ハッピーエンド
「ごめんね、雅君」
「助けてやれなくてごめんな」
皆が彼奴を囲んで笑っていた。
申し訳なさそうに、
辛そうに。
「ずっと辛かったでしょ…?」
涙を目に溜め、彼奴の頭を撫でる女。
それに震えながら小さく頷き、涙を流した彼奴は、嬉しそうで。
そんなこと、どうでもいい事だったが
第一話
「ハッピーエンド」
そう、たまたまだった。偶然だったのだ。
俺が通っている学校に彼奴が転校してきたのは。
俺の名は御崎悠斗といい、彼奴の名を白崎雅という。
俺は学校の生徒会長だった為に仕事が忙しく、転校生と関わることがなかった。
だから彼奴がどんな人間なのかなんて知らないがこれだけは言える。
彼奴は異常だと。
運動神経抜群、成績優秀、容姿端麗、性格はとても明るく優しく来る者拒まず、去るものを追う。
つまり彼奴の周りには人で溢れているのだ。男女関係なく、皆平等に。
それ故に彼奴は愛されていたのだろう。
それが俺は怖かった。
確かに完璧とも言えるだろう彼奴は。だがよく考えろ。
俺は高校生だ。後数年で成人できるのだ。
それがなんだ、餓鬼の様に群がり、挙句の果てには生徒会の仕事までほったらかしにする奴がいるだろうか?いや、いないだろう。
あまりにも、異様すぎた。完璧とはいえ、彼奴も人間だ。ウマの合わない奴だって数人はいるだろう。
皆から愛されている。その現実に、異常に誰も気付かない。
だから俺は必要最低限彼奴とは喋らなかった。
そして生徒会の仕事をやる奴がついに俺以外居なくなり、疲労が人の限界を超えそうになった時、事件は起きた。
白崎雅が何者かからいじめを受けている。
そんな噂が立ち、瞬く間に広がった。
原因は体育前の着替え。その時に何箇所にも痣があったかららしい。
学校の者は分かり易いくらい殺気立った。
あまりにも馬鹿馬鹿しい。やんちゃな高校生なら怪我一つあってもおかしくないだろうに。彼奴はドジだからよくそこらへんでこけているのに。
そんなことよりも取り敢えず誰か仕事を手伝ってくれないかとペンを手に持ち、書類に向かいあった瞬間生徒会室の扉が物凄い音を立てて開いた。
「生徒会長が雅をいじめてるんだろ!?」
驚愕したね。彼奴の取り巻きはあろう事か俺をいじめ(本当にそうなのか不明)の犯人に仕立てあげた。
否定したけどファンクラブに入っていないのはお前だけだなんだと騒ぎ立てる。
なんだよその信用できない証拠は。
否定も虚しく教師に報告され返ってきた返事は
「やっぱりな」
「白崎は優秀だからな、御崎よりは信用できる。」
全てが崩れさった気がした。
信頼も、プライドも、今までの努力も。
ふざけるなよ。
彼奴が来るまでは頼れる生徒会長だな、なんて言ってくれたのに。
なんだよ。
結果俺は停学。退学にならなかっただけましだと思え、らしい。
真実を話せば親だけは俺の味方になってくれた。
親に恵まれたと思うべきだな、ここは。
日に日に親は窶れていった。
母は近所の、以前まで仲が良かったママ友からのいじめ
父は会社で同僚からの悪口、まあこちらも同じくいじめだな。
迷惑をかけすぎかもしれない。はやく俺がなんとかしなければ。そう決意してからは早かった。毎年のお小遣いからPCを購入し、今までの知識をフル活用して情報収集をした。
だけど、真実にたどり着く前にリビングで親は首をつって自殺した。
付近の机には大金と涙で滲んた手紙。
慌てて警察に電話し、すぐに向かうと言われ電話を切った。
溜息を吐く。
母さんと父さんに悪いことをした。関係ないのに巻き込んでしまった。
ごめんなさい。おやすみなさい
涙を流す暇も無く上着を羽織り、自室においていた鞄を掴んで学校に向かって駆け出した。
「白崎雅はいるか」
何時に無く、イライラした声色で俺は白崎雅のクラスに入った。
休み時間だったらしく、楽しげな雰囲気から早変わりし、突き刺さる殺気。
ああ、たかが数ヶ月で随分嫌われたものだと自嘲の笑みを浮かべる。
「僕はいますよ。」
やや緊張した様子で織れの前に立った彼奴。後ろでは「雅っ」等と慌てる声が聞こえた。
五月蝿い餓鬼だ。
「単刀直入に言おう」
──…お前、虐待を受けているな?
誰かが息を呑む声が聞こえた。
そこから話は早かった。体にあった痣は全て親によるもので最近は見えやすい場所も殴り出すようになったらしい。
それを聞いた取り巻きは直ぐ様彼奴を囲む。
そこから全ては冒頭に戻る。
「ごめっ、なさ…!怖くて、いえ、なくて…!」
泣きじゃくる彼奴。
慌てる取り巻き。何事かと集まり出した生徒は話の内容を聞き、彼奴を囲む人数が増えていった。
遅れて教師が数人。
「──…最悪だな。白崎雅」
そう吐き捨てれば殺意が俺に向いた。
教師も俺を怪訝そうに見てくる。
「俺は無罪だ。濡れ衣をきせられたんだ。謝罪の一言もないのか」
「雅は虐待を受けてたんだっ!今は情緒不安定だ。だから…」
「…だから、なんだ?」
取り巻きの一人が汗を流した。
こいつは、いつもの生徒会長じゃない。
それを、察したのだ。
「白崎雅に構いっぱなしの生徒会役員の分の仕事を全てこなし、休む時間は極わずか。もう限界で倒れると思えば俺がいじめの犯人だと言われ、停学になり、親だけが俺の言う事を信じてくれた。」
響めき。
生徒会の奴等は気まずそうに視線をそらす。
「しかし親以外は全員白崎雅の言う事を信じ、親は日に日に窶れていき…」
鞄の中から書類を取り出し、白崎雅に向かって投げ捨てる。
「ついさっき、死んだよ。」
書類の内容は全て親に送られた悪意ある行為の数々をまとめたもの。
「…え?」
白崎雅は目を見開き、こちらを見る
「俺は、御崎悠斗は何もしていない。それだけを言ってくれれば良かった。虐待の事なんて言わなくてもいいから、それさえ言ってくれればよかった。俺は白崎雅に冤罪で人生狂わされたんだ。」
「…何か、言う事は?」
その後はドタバタしていて記憶がない。
誰かに謝られた気がするか一切覚えていない。警察は真実を聞いて、これを事件として扱うらしい。ざまあみろって感じだ。
「綺麗な空だなぁ…」
全てが終わったあとの空は今までよりも綺麗に見えた。
今日、全部が終わった。
母さん、父さん。迷惑かけてごめんな。
こんな子供で、ごめんな。
「じゃあな、」
息を吐いて。もう一度空を見上げて笑をこぼし、
「─────…ばいばい」
空に向かって、飛んだ。
身勝手な少年少女の話。
本当に不幸なのは白崎か、御崎か、親か、取り巻きか。
それの答えは人それぞれ