されたときに俺の噂を聞いたらしい。藁にも縋るとはこのこと。
「それじゃあ、その人と合わせてもらっても?」
「ああ、こっちだ」
案内され病院の中をしばらく歩きある部屋の前で止まる。
「ここだ」
今にも泣きそうな顔と声をしていた。泣くなよ、怖い顔がさらに怖くなってるぞ。
病室に入るとそこには酸素マスクをつけ点滴や心臓が動いているかチェックする機械がつけられている。この人の奥さんであろうその人はそんな状態で苦しそうに眠っている。
「頼む……妻を……助けてくれ」
だから泣くなって怖いから。ここまで来て嫌ですなんて言わないから!そんなド畜生じゃないから。仮に帰ったら鬼畜すぎるだろ。
「ヒール」
たったそれだけ。
「おお!おおおおお!」
たったそれだけ唱えると遣られたであろうへこんだお腹はみるみるうちに普通のそれになっていった。
こうしてまた一つ尊き命を救った。