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2 「俺の夢は、ネコカフェを開くこと」

 


 悠真は孤児だった。

 小さい頃に、玄関の前に捨てられていたらしい。名前は、孤児院の院長先生がつけてくれた。

 だから、悠真は自分の名前が好きだった。何より、大好きな院長先生がつけてくれたということが嬉しかった。院長先生は、悠真の心の支えだった。


 悠真はいじめられていた。

 孤児院と小学校。その両方でいじめられていた。学年があがっても、それは続いた。

 院長先生はみたら止めてくれた。助けてくれた。けど、いじめる側はドンドンうまくなって、見えない所でいじめられるようになった。

 学校に行っても、孤児院に帰ってもいじめられる日々。癒やしなど、どこにも存在していなかった。

 それでも、悠真が人生をあきらめないでいられたのはひとえに院長先生のおかげだった。

 過去に一度、悠真が死のうとしたとき、院長先生は叱ってくれた。自分を想ってくれた。死んだら悲しいと、そう言ってくれた。

 だからこそ、悠真は死なないように、自殺することのないように、ただ我慢していた。


 悠真は料理が好きだった。料理をしている、その瞬間は楽しかった。院長先生に教えてもらったことというのも、深く関係していた。

 悠真には、確かに料理の才能があった。悠真の料理を食べて、おいしいと言ってくれる院長先生が、本当に好きだった。



 けれど、心の支えは唐突に失われた。

 院長先生は、悠真が六年生の時、悠真の目の前で倒れた。

 それからは、本当にあっけなかった。希望が失われるのは、本当に一瞬なんだと、悠真は理解した。

 死因は脳梗塞だったらしい。悠真は自分の無力さと、これからの絶望に泣いた。


 それからも毎日は続いていた。

 悠真はそれでも、院長先生が言ってくれたから、死にたくはなかった。絶対にあきらめないと、そう心に決めた。

 そんなときだった。悠真が新しい心の支えに出会ったのは。


 ある、六年生の雨の日。

 ザーザーと雨が降る中、悠真は通学路だけが誰にもなにもされない時間だったから、ゆっくりと、ゆっくりと学校への道を歩いていた。


「にゃあ」


 唐突に、そんな声が聞こえた。

 顔を下げて歩いていた悠真は、その声がした方向を見る。

 すると、そこにはダンボール箱があった。箱には、拾ってやってくださいとそうかかれている。

 悠真はなんとなく、本当になんとなくその箱に近づいた。


 そこには、弱った猫がいた。灰色で、とてもきれいな毛並みなのに、とても弱々しくて、今にも死にそうで――。

 悠真は朝食の為に持ってきていた食パンをいつの間にか差し出していた。


 猫はすこし躊躇って、それでも空腹に勝つことはできなかったのか、やがてもそもそと食パンを食べ始めた。


 可愛いと悠真は思った。それと同時に、他の自分を害さない生き物を見て、涙すら流していた。

 悠真はこの猫を世話すると決めた。



 それからは少しだけ毎日に色がついた。

 学校への行きと帰りに食べ物を猫に渡す。それから少し猫と遊んでから、学校に行く。

 間に猫の世話が入っただけだった。本当にそれだけだったのに、心がだいぶ軽くなった。

 悠真は、猫をシルと名付けた。理由は毛並みが灰色で、時折それが銀色にみえたから、シルバーからとって、シルにした。


 そんなときだった。

 学校で、夢はなにかを書いて発表するという授業があった。そのための作文は宿題になり、悠真は夢について考える機会を持った。

 そんな日の学校の帰り道。電化製品を扱っている小さな店の店頭。そこでやっていたテレビの特集に目が止まった。


『……ネコカフェは今猫好きの人達の中で大人気です。猫が癒やすというその……」


 悠真はそのネコカフェという言葉がやけに気になった。悠真はその番組をじっと眺める。そして、ネコカフェがどういうものなのかを知った。

 そこで、先生の言っていたことを思い出す。先生は、好きなことを仕事にと言っていた。

 悠真は料理が好きだった。そして、シルという猫のことも、大好きだった。


「……ネコカフェ」


 悠真は呟く。それは、悠真にとって理想の職業と思えた。

 悠真は自分の夢を決めた。作文の題名は次のようだった。


『俺の夢は、ネコカフェを開くこと』


 悠真はそれを学校で発表した。当然笑われたが、それでも構わなかった。


 悠真は、ネコカフェを開くと、心からそう決意していた。

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