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ナナ~イマ

『次は、六歳から今まで。あなたが小学生の時です』


 とうとう小学校に入った。写真のバリエーションが増えた。入学式・運動会・参観日・夏祭り・学習発表会等々……。様々な場面の写真が展示されている。


「……最初は、楽しそうだな」


 彼は、小さくそう呟く。そうだった。彼の小学校一年生の頃の写真は、どれも笑顔だった。たくさんの友人に囲まれて、学業も優秀な成績で、とても充実した学校生活だったのだ。しかし、彼の視線は二枚目に移った。


「っ!! …………落合」


 落合義之。名家、落合家の嫡男だ。成績優秀、眉目秀麗。スペック上の完璧超人を現実の人間でたとえるなら、彼ほどの人間はいないと言えるほどなのだ。しかし、彼には一つだけ欠陥があった。……性格である。


「おいおい、なんだその恰好は? どこのブランドだ? ああ?」


 校舎裏で地面に倒れている男子生徒の頭を、値札の桁が五つはあるであろう高級な靴で踏みにじる。そんな姿を想像すれば、どんな人間だったのかは想像に難くないだろう。


「この僕よりも上にいるなんて許せないっ!!」


 嫉妬、というよりも憎悪の籠った目で、教室で渡されたテストの結果と順位を見た彼がそう叫んだのは、学校でも有名な話である。彼は、自分の友人という名の下僕を使って彼を探した。その落合が、彼を見つけるのは、二年生の二学期も半分が過ぎたころだった。


「お前か、元原統也は……」

「そうだけど?」


 統也は落合の顔を見て、不思議そうな顔をする。学校の有名人が何の用かと。


「お前、学年で一位らしいな」

「え? ……ああ、テストのこと? そうだね」

「お前、自分の立場を分かってるのか?」

「立場?」


 落合は、まったく事情の分からない統也を見て、鼻で笑った。そして、丁寧に説明してやる。彼だって、意味もなく人を傷つける趣味はない。


「僕は名家の嫡男だ。それは知ってるな?」

「うん。学校でも有名人だよね。頭も良くって見た目もいい。それに、剣道もすっごく強いんだってね。尊敬するよ」

「へえ……」

「……何?」


 そう言う統也の顔を見た落合は、意味ありげな表情を浮かべた。


「お前、学年二位の僕に向かって、頭がいい? 嫌味か? 皮肉か?」

「全然違うけど? 僕は勉強しかしてない。でも、剣道や他の習い事をしながら、その成績を取る君には尊敬以外に言葉がないよ?」


 統也は、素でそう思っていた。しかし、金や権力のある人間達の黒いところを見たことのある落合にとって、統也の発言はただの嫌がらせにしか聞こえなかったのだ。


「次のテスト……」

「……次のテストが、何?」

「僕よりもいい成績を取ったら、その時は分かっているな?」

「……まったく、分からないけど?」

「とぼけるのもいい加減にしろよ? 言っておくが、忠告はした。次などありはしない」


 落合はそう言って、統也のもとを去って行った。ここで、競い合うライバル同士になれば、彼らはきっといい人生を送れたのだと思う。しかし、それはなかった。そして、その次のテストの結果は……


「元原君。点数は少し下がったけど、今回もよく頑張ったわね」


 ……統也が、学年一位だった。


「少し、手加減してやったのに」


 統也は、四教科の合計で四点を落とした。しかし、統也のテストの平均点は、百点。二位以降とは、まだ数点の点差があったのだ。


「っ!! くさっ!?」


 初めは、悪臭を放つ下駄箱だった。中には、様々な臭い物が入っていて、統也は鼻をつまみながら上履きを出そうとするが、その上履きもない。統也は、初めは何が起きたのか理解していなかった。状況は理解できなかったが、とりあえず職員室に向かった。


「失礼します」


 しかし、反応はない。いつもは、成績優秀で、人柄のいい統也に声をかける先生が一人はいるのだ。統也は不思議に思い、職員室を見渡す。しかし、先生たちはみな、統也の方を見ておびえているようだった。


「すいません。雑巾とスリッパを借りていきます」


 統也はそう言って、下駄箱の片づけをしに行った。そして、片づけを終えると教室に向かった。だが、誰も彼に話しかけない。そして、統也は教室に入った。全員が統也をおびえた目で見る。そして、全員が黒板の方に視線を移す。統也も、それを見て黒板に視線を移した。そして、絶句した。


『元原統也を消せ』


 彼への罵詈雑言で、一番軽い物を出させてもらった。黒板には、彼への悪意のあることが書き連ねられていた。そして、そこに一つのメッセージを見つけた。


『忠告はした。悪いのはお前だ。  落合』

「お、落合……」


 落合には、成績や家柄以外にもう一つのうわさがあった。それは、落合に敵とみられた人物は、一か月以内に消える、というものだ。


「……っ」


 その日からは、地獄にも等しい日々だった。もちろん、いきなり統也を嫌う人などいない。しかし、落合の名前が出たら、誰も彼を助けることはできないのだ。それは、先生達にもいえることだった。学校に多額の寄付をしている落合家。そのため、この学校で落合を止める者はいなかったのだ。


「こ、こんな写真も……」



ある時、統也は女子生徒の体操服を盗んだ犯人に仕立て上げられた。

ある時、統也は教科書をカッターでバラバラにされた。

ある時、統也は制服を学校の焼却炉に投げ込まれた。

ある時、統也は校舎の階段で誰かに突き落とされた。

ある時、統也はトイレで水をぶっかけられた。

ある時、統也は弁当をぐちゃぐちゃにされた。

ある時、統也は嘘の告白で呼び出されて笑われた。

ある時、統也はテストをびりびりに破かれてテストの成績がなくなった。

ある時、統也は机といすを教室から消された。

ある時、統也は校舎裏で大勢の男子生徒に暴行を受けた。

ある時、統也は学校の空き教室に閉じ込められた。

ある時、統也は授業の移動教室のことを伝えられなかった。

ある時、統也は班作りであまりものとしてどこかに班に入れられることすらされなかった。

ある時、統也は校舎の二階から鞄を投げ捨てられた。

ある時、統也は黒板に様々な罵詈雑言を書き込まれた。

ある時、統也は上履きの中に画鋲やカッターの刃を入れられた。

ある時、統也は……


……書き足りないほどの悪意にさらされた。


「もう、もう止めてくれ!!!!!!」


ある時、統也は心からの叫びを意図的に無視された。

ある時、統也は家族からの愛情すらも悪意であるかのような錯覚に囚われた。


「…………もう、死ぬ」


ある時、統也は自殺することを決意した。

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