第百話 コルト都市国家での出来事 その15
俺はダリウスさんと相談し、とりあえず亡くなった冒険者の遺体を氷漬けにする事にした。
このまま血の匂いを充満させていたら、遺体は魔物や動物に食べられてしまう。
せめて、遺体はちゃんと供養してあげたい。
でも、戦闘狼が襲ったのだとしたら、なぜ遺体をそのまま放置したのだろう。
疑問が浮かぶけど答えはでない。
俺が氷魔法を使えるのに、ダリウスさんは少し驚いた様子を見せたけど、それだけだった。
いつもの様子と違う。
やっぱりダリウスさんも同じ冒険者、さらに見知った人が無惨にも殺された事、それに自分と同じランクの冒険者がいとも簡単に殺られた事にショックを受けているのだろう。
「ダリウスさん……」
「悪い! さぁ、行くとするか!」
ダリウスさんは明らかに無理をしている様子だ。
でも、俺はダリウスさんにかける言葉が見つからなかった。
「みんな聞いてくれ。話がある」
ダリウスさんと俺はロイ達の元に戻るとさっき目にした光景を説明した。
「うそ……? 何が起こってるの!?」
「お兄様……こわいです」
「そんな……」
女性3人は今起こっている状況をとても不安に感じているようだ。
そりゃそうだよな。
実力者があっと言う間に殺され全滅……。
予想外の出来事だ。
「実力者達があっと言う間に全滅……これは何かあるな」
「そうだな。これは俺達にしか解決できない事かもしれない」
沈黙していたウィルとロイが口を開く。
確かに、俺達は人並み外れた力を持っている。
その力はこういう時に使うものかもしれない。
でも……。
「……ここで取れる行動は二つだ。一つは今の事をギルド職員に伝え、対策を考えた上で出直しを考えてもらう。もう一つはこのまま討伐を続けるか……。正直予想外の事が起きちまっている。だから、これから先は強要できない。考えて欲しい」
ダリウスさんの言う事を俺も感じている。
俺自身はこのまま討伐を続けて被害をこれ以上出ないようにしたい。
俺はそういう為に力を使うと決めたから。
おそらく、ロイとウィルも同じ考えなのだと思う。
でも、不安に思っている女性3人をこのまま連れて行くのは……。
俺達パーティーに沈黙が流れる。
「……私はこれ以上被害が出ないように続けたいです! あ、足手まといになるかもしれませんけど……」
沈黙を破ってシャーリーが言葉を放つ。
でも、シャーリーは言ってから自分が偉そうな事を言ったと思って気まずそうだ。
「私も! そのつもりで来たんだから! 何かあったらロイ君が守ってくれるよね?」
「お、おう!」
シャーリーに続いてアリィが言う。
急に話を振られたロイはタジタジになりながら返事をしている。
……ロイもアリィには本当弱いな。
「私も頑張ります! お姉様達に負けてられません! それに私もお兄様が守ってくれますもの! ねぇ? お兄様?」
「当たり前だ。俺が戦闘狼に遅れを取る訳がない」
どうやらソニンも討伐を続けるつもりのようだ。
こういう時ってウィル物凄くカッコよく見えるな。
相手が妹でなかったら最高の場面だ。
「……いいのか? おまえ達」
俺達の様子を見ていたダリウスが問いかけてくる。
「みんな続けるつもりでいるみたいです。それに俺達が帰るって言ったら一人でも行くつもりだったでしょ?」
ダリウスさんは見た目と言動に反して、いろいろ気遣ってくれたり優しい面がある。
自分から先頭という危険な役を買って出たり、今もこうやって俺達の意志を確認してくれたり。
仲間思いな一面がある。
さっきのパーティーの中に知った顔があったと言っていた。
ダリウスさんはもしかしたらその人と一緒に組んだ事があるのかもしれない。
物凄く思い詰めた顔をしていたから……。
「へっ! そ、そんな事ねぇよ! ほら! 行くなら行くぞ! 戦闘隊形組め!」
ダリウスさんの掛け声のもと、俺達は戦闘隊形を整えた。




