7年前 そこで。
逃げる前に、イスタークをやっちまおう。あいつには仮がある…。それに、妹の仇…
物とは、いつか必ず壊れるものである。形あるものいつかは壊れるーー。とても、悲しいことである。それが、物だろうと。生き物だろうと。ずっと、そのままの状態で何年も何十年も何百年もーー。
「そんな事、ありえないよ」
そう、ありえない。
ありえる訳がない。
私が小さい頃、お爺様から買ってもらった。グラス。ただのグラスじゃない。初めて連れてってもらったテーマパーク、グレゴリーティンプソンホール。
リゾートホテルもある最大級の遊園地、そこでたまたま、買えた25周年記念の限定グラス。お爺様は、私の頭を撫でながら微笑んで、いたのを今も覚えてる。私の手にはちょっと派手な箱に入ったグラスが乗せられた。凄く嬉しくて泣いた。パパもママも驚いてた。もちろん、お爺様も。でも、心配しないで?悲しいんじゃないの。嬉しくて、嬉しくて、たまらなくて。涙が止まらないの。だから、…心配しないで…。
そして、次に銃声と悲鳴と赤黒い…これって…血?
笑えない。
次には、酷い激痛が右腕に感じた…右腕?
「やだ…いやあああああ」
ホリーは泣け叫んだ。
右腕がなくなっていた。上腕二頭筋あたりから下が千切れていた。酷く血が流れている。痛みより腕がない事に衝撃を受け、叫んだ。次に痛みという感覚が身体を巡り泣いた。そして、それがコンマ何秒で同時に感覚を感情を襲った。
「パパ?ママ?…お爺様…?」
ホリーは、動けない体を無理に立たせ、周りを見渡した。
そこには、前にママと見たホラーSF映画のような光景が眼前に広がっていた。血の海、そして死体の山…。これは、夢なのだろうかとホリーは考えたが、吐き気をもようすような激臭がこれが現実だと叩きつけられ、ホリーの心に追い討ちをかけた。
涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま、走り出した。パパとママを、お爺様を探さなきゃ、不安で心臓が破裂しそうで辛い。嫌な予感がする。考えたくない、考えたくないけど、こんなんじゃ…。ホリーは、頭を左右に振るが、涙だけは正直で止まる事はなかった。
「なにをそんなに急いでいるの?片腕のお嬢ちゃん?」
突如、声をかけられたホリーは足を止めると、右側の自販機から見知らぬ男が現れた。長い黒髪にキツめの顔に顎髭。薄汚れているツナギを着た男性は、ニヤニヤしながらホリーに問いかけきた。
「貴方は誰?…ごめんなさい、私、今は、急いでいるの」
男はニヤニヤしたまま、ホリーが走ってきた方向を指しながら、
「そんなのここで見ていたんだから、分かるさ。ただ、そんな身体でそんなに急いでさ、何があったんだいって事さ」
「わからないの。私にもわからない。ただ、気づいたらこうなってて…パパもママも居なくて…ゔぅ…」
「だから、辛くて痛くて…悲しんだろう」
「ええ。そうね。でも、探さなきゃっ…?」
そうホリーが答えるまえに、黒い影が覆い、右側、腹部辺りに衝撃が走り、左側の壁に目掛け飛ばされた。
「ヴェッ…」
上手く息ができぬまま、血を吐き、背中に激痛が走る。
ホリーは察した、私はもう死んでしまうのね。
「なら、そんなめんどくせぇー思い断ち切ってやるよー!!死んだら、何も感じねぇーからな」
男は豹変し、何処に隠しもっていたのか、手にはハンマーが握られている。
「何が、パパが…ママ…が、だ!!あんなのな、ただの道具だ!自分がこの腐っだ世の中に産みやがった、腐った道具にしか過ぎねーんだよ!俺らって可哀想じゃねーか?なぁ?」
「ゔぅっ…」
男は、ホリーの髪を掴み、持ち上げた。
「だってよー!選べないんだぜ?自由によー!!なぁー!ホリー!!」
「何で…私の名前を…」
「あ?気にすんなよー。どうせ、お前は死ぬんだからよー、なぁ、ホリー」
男は、耳元で嫌らしく呟くと、ハンマーを荒々しく振り上げる。
「この瞬間がたまらないんだよなぁー!あー興奮してきたぜぇー!!もったいねーなー、もっと楽しみてぇな、味わいてぇなー、でもよ、他にも沢山やることあるんでな、だからよー…あばよー!!ホリー!!」
男は叫びとともに、ホリーの頭目掛けて振り下ろした…。
だが、既にホリーは意識が無く、視界は暗闇に包まれ、光は溶けていった。頭の衝撃すら既に感じない。あの耳障りな男の声も聞こえない。
ホリーは息絶えた。大好きなパパやママやお爺様に会えないまま。幼い少女の儚い人生という物語が幕を閉じたのだ。
だが、これが新たな物語の始まりでもあった。