中 再開
俺の予想は本当に外れていた。
俺の予想通りなら、街全部がボロボロになるまで壊されて、そこらじゅうで人が殺しあっているはずだった。
が、寧ろ街は平和そのもので、最後だからみんなで騒ごうぜ、見たいなムードで溢れかえっている。
いかに自分が漫画、映画に影響されていたかが身にしみて、少し恥ずかしくなった。
もはや全く意味の無くなった信号を無視して、駅まで奔る。
この道も、この行きと帰りの二回しか見れないのか、と、少し泣きそうになる。
が、何とか堪えて前を見直す。と、もう駅が見えてきた。
俺は賑わう人達を轢かないように気をつけながら、それでもスピードを上げつつ俺は駅へと急いだ。
やはり駅とあってか、人の通りは多い。
その中から、彼女の姿を見つけようとする。
プルルル プルルル
不意に、ポケットの中に入れておいた携帯が鳴った。
急い出して、耳に当てる。
「もしもし?」
『あ、もしもし?こっち、見えてる?私もう見つけてるんだけど』
「え?あ、どっち?」
『こっちこっち。右、かな?右の方手ぇ振ってるよ』
言われるがままに、右を向く。
少し目を見張って、それらしい姿を探してみる。
が、皆待ち合わせをしているのだろうか。何人かの人が手を上げていた。
「え、どこ?悪い、もう一回教えて」
『だから、こっちだって』
「だからどっちだよ?」
『だから――――』
と、何故か回線が切れた。
「あ、え?もしもし?もしもし!?」
うろたえて携帯に叫んでみるが、
ツーツーツー・・・
切れていた。
「あれ?おかしいな」
と、ディスプレイを見ていると、
「だーれだ?」
目をふさがれた。
「さ、里美・・・?」
答えると、「大正解!!」の言葉と共に俺の視界は開けた。
急いで振り返る。
「久しぶりだね」と笑う里美は、分かれたときより少しだけ、
少しだけ、大人っぽくなっていた。
バイクの後ろに里美を乗せて帰ってきた。
途中、里美が色々話しかけてきたが、何故か上手く答えられず、俺は聞こえないふりをしていた。
「入れよ」
部屋の鍵を開けて、里美を中に入れる。
別にこんなこと、付き合ってる時は普通だったのに、何故か知らないけども気恥ずかしかった。
「お邪魔しま〜す」
地球最後の日の一日前だと言うのに、律儀に靴を脱いであがっていく。
だから仕方なく、俺も靴を脱いで部屋に入った。
「あ、部屋の中は綺麗だね」
「そうか?」
「付き合ってるときも部屋綺麗だったもんね。私一回彼氏の部屋掃除してみたかったのに、ケンちゃんの部屋綺麗だったから掃除できなかったし」
そうだったか?と、俺はクッションの上に腰掛けた。
その隣にクッションを置いて、そこに里美を座らせる。
「・・・・・・・・」
別に話す事も思い浮かばず、俺は黙ったまま壁に掛けてある時計を見た。
こうしている間にも、時計の秒針は一秒一秒進んでいる。
時が進むにつれて、残された時間は減っていく。
何かそれがおかしく思えて、俺は一人少し笑った。
それを不振そうな顔で里美が見ていたが、構わず俺は笑っていた。
「ねぇ」と、口火を切ったのは里美だった。
「ねぇ、私と別れたあと、誰かと付き合った?」
「・・・いや」
そういえばあれ以来、誰とも付き合っていなかった。
別に女好き、というわけじゃなかったが、それまでは女とはそこそこ付き合ってきていたのに。
「そっか・・・」
と頷いた里美は、少し複雑そうな顔をした。
「私はね、付き合ったよ」
「・・・そっか」
何故か少し胸が痛くなって、俺は顔を顰めた。
里美が付き合っていたと知ったからだろうか。
もしくは、里美と別れてしまったからだろうか。
ああ、両方かも知れない。
ともかく、胸が痛かった。
「そっか・・・」と俺は言った。
「そっか・・・」と。
そんだけしか、言葉が出てこなかった。
「けどね」と、里美が言った。
「すぐに別れちゃったんだ。一週間くらいで」
「・・・何で?」
「何でだろうね?」
里美は悪戯っぽく笑った。
何でだろうね?と。
「ああ・・・、何でだろうな・・・」
呟いて眺めた空は、日が暮れて少し暗くなっていた。
少し展開が速いです。