*プロローグ*
少し怖いかもしれません。そうしたつもりはないんですが・・・((苦笑
《コポッ・・・コポッ・・・》
薄暗い部屋で、巨大なカプセルの中の赤色の液体が不気味な音をたてている。
・・・いや、正確には『カプセルの中に入っている物』に繋がれたチューブから
、なにかが注入されている音である。
カプセルの中には、4・5歳の人が入っていた。
・・・断言はできない。確かに形は人なのだが、人は普通カプセルの中に入って
はいない。
ここは、南アルプスを少し北上した辺りにある研究所である。
周りはすべて杉の木で覆われ、ここを知る者など無いに等しい。
――高原 祐貴だけは、ここを知っていた。彼がここを建て
たのだ。
この『高原生物研究所』では、表向きは〈自然生物の生態系の観察〉をしている
事になっているが、実際には生物の〈作成〉・・・〈人を人工的に作る〉研究が
されている場所なのだった。
つまりカプセルの中にあるのは、彼が十数年をかけて作り上げた『作品』・・・DNA
から何からすべて祐貴が作った、正真正銘の人工生命体なのである。
医者でもある祐貴は色々な監視をあざむくために、この山奥で作品にさらなる手
を加えていた。
もうすぐこの作品は小学校に行かなければいけないのだ。学校全体の人々をあざ
むくのは容易なことではあるまい。
この施設の存在をバレないようにするため、作品が自己をコントロールできるよ
うになるまで、仮の記憶を入れておくことにした。
妻には少し前に、『孤児を引き取ってやらないか』という話をし、承諾を得てい
る。
「そろそろ動かしてみようか・・・。」
大丈夫、性格にはなんの異常も無いはずだし、妻は孤児が来るのを心待ちにして
いる。
祐貴は遠隔操作で作品の口からチューブをはずし、中の液体を全部抜いた。
――作品は、ゆっくりとまぶたを開けた。
祐貴はにんまり笑うと、言った。
「おはよう、未彩。気分はどう?」