よく晴れた日の午後のこと
俺がこのフォーテンシア王国に来て幾許かの時間が経ったある日の昼下がり。
「くぁ……」
綺麗に手入れされた庭の隅っこで俺はひなたぼっこをしていた。
昨日の訓練の後、リリィ団長に『明日は休んでください』と言われたのは良いものの、特にすることも無かったのでこうして昼間から寝転がっているのである。うむ、健全だけど不健康だな。
メイドさん(未だに名前は教えてもらってない)の手伝いを申し出たりもしたのだが、やんわりと断られてしまい、リリィ団長は騎士団の訓練。レオとは最初に会ったあの日以来会ってないし、ルナはお姫様としての政務。他にも知り合いはいなくもないが、皆城内で仕事中だ。
「ああー」
やることが無くなるとこんなに辛いものだったか。そういえば元の世界にいた頃も部活だ何だで暇な時間というのはあまり無かった。それに暇つぶしの道具にも困らなかった。
そうして日光を浴びてぽけーっとしてみる。目を瞑ると心地よい眠気に誘われる。いっそ今日はこのまま昼寝して過ごそうかと思って睡魔を受け入れかけた時――――
「ユウキさん?」
聞き覚えのある声が聞こえた。そう、俺の知ってる金髪王女の声だ。
「ルナ?どうしたんだこんなところで。今日は政務があるんじゃなかったのか?」
「私は所詮まだ王女ですからね。仕事が少なかったのでさっさと終わらせてきちゃいました」
『きました』ではなく『きちゃいました』な辺り、たぶん結構無理やりだったんだろうな。年相応にお茶目な表情を見せるルナに、少しだけドキッとしたのを誤魔化すべく俺はそんなことを考えた。いや違うんだよ。男の子は可愛い女の子の可愛い表情を見たら反応しちゃうから、これは決して浮気とか心移りとかそういうんじゃないんだって。俺はいつだって初奈一筋、他の女の子に靡くようなちょろい奴じゃない。
……何故だろう神代先輩が『寝言は寝て言うから寝言なんだぞ?』って言って冷たい目を向けてきてる気がする。気のせいだけど。気のせいだよな?
「ユウキさんは何をしていたんですか?」
「やることも無いし、昼寝でもしようかと」
「ここでですか?」
「ああ、日の光が当たって気持ち良いし」
ギャルゲーやラブコメのキャラ達がこぞって屋上に行けるのも頷ける。お日様の光は偉大なのだ。太陽万歳。あったかい空気最高。
「そうですか……では、私も一緒に……」
「ちょっと待て」
なんば言いよっとねこの子は。男女が並んで寝るなんてそんなことお兄さんは許しませんよ。破廉恥です!
それに、
「そんなドレス着て寝っ転がれる訳ないだろ」
想像してみてほしい。パニエとか入ってたり、細かい意匠が施されたりするドレスを着たまま横になるとどうなるか。完っ全にアウトである。クシャッとなるだろう。クシャッと。
ようするにそういうニュアンスを伝えたかったのだが、どこをどう間違ったのかこのポンコツ王女は盛大な勘違いをしたようで、
「で、ではここでドレスを脱げと言うんですか!?」
何かとんでもないことを言い出した。顔を赤くして恥らってるが、マトモな羞恥心を持つ奴ならあの言葉からそんな意味を汲み取れないと思うのは俺だけだろうか。
「誰も言ってねえよそんなこと!」
「ゆ、ユウキさんのエッチ!」
涙目+赤面+膨らませた頬。ついでに睨むような視線。
え?今の流れって俺悪くないよね?あるぇー?
結局この後俺は何故かルナに延々デリカシーだとか常識だとか羞恥心に関する説教を受け、眠気も失せてしまったため室内に戻って俺の部屋で機嫌を治したルナとお茶を飲んだ。
ちなみにどこからか情報が漏れたのか、翌日の訓練は不機嫌な団長と共にいつもの倍は厳しいものをこなし、疲れて部屋に戻った後はメイドさんに弄り倒されたのであった。つーか口ぶりからしてこの人が聞き耳立てて拡散したのだと思う。
女の子の扱いって、本当に難しい。