第一章 残り七日間の命 7DAYS
「はぁ……」
この日誕生日を迎える青屋は先ほどとは真逆で、あの路地裏から少し離れた公園のベンチで落ち込んでいた。原因は言わずもがな、あの老婆である。
あのあと、状況がいまいち理解できなかった青屋は再度老婆の話を聞くと、
『今のでわからなかったのかい!? 全く、仕方ないねぇ……簡単に言えばお主には死相が見えるんだよ』
『うわ……ありきたり……』
『うっさいね、とにかく見えるんだよ! ……ゴホン、今日から一週間、お主には死が近付いているんだよ。運が悪くても、普通でもお主は死ぬだろうね。まぁ、運がとても良ければ生き残れるだろうね』
その老婆は青屋の運命を愉快だと言わんばかりに答えて笑っていたのを良く覚えている青屋は思い出したため、ため息をつく。
「せっかくの誕生日がネガティブで締め括られるとはなぁ……ツイテナイ……」
若干涙声でさらに落ち込んだ青屋は帰るために歩き出す。
そう言えば、と思い付いた青屋は腕時計のから箱が入っている手提げを見る。
「これに関してはツイテルかな?」
そう言って微笑んだ青屋は楽しげに歩き出す。公園から出て右に歩くとすぐに、バイクの走る音が後ろから聞こえてきた。
「もらいっ!」
「うおっ!?」
バイクに乗った男は青屋の手提げを奪い取り、走り去って行く。から箱だけしか入っていない手提げを奪い取られても何も困ることは無いが、何だか残念な気持ちになり、ため息をつく。と、
「────え?」
T字路に差し掛かり、止まったバイクが、大型トラックに轢かれ、横へとずれていく。そのままトラックは速度を落とすことなく、T字路の片隅に建てられたコンビニエンスストアへと突っ込んで行く。酷い轟音が衝突から若干遅れてやって来た。
青屋は目の前で起きた事に、呆然と立ち尽くしている。
(なん、だよ……今の、明らかに殺意のある行動だろ……)
ブレーキをする音も、クラクションすらなかったあのトラック。
青屋はふと、占いの老婆の言葉を思い出す。
「……『この一週間、お主には死相が見える』って言ってたよな、まさか……今のがその予言の一つだったり? はは、そんなこと……無いハズだ」
あの占いとこの惨事の関係性を否定したいのだが、どうしてだか青屋はそれを否定しきれなかった。
たまたまあの手提げにはから箱だけしか入っていなかったから。たまたま盗られた手提げを諦めたから。
考えれば考える程、偶然が重なったから、運が良かったから助かった。
もし、あの老婆の予言が本当なら────
この先、生きていけるのだろうか?
「─────ッ!」
思考がそこまで行き着いた途端、青屋の背筋に嫌な痺れが走った。
(ここじゃないどこか……安全な所に、家に帰ろう!)
帰るために惨事の場所とは別の道から行こうとしていた青屋は後ろを振り返ると、すでに人が大勢集まっていた。それもそうだろう、あの酷い轟音だ、何が起きたのかを知るためにここに来た。気にしない方が変だろう。
気づけば救急か消防のサイレンが聞こえてきた。この場から離れるために青屋は焦るように足を動かす。
其のまま、青屋は人混みの中へと消えていった。その後、何事もなく家に着くことができた。とは言ってもアパートの一室だが。
やつれた顔でドアの鍵を開けて中へと入る。アパートの中は必要最低限の物しか置かれて無かった。六畳一間、風呂とトイレが付いて三万円をちょっと越える位の並みのアパートだ。
青屋は靴を脱ぐと、リビングの端に置かれたベットに倒れこむ。
(はぁ……色々あって今日は疲れた。眠い……)
そのまま意識は泥沼に沈んでいった。