第一章 残り七日間の命 7DAYS④
少女は普通に歩く。しかし、その行為だけで優雅に見えるし、異端にも見える。少女は青屋の隣に着くと、ゆっくりと微笑む。
「大丈夫かい?」
「あ、はい。なんとか」
「つか、君、撃たれたはずだけど?」
「そんな兵器、当たってないだけだ。どうでもいい話だろう?」
返答してはいるが、おちょくっているように話す少女。そんな返答に警備員はつまらなさそうに舌打ちする。
「んな事より君は何者だ? これから死ぬ彼の知り合いっぽいけど?」
「いや、俺この人知らないんだけど……」
え? と警備員は思わず青屋を見る。尋ねる感じだが、青屋は頷く。
青屋の反応を見て、警備員は少女を哀れんだ表情で見る。
「なんだ?」
「いや、君は新手のストーカーか?」
「私を見て開口一番がそれか。しかし酷いな、人を犯罪者呼ばわりか、失礼だとは思わないのか?」
「間違えたなら謝ろう。正直怪しかった」
頭を下げる警備員。少女は偉そうに胸を張る。
「私は彼が気になってたのでな、気づかれぬように着いていったのだ」
「「それがストーカーだって!」」
「む、そうなのか」
胸を張っていた状態から首を傾げて不思議そうにしている。二人は互いになんとも言えない表情で見合わす。
「自覚ないって怖い」
「そーらしいな。ああいうのは自分が対象を見守っているって言う正義感から動いている奴が大体だから……うん、ドンマイ」
殺す側から何故か励ましを受ける青屋。落ち込んでいたのに、更に精神的な追撃を受けて両膝と両手を地面に着く。実に惨めである。
「大丈夫か?」
「これ以上追撃しないで! お願いだからッ!」
若干涙ぐみながら頼み込むその姿。更に惨めさが増していた。彼は精神的に追い詰められると涙腺がもろくなる体質だったりする。
「す、すまん……」
「男だろ、泣くな」
「泣いてないし、この現状の原因はアンタだ……」
少しだけ落ち着いた青屋は立ち上がり、隣の少女を睨む。とは言っても涙目だが。
しかし少女は悪びれる様子もなく、警備員を見ていた。それも新しいおもちゃを買って貰った子どものように喜んでいる。
警備員は思わず顔をしかめる。
「なんだい、その嬉しそうな顔は?」
「いやいや、こんなにも剥き出しだと嬉しくてな」
先程のコントのような雰囲気とは変わり、重苦しい空気へと変貌する。
「それだけの殺意を動機もなく、ただ八つ当たりの感覚で動かせる事に喜んでいたし、驚いていたが、成る程、納得いったよ。君、死神に憑かれているだろ?」
「───ちっ!」
少女の断言を聞いた途端に目の色を変えた警備員が両手で拳銃を構えた。拳銃を持っている片手をもう片方の手で抑えるといった奇妙な形で。
(さっきは片手で撃ってなかったけ? それに、今は変な構え……何なんだ?)
「ちっ、こんな時に……」
「……なんだ、君は未熟者か」
「そこまで知っている……? 君はいったい何者だ?」
両手を構えたまま、奇妙な者を見たような、そんな表情だった。
「私の事などどうでも良いだろう」
「ってか死神ってなんだよ!? んなもん仮想の存在だろ!」
「まあ、世間的には信じられてはいないからな、君が信じないのも仕方ないか。だがな、居るのだよ。死神は」
少女は淡々と答え、警備員の方を見る。警備員は拳銃を構えたまま、二人を睨んでいた。
「今拳銃を構えたままの警備員には死神がとり憑いている。まあ簡単に言えば憑依みたいなものだ。憑依というのは通常、憑かれた側の意思を奪ってその体の主導権を得る事だ。まあ私が言ったのは強制的な例、だがな」
そう言われて改めてその警備員を見る。片手を片手で抑え、今にも殺さんばかりの殺意をぶつける警備員。
少女の話を真に受ければ、確かにそうかもしれない。だが、それはあり得ない事。
「だから、どうした。体の半分は俺が主導権を握ってる。引き金は引けるんだよ!」
「だが先程から銃口は別の方向に向けようと動いているぞ?」
追い詰められた強盗のように叫ぶも、少女に軽くあしらわれる。警備員は苦虫を噛み潰したような表情をすると、無理矢理銃口を青屋に合わせる。
「この女に気を取られてたが……元の狙いはテメェなんだ。テメェを殺せれば問題ねぇ!」
勝ち誇った笑みを浮かべると、引き金を引く。引いた瞬間、拳銃は手から離れる。警備員の表情は笑っていたが、口は避けろ、そう言っていた。
しかし、人に目に見えない速度で迫る銃弾などよけれるはずも無いし、防ぐことも出来ない。
(死ぬのか……俺?)
目を閉じる暇もなく迫る銃弾。死を覚悟した瞬間、それは弾かれた。
「────え?」
「だから言っただろう? 未熟者の死神よ」
隣を見ると、刃渡り九十センチの大鎌を片手に持つ、あの少女が呆れた表情で見ていた。その姿は死神を発想させた。
「彼を殺されるのは困るな、とな」
そう言って、どこから出したのかわからない大鎌を警備員に向ける。
「テメェ、まさか……」
「君の派とは違う、真っ当の派だよ。お喋りはここまでにしよう」
その鎌は静かに、しかし銃弾よりも速く、それは警備員の体を上半身と下半身の二つに切り裂いた。
上半身は空に飛び、鮮血を撒き散らしながら地面に落ちる。下半身は膝が折れ、そのまま正座をしているような姿になる。そして落ちてきた上半身は地面にぶつかると、見事にその中身と血を地面にぶちまける。
そんな残酷を超えた非道を行った少女は大鎌を肩に担ぎ、微笑んでいた。
「うむ。やはりというべきか、私が作った割にはいい出来ではないか」
人を斬れることが当たり前だと言うように、その大鎌の出来を褒める少女。そんな少女を見ていて思わず、青屋は胃の中にあったモノをすべて吐き出した。
「う……げぇ……」
「おいおい、大丈夫か?」
胃の中身を戻した青屋を心配し近寄るも、青屋が気付き、少女との距離を取る。その反応を見て少女は困ったような表情をする。
「アンタは何のつもりで俺を助けた!? 自分の手で殺すためか!?」
「うむ……君には説明しとかなければならないな」
「何をだよ! それにアンタは俺を殺すつもりなんだろ!?」
錯乱する青屋に、あきれる少女は青屋の肩をおもいっきり叩く。
「いったぁ!?」
「落ち着いたか?」
「そう言う問題じゃねぇ……」
思っていた以上に少女の力は強く、肩を叩かれた青屋は叩かれた肩を抑え、悶絶していた。
「まあ落ち着いただろうし、説明しておこう」
そう言って少女は手にしてた大鎌をそこらに転がってそうな木の棒に変えて、それを青屋の眼前に突き付ける。青屋と少女との身長差はおよそ三十センチ。しかしその身長差を埋めるような威圧感がそこにあった。
「死神の一柱として君に宣告しよう」
「─────、」
「君は死ぬ。それも今日を含めた一週間後にだ。その間、君を理不尽な死から守ろう」
あの時の老婆とは違って、明確すぎる死の宣告は青屋の心を確実に傷付けた。