役者は出揃った
「えっと……確かこちらだった思うのですけれど……」
トコトコと歩いていくルナの後ろで俺は一人考え込んでいた。
ルナが俺に期待していることは無茶としか言いようがないが、何とかしてやりたい気持ちもある。
「政略結婚。嫌がる王女。相手は貴族。と、くれば相手の男はすげえクズだってのが相場だしな……」
昨日と今日合わせてもせいぜい数時間しか一緒にいた時間は無いが、それでもこの王女様がそんな奴と結婚するのは反対だ。だからどうにかしてやりたいのだが――――
「あ、いました!いましたよユウキさん!」
くいくいと袖を引かれ、意識が徐々にフォーカスされていく。
ルナに促されるまま、見た方向に一人の男がいた。
これまた金色の髪を短過ぎず長過ぎず丁度いい具合にカットし、銀色の鎧を身に纏ってランスと言うよりはスピアと言った方が適切な感じの槍。
十中八九、こいつが例のレオ卿とやらだろう。
そいつは気配かなんかで気付いたのか、こちらを振り返る。
「おや、ルナリア王女殿下。と、そのお客人でしょうか。どうしたのですか?ここは特に面白いものがあるわけでもありませんが……」
「……」
爽やかな笑顔、威圧感を感じさせない柔らかな話術。
あれ?こいつ案外性格いいキャラ?
「レオ様。すみません、実は例の件の関係でレオ様に会いたいとこちらのユウキさんが……」
「ああ、ということは彼があなたの代理決闘者なのですね」
「はい」
レオとやらは値踏みをするような視線で俺を見ながら、こっちへ向かって歩いてくる。
そして俺の前で立ち止まり、軽く頭を下げ自己紹介をした。
「はじめまして。ストリーク家当主のレオ・ストリーク・フォーテンシアです。以後お見知りおきを」
「あ、ああ……」
やばい。こいつ本格的にいい奴っぽい。
「それで、キミは?」
「あ、お、俺は音無悠希。そこの王女様に呼ばれた者だ」
予想外に爽やかなイケメン相手に、若干キョドってしまう俺。いやこれはしょうがないって。イケメンオーラ全開の相手にイケメン力たったの5の俺が威圧されてしまうのは自然の摂理だって。
脳内で理論武装を展開し始める俺を余所に、レオは俺の自己紹介を聞いて爽やかイケメンスマイルを浮かべた。
「どうやら、キミは信頼に値する男のようだ。僕のことはレオと呼んでくれて構わない。これからよろしく、ユウキくん」
そう言って手を差し出してくるレオを見て少し可笑しくなった俺は、苦笑いを浮かべてその手を握り返す。
「……俺もユウキでいいよ。よろしく、レオ」
こうして舞台の役者は揃った。これから、どのような物語が幕を開けるのかも――――
「……と、殿方同士は友情を芽生えさせるのが早いのですね。勉強になります」
シリアスな雰囲気にしようとしてんだから邪魔すんなよ王女様。