イマ
「何で止むんだよ……」
その少年は、どこまでも広がる澄み渡る青空を見てそう言った。今から自殺を図ろうとしている自分に、こんな晴れた空など似合いはしない。
「さっきまで、土砂降りだったのに……」
彼はこの森に来るまでの悪天候を思い出した。この雨は自分の悲しみそのものなのだと思っていたのに、これではもう、悲しいことなどないということになるではないか。彼は、燃やすつもりで持ってきた忌々しい人生の思い出の品を握りしめた。
「もうすぐだ。いい死に場所を見つけて、死ぬんだ」
彼は、お受験に合格して優秀な学校に入った。その学校では、優秀な成績を収めて頑張っていた。しかし、そのことに嫉妬した生徒たちによってひどいいじめにあった。だが、家族や親戚からの期待を裏切れなかった。そのため、いじめに耐えつつ頑張る日々。しかし、そんな日々にも限界があった。下がり続ける成績、周りからの応援も自分を責めているように思えて、彼はこれまでの思い出を焼き払い、自分自身も死のうと思ったのだ。
「……ん? ここは……」
彼は開けた場所に出てきた。真ん中には大きな切り株があり、ここにはかなり大きな木があったようだ。……だが一つ、おかしなものがあった。
「……扉?」
切り株の前にあったのは、七色……赤・橙・黄・緑・青・藍・紫に彩られた扉だった。それを見た途端、彼の頭に電撃が走る。
「俺はもう……死んだのか」
そう。自分は気が付かぬうちに死んだのだ。あの扉は、天国に行く扉に違いない、と。彼はふらつく足取りで、その扉を開けた。しかし、その先には何もなかった。
「な、何でっ!! 俺はあの世に行く資格もないってのか!!」
彼は絶叫した。自分は天国にも行けず、地獄にすらいけない。いや、この世界にいろと言われる事実が地獄に落ちることと同義なのかもしれない。
「なんで、なんでなんだよぉ…………え? こ、これは……」
あまりの辛さに泣き出した彼は、ふと、自分の目の前に出てきたものに目を奪われていた。
「虹? ……いや、階段か?」
彼の前にあったのは、虹の階段だった。七色に彩られた階段は、天高く続いている。彼は天国への階段が現れたのだと思った。
「……行こう」
あの世へ。彼は、その階段の一歩を踏み出した。すると、どこからか声が聞こえて来た。
『虹のお贈りする人生の回顧展へようこそ。ここは、人生を振り返る場です』
「……死ぬ前に生前の行いを見直しなさい、ってことだよな」
彼は目を閉じて深呼吸をした。……覚悟はできた。今までの苦しみばかりだった人生を見返す覚悟が。