ボーイ・ミーツ・メイド
リリィ団長との訓練を終えた俺は、割り当てられた自室に向かって廊下をとことこと歩いていた。
「やっぱ城だけあって内装豪華だなあ……この壺、売ったらいくらくらいになるのやら」
少なくとも十年は遊んで暮らせるだろう。
「……」
つんつん。
「……」
つんつんつんつん。
「……誰も、いないよな」
いっぱいあるし、一つくらいもらっても……
「ユウキさん?何してるんですかー?」
「ひいっ!?」
突然後ろから聞こえた声に驚いて振り返ると、そこにはメイド服に身を包んだ見目麗しき女性がいた。
「なんだ、メイドさんですか。驚かさないでくださいよ……」
この人は正式この城の客人となった俺の身の回りの世話をする、専属のメイドさんだ。名前と年齢は不詳。聞いても教えてくんなかったのである。だから俺は便宜上、メイドさんと呼んでいる。
「いやー、すみません。驚かすつもりはなかったんですよ?」
「ま、いいですよ。特に怪我とかしたわけでもないし」
メイドさんのにぱー、とした笑顔を見るとついつい許してしまう。決して後ろめたいことがあったから許したわけではない。断じてない。
「それで、ユウキさんこそ何してたんですか?」
「ちょ、ちょちょちょちょちょちょちょっとこの壺を眺めていてね。うん、実にいい壺だ」
「そうですか。もうそろそろ夕食が出来ますけど、どうします?先にお風呂入ります?」
ふむ、どうしようか。散々動き回ったから腹は減っているけど、汗臭いまま食べるのも何だしな……
「先に入浴でお願いします」
「わかりました。それではごゆっくり入浴してください。あ、覗きはダメですからね?」
「しませんよそんなこと」
第一、この時間に入ってる奴なんてそうそういないだろうし。
「姫様が入浴中ですよ?」
「だからしませんってば。俺を信用してください。あと双眼鏡貸してください」
「覗く気満々じゃないですかヤダー♪」
はっ!しまった!つい本音が!
この巧みな話術といい、ニコニコ笑顔のポーカーフェイスといい、この人本当に何なんだろう。絶対にメイドに関係なスキルをたくさん持ってるって。ついでに厄介そうな事情も。
触らぬ神に祟りなし、ということでさっさと大浴場に向かう俺にメイドさんが一言。
「ユウキさん、お城の物を盗ったら普通に捕まりますからね?もちろん、私たちメイドはこの城内にあるものをすべて把握していますよ?」
俺が何をしようとしてたのかバレてたんかい。