第二章 決められた死 5DAYS to 6DAYS②
青屋の口から、ため息が自然に吐き出された。
「……『中立派』は何をやっているんだ?」
「死期が予知された生命をちゃんと回収、管理して来世に廻している」
「……『過激派』に殺された場合はどうなるんだ?」
「『過激派』に殺された場合は、その魂は消滅させられて来世に廻すことが出来ない」
恐怖なのか、まだ理解仕切れてないのか、青屋は俯いて頭を抱える。ふと、頭に重たく感じた青屋は顔を上げると、少女がいつの間にか近づいていて、青屋の頭を撫でていた。よく見ると、少女の顔は笑っていた。
「………なんだよ、アンタ」
「不安になったのであれば安心しろ。私が君を守るから」
「……と言っても、アンタが言うには俺の余命はあと六日だろ?」
「今日をいれてな」
呆れる青屋に対して、少女は楽しそうだった。肩を落とし、落ち込む青屋はふと気付く。
「そういやぁさ、アンタはどうして俺の余命がわかったんだ?」
それはだな、と少女はポケットから黒いメモ帳を取り出す。
「それは?」
「死神帳と言ってな一週間後に死ぬ可能性がある者の名前が載るんだ。まあ、大体はその通りに死ぬがな」
「……可能性?」
そうだ、と言って少女は黒いメモ帳───死神帳をポケットに戻す。……希望が見えた、青屋は口元が思わず緩む。
「なあ、そのメモ帳に載ったとしても、生き残れる可能性はあるんだよな?」
「当たり前だろう。いくら死神帳と言えど、それは可能性なんだ。確定要素ではないからな」
少女の返答にガッツポーズを取る青屋。それを少女は哀れんだ目で見ていた。
「ああ、因みに死神帳に載った者の住んでいる場所や、生年月日がわかったりするぞ」
「ちょ、プライバシー関係無し!?」
「当たり前だろう。死人に人権はないと思うが?」
あー……ごもっとも、と青屋は肩を竦めながら納得する。これから死ぬんだから死神側から見れば関係無いのだろう。
「気にはなったんだが、『温和派』ってのは何をしてんだ?」
「ふむ、『温和派』はそうだな……言ってしまえば、この地球を見捨てていると言っても過言では無いな」
「死神のクセにか?」
「そうだ。『温和派』は死神のクセに生命との干渉を行っていない。世界の動きを傍観決め込んでいるんだよ、やつらは」
忌々しそうに話した少女はため息をつく。すると少女の腹の虫が鳴った。
「むう、話したらお腹すいた」
「……死神でも腹減るんだな」
「そうなのだ、私は人間に最も近い死神でな、空腹や睡眠欲など出るんだ」
「ふーん、まあいい時間だし、飯にするか」
よっこらしょ、と立ち上がった青屋は台所に向かう途中で振り返る。
「ラーメンでいいか? お湯さえ沸かせばすぐできるが」
「むう、実はというと空腹が限界に近くてな、倒れそうだから早めに頼みたい」
両手をお腹に当て、壁を背に横たわる少女のお腹から腹の虫が早くしろと言わんばかりに鳴る。青屋は苦笑いするとカップラーメンを準備した。
「ふぅー……おいしかった……」
はふぅ……と幸せそうなため息をつく少女。少女が食べていたカップラーメンは、汁一滴すら残ってなかった。因みに味は醤油である。
「おっと、これを言わなければな。ごちそうさまでした」
「お粗末さま」
青屋はカップラーメンの空をゴミ袋に入れて、麦茶を飲む。
「他には質問あるのか?」
「いや聞きたい事は聞いたし、無いな」
青屋は芋虫のようにもぞもぞ動いて、冷蔵庫に近づくと、冷蔵庫から麦茶が入ったペットボトルを取り出し、もぞもぞ動いて戻ってきて机に置いた。
少女は上半身を机に倒す。
「暇だー……」
「あー……だったら買い物に行くか」
「む、だが君が殺される可能性がある」
「それなら大丈夫だ。占いの婆さん曰く、深夜にしか死相が無いんだと。だから昼間は平気」
自信あるぞと言わんばかりの笑顔で楽しげに言った青屋に、若干の心配と不安と疑問を抱えた少女は深くため息をついた。
襲われても守ればいいか、と納得と諦めを込めて。
「わかった。その占いを信じよう」
「決まったな、それじゃあ行こうか」
冷蔵庫に麦茶が入ったペットボトルをしまい、出かける準備をして、二人はスーパーへと向かう。