第二章 決められた死 5DAYS to 6DAYS
気づけば、青屋はいつものアパートで朝を迎えていた。少女から詳しい話をするから君の家まで案内してくれ、と言われて渋々ながらも、アパートまで案内したが青屋自身が眠気に負けて今のこの状況に至る。
腕時計を確認すると、八時三十分を過ぎており慌てそうになるが、今日が土曜日と言うことを思いだし、少し落ち着く。
落ち着いた青屋は閉じていたカーテンを開けて日の光を浴びる自室に目を向けて、固まる。いつもの円形の机、いつものブラウン管のテレビ、そしていつもの布団に我が物顔でぐっすりと寝ている自らを死神と名乗る少女───
「おい、何で俺の布団で堂々と寝てるんだよアンタは!」
「むー、うるさいぞー……」
青屋の怒鳴り声に反応した少女は目を擦りながら、愚痴る。少女は青屋を見ると、楽しそうに微笑む。
「うむ、起きたのだな。おはよう」
「ああ、おはよう……じゃなくて! 何で俺の布団で寝てるんだよ! それに起きたのだな、はこっちのセリフだ!」
「そうだったか、それはすまない」
下半身が布団に入ったまま、無表情で頭を下げる少女。その姿に呆れて怒るに怒れなくなった青屋はいつものため息をつく。
「……っとそうだ。アンタに説明してもらわなきゃいけないことが沢山ある」
「そうだったな、君には知る権利がある。質問してくれ、何でも答えるつもりだ」
胸を張って自慢げに語る少女だが、布団でかつ、髪の毛が少しボサボサでなんだかだらしない印象だった。青屋はそれを気にせず、青屋は机の近くに座り、右の人差し指をたてる。
「まずは一つ。アンタは何者だ?」
「昨日、言ったであろう? 私は死神だ君達人間が死の神として崇めている死神の中の一柱だ」
その答えを信じきれないといった青屋だが、少女が行ったあの行為、鎌を作り出す力だ。
「信じきれない、そんな感じだな」
「当たり前だ。あんなのを見てもまだ信じきれてない」
「うむ……なら論より証拠だろうな」
少女は布団から出ると、青屋の前に座る。わけのわからない青屋は首を傾げるが、少女は不適に笑う。すると少女は青屋の胴に少女の腕が貫通していた。
「は?────」
「別に痛くも痒くも無いだろう?」
「いや、確かにそうだがそう言う問題じゃねぇだろ!」
少女は何かを掴んだらしく、表情が楽しげになっていた。少女が腕を引き抜くと、その手には一昔前のレコードディスクがあった。
青屋はそれを見て、首を傾げたが、傾げた方向に倒れる。
「あれ? 力が……」
「それはそうだろう。何せ今私が持っているのは君の魂なのだからな」
「はぁ!? それが魂? 普通はこう、宙に浮かんで燃えてるもんだろ」
「ああ、あれも魂だ。でも役割が違う」
「役割?」
そうだ、と少女は答えて青屋にレコードディスクを入れる。正確には返す、といったところか。
それを返された途端に青屋の力は戻ってきたので起き上がる。
「んでその役割って言うのはなんだ?」
「私が君から借りたのは君が行った善行と悪行を見るための物だ。そして君が言ったのは輪廻転生のための物だ」
「人の魂にも役割ってあるんだな」
「うむ。して信じることにしたのか?」
「あんなのを見せつけられて信じないほうがおかしいだろ」
信じるしかねぇよ、そう言って青屋はため息をつく。少女は勝ち誇った笑みを浮かべると、布団に座る。
「……それ、俺の布団なんだが?」
「いいではないか、今は使っていないのだし」
「まあいいか。そんじゃあ二つ目。俺を襲ったあの警備員、あれはアンタの言う死神か?」
「その通りだ。ま、正確にはあの男にとり憑いていたのが死神だ」
少女の答えに気になった青屋は右手の指を三本たてる。
「三つ目。ならなぜ、アンタとあの死神が対立したんだ?」
「む、やはり気になったか」
少女は当たり前だと言うようにウンウンと頷く。
「それを話すには少し昔の話をしよう。君は今現在、世界には何億にもの人がいるかを知っているかな?」
「えっと、五十億人ぐらいだったけ?」
「正解だ。では十年前の世界の人口は?」
問題に頭を悩ませる青屋はため息をついて、首を横に振る。
「駄目だわかんね、正解はどのぐらい居たんだ?」
どーせ今より少ないんだろうな、と机に左肘を置いて頬杖していると、少女の口が開いた。
「七十億」
「は?」
「十年前には七十億もの人間がこの世界に居たんだ」
思わぬ答えに頬杖を止めた青屋はキョトンとしていた。
「……今現在の人口は五十億人だよな? で、昔は七十億人? 二十億人も死んだのはおかしくねぇか? そんなに人が死んだ事件とか、事故なんか起きなかったはずだ」
「普通に考えればな。だが君はもう体験しただろう? 普通ではあり得ない、世間的にはオカルトと評される事を」
「……アンタら死神の仕業か?」
「半分は正解、半分はハズレ、といったところだな」
「じゃあいったい何なんだ?」
「……随分前、死神にも組織に似たグループができてな。その一部の死神達が無差別に人を殺していった」
少女の語りに、青屋は自然と背筋を伸ばす。少女は気にさえせず、窓を見る。正確には窓の外を。
「その無差別に人を殺していった死神達は自然と単一つの組を作り上げた。死神達は自分は彼らとは違うという意味を込めて『過激派』という名称を付けた。そして自然的に、『温和派』と『中立派』の二つができた。理解できているとは思うが、その『過激派』が君達人間を殺している元凶だ」
少女の告白に声を失う青屋。しばらく沈黙が痛いほど続いたが、青屋が重たい口を開く。
「…………つまりだ。その『過激派』の死神以外は殺しをやっていないのか?」
「過度な殺しはやってはいない。まあ『温和派』はその死神という概念すら捨てているがな」
「そんなに批判するって事は、アンタは『中立派』ってことでいいんだな?」
ああ、と少女はうなずき答える。深いため息を一つ。青屋の死は変わらないと言うことだ。