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9 「それでも、俺は見捨てるのはイヤだよ」

 悠真は相変わらず、シルと共に歩き続けていた。

 あれから五時間くらいは普通に経っていると思われた。

 ロストは確実だろう。戻れるかはわからないが、戻れると信じるしかなかった。


 そして、今はお腹がすいたからと、鞄から食料を取り出していた。


 なにかトラブルが起きたときの為に持ってきていて良かったと思う。

 シルには、鞄の中に入っていたパンを渡しておいた。


 しばしの休憩だった。

 膝の上のシルは本当に手触りがいい。

 悠真は疲れていたのもあってそのまま眠ってしまいそうになるが、それだけはダメだとなんとか起きていた。


 携帯食料にかぶりつきながら、周囲も警戒する。

 世界の悪意の気配はなく、シルも悠真も安心していた。


 ――異変が起きたのはそんなときだった。


 ガキンという音が、遠くから響いてきたのだ。

 なにかと何かが戦っている音。そう思うのが妥当だった。


 悠真は素早く片付け、シルもすぐに悠真の膝から降りた。


 ガキン、……ガッ。

 そんな音が未だに続いている。


 戦闘音がするということは、人がいる可能性が高い。

 悠真はシルの方を見るが、シルも悠真の方を見ていた。

 悠真は頷く。

 期待と不安を胸に、悠真は音がする方向へと歩き出した。




 音がした場所。そこは、少し開けた場所だった。

 そこに、大量の世界の悪意が集まっている。

 異様な光景だった。

 悠真は曲がり角から覗き込み、なぜそんなことになっているのか、その原因を探る。


 悪意が集まっているその中心。そこで、何かが動いているように見えた。

 悠真は目を凝らす。


「あー、もう。数多すぎ!」


 急に聞こえた声に悠真は肩をビクッと震わせた。

 そして、その声によって、ようやく悠真はその何かが人であると気づいた。


 中心の人物は自分より大きな、骨でできた斧を操り、周りの悪意を葬っていく。その人物はフード付きのマントのようなものを身に付け、顔を見ることはできない。が、女性であることはわかった。


 あの量の悪意を相手にしている時点で、相当の手練れだということはわかる。

 たが、いかんせん数が多いが故に、このままでは危なかった。

 もし、もう少し数が少なければ。悠真はそう思う。


 悠真の頭によぎるのは、囮になるという選択。

 少しでも数を引きつけることさえできれば、あの女性はきっと一人でどうにかするだろう。

 避けるだけなら、悠真にもできるかもしれない。


「ニャッ!」


 そう考えていたら、シルが珍しく鋭く鳴いた。

 悠真に向かって、その目をまっすぐ向けてくる。

 悠真には、それが怒っているように見えた。まるで、行くなと、そう言っているようで。


「……ごめんな。それでも、俺は見捨てるのはイヤだよ」


 その言葉は、悠真の心からの言葉だった。

 たとえ他人であったとしても、きっと、見捨てたら悠真は後悔する。

 そんな確信がどこかにあった。


「それに、死ぬ気は少しもないから」


 悠真のその言葉に、シルは下を向く。

 そして、シルは、突然走り出した。方向は、あの悪意の集団。


「……え? おい、待て! そっちは……シル!」


 悠真は、最初動けなかった。だが、すぐに追いかける。悠真はシルを見つめ、そして、その体に浮かんでいた赤い鎖の紋様が光っているのに気がついた。


 次の瞬間、その紋様が光となって空中に広がる。

 その代わりに、シルの体から紋様が消えていた。


「……なにが」


 悠真がそうつぶやくのと同時に、シルの体に変化が起こった。


 たちまちその体は膨張し、大きくなる。毛も深くなり、最終的にその姿は銀色の獣になった。


 変身が終わると、そのまま走り込み、悪意に噛み付く。その目は、オッドアイではなく、両目ともが赤く輝いていた。


「……シル?」


 悠真は呆然としていた。だが、シルがしようとしていることはわかった。

 シルは、悠真がしようとしていたことをかわりにやっているのだ。


 だったら、悠真がする事は一つだった。


 シルと同じように悪意に走り込み、その体にドライバーを突き刺す。

 シルが多めに引きつけてくれているお陰で、そこまで危なくはない。

 あれから、何回も一匹はぐれているやつ相手に戦ってはいたのだ。一匹ずつなら、もう、危なげもない。


 悠真は一匹ずつ、確実に仕留めていった。シルはそのほとんどを一撃で仕留める。


 中心にいた女性は悠真たちの助太刀に気づいていたようだったが、今は目の前の敵に集中していた。




 すべてが終わったとき、悠真は疲れて座り込んでいた。シルはその大きな銀色の獣の姿のまま、悠真の近くに座り込む。

 悠真の後ろに座り込み、まるでよしかかれと言うようだったので、悠真はおっかなびっくりよしかかった。

 悠真はモフモフのその毛を堪能する。


 そこに、先ほどの女性が近づいてきた。


「ありがとう、助かったよ」


 そう言いながら、その女性はフードを取る。

 肩までかかる赤いその髪が露わになり、その整った顔がはっきり見えるようになる。

 次に、その女性は先ほどの斧を持ち、横に振るった。

 突然の行動に驚くが、その斧は悠真の頭上を通り過ぎていく。そして、悠真は不思議な光景を見た。

 真上で、その斧はひとりでに変形し、その形を変える。変形したその斧をその女性は後ろに背負った。


 悠真は確信した。この女性は異世界人だ。


「……ねえ、聞きたいんだけど、ここ、どこ?」


 そして、その言動から、きっと、今ここに来たのだろうとあたりをつける。つまり、マヨイビト。

 マヨイビトって珍しいんじゃなかったんですか。悠真はそうアマネに言いたかった。

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