第百六十九話 ラース教皇国での出来事 その32
振り返るとそこには白いローブを着た中年くらいのおじさんがいた。
白いローブだからおそらくラース教の信者なんだろうけど……首元には金のネックレス、指には宝石と煌びやかな装飾をしている。
ラース教の総本山の信者とは思えない格好だ。
「なんでもありません、エイブラム司教」
えっ……?
この人が司教なの?
こんな格好をした人が司教なんて……。
もしかしたら……。
「そうですか。でも、巫女様とは言え勝手に部外者を入れるとは関心できませんね。なんせラース教の総本山ですから。それに巫女様の身に何かあれば次期大司教となるであろう私も心配でなりませんからな」
そう言ってエイブラム司教はニヤリとする。
ルルが言ってた命を狙ってるってのはやはりこいつなのか?
「……勝手に申し訳ありません。しかし、この方達は大丈夫です。光の精霊様の加護を受けておられますので」
ルルは俺たちを見る。
それに合わせてエイブラム司教も俺たちを一瞥した。
「……なるほど。一名、特殊なようですがあなたが噂のドラゴンキラーですね。まぁいいでしょう。とにかく問題を起こさないでくださいね」
エイブラム司教はそう言葉を放つと俺たちを置いて歩き出して立ち去った。
俺たちは姿が見えなくなるまでその後ろ姿を見ていた。




