第5話『帰宅前も後も一騒動』
クラス分けの結果、俺たちは欠けることなく同じクラスになった。
そのあと始業式でテキトーにハゲ校長の無駄にクソ長い話を聞いて、今は放課後のHRの時間だ。
いくら変わった学校とはいえ、さすがに始業式から授業はやらない。ようするに『今日はこれで終わりだ。ヒャッホーイ!!』ってことだ。ヒャッホーイ!!
「よぉし、諸君! 今日はこれで全て終わりだ! 諸君も三年生になったわけだが、おれは諸君に厳しく勉強しろとは言わん! 勉強して良い会社や大学を受けるも良し。遊んで過ごすのも良しだ! では諸君、帰って遊ぶがいい。フハハハハハハ!!」
言いたいことだけ言って颯爽と去っていく俺たちの担任。無駄にかっけぇー。
「帝星先生は相変わらずだね」
俺の右隣の席の美里は帰り支度をしながら、今にも吹き出しそうなのをこらえてる。
担任の名前は帝星刺鵜醒。去年もだったが、今年もこの人が俺たちの担任だ。
すごい苗字と名前つーかどこぞの世紀末漫画に出てそうだが、思い切って本人に聞いてみたところ「ん? おれとサ○ザーは無関係だぞ。尊敬してはいるがな。ワハハハハ!!」って返事が返ってきた。
ハチャメチャな先生だが、豪快な行動振りと威厳たっぷりの言い方が面白いのか、生徒の人気は常にストップ高だ。
「そうだな。せっかくの半ドンだし、帰りにどっか寄ってくか?」
「うん。僕はいいけど、睦月ちゃんと高橋くんはどうするー?」
俺と美里が後ろを振り向くと、二人は帰り支度してた手を止めて俺たちを見た。余談だが俺の右隣が美里で後ろが睦月、右斜め後ろが雅矢の席だ。
あの先公め……今回は見事に四人固めてくれやがって。後でスーパーボールぶつけたらぁ!
「良いですわね。わたくしは構いませんわよ。御付き合い致しますわ」
「残念ですが、私はこれから用事があって……」
睦月はオーケーで雅矢は用事ありか。四人でどっか行きたい気分だったし、また今度にするか――
「そっかー。用事なら仕方ないね。また今度にする?」
と思ってたら美里がそのまま言ってくれた。
「そうですわね。雅矢さんが大丈夫な時に致しましょう」
「すみませんねぇ。それでは私はこれで。さようなら皆さん、また明日」
「おう、また明日な!」
「ごきげんよう、雅矢さん」
「またね〜っ、高橋くん」
よっぽど急いでるらしく、雅矢の奴は挨拶もそこそこに去っていった。
そういえば、アイツの家のことってあんま聞かねぇな。何か事情があんのかねー?
「ンじゃ、帰んべー。……ん?」
カバンを持って立ち上がると、また良からぬことを考えてそうな目をした睦月が俺の右腕に抱きついてきた。
睦月よ……今度はお前か!
「んふふ。これで裕哉さんの右腕はわたくしのモノですわ」
おい、今なんか『モノ』の発音がおかしかったぞ!
「あーっ! 睦月ちゃん! そこは僕の特等席だよっ!!」
「あら、そのようなこと誰がお決めになったんですの? 早い者勝ちですわ」
「むむむーっ! じゃあ僕はこっち!」
「ぐぬぬぬー」
「何がむむむだ! てか、二年の時もだったがお前らよく飽きねぇな。ある意味感心するわ……」
突然口を挟んできたクラスメイト。「誰だっけ? 名前分かんねぇから仮にモブAとしとこう」、うん。
「ひでぇ! オレは吉岡だ! 去年も同じクラスだったろうが!!」
「そうだったか? まぁどうでもいいや。おいお前ら! いつまで俺の腕に引っ付いてやがる!? さっさと帰んぞ!!」
怒鳴っても離れそうにねぇから右腕に睦月、左腕に美里を引っ付けたまま学校から出てやった。大分目立ってしまった気がするが今さらなことだ。
校門を過ぎてからまた睦月の奴がトリップし始めたんで、とりあえずカバンで殴っておいた。あ、そういえばカバンに鉄板入れてたっけ。なんか睦月の頭から星が飛び出てた気がすんだが……まぁ見た目に反して丈夫な奴だから問題ないだろ。
「ばいばい、ユウ。また明日ねー!」
馬鹿話に花を咲かせてるうちに家についたので、家の前で美里と別れる。
「おう! また――って明日は休みだぞ?」
「あ、そうだった。ねぇユウ、明日遊びにいってもいい?」
「ああ、いいぞ。明日は俺も用事ねぇしな」
「ありがとっ! じゃあ、また明日ね!!」
やけに嬉しそうにしながら、美里は自分の家に入っていった。いつものことだろうに……そんなに嬉しかったのかねぇ?
ま、いいや。俺も家に入ろうーっと。
「TATATAただいまーっと――おわあっ!!」
引き戸を開けた途端に飛んでくる丸い物体! 間一髪よけて跳ね回ったそれを確認するとタダのスーパーボールだった。
へぇー懐かしいな。小坊くらいまではよく見たんだが最近はめっきり……ってそうじゃねぇ!!
「お袋! わざわざ待ち構えてて息子にスーパーボール投げるたぁどういう了見だ!?」
「チッ。避けたのかい。つまんないねぇ」
今「チッ」って言ったよこのババァ!
「まぁ、あれだ。お昼のワイドショーなんざみるの、あたしに似合わないだろ? ちょっとした暇つぶしさね。それでお昼はどうするんだい?」
「息子で遊ぶなよ……あんま腹減ってねぇから昼飯はいいわ。ん……?」
脱いだ靴を靴箱にしまおうとして、見慣れたブーツを発見する。これは……アイツが来てるのか?
「お袋。今薐の奴きてんのか?」
「ああ、いるよ。今は上で雪と遊んでんじゃないかい?」
どうやら、アイツが遊びにきてるのは間違いねぇようだな。つか、アイツらHRサボってきたのか?
……あの薐のことだし、十二分にありえるのが怖えとこだ。
「……ん?」
2階に上がって自分の部屋のドアを開けようとした俺は、中に誰かがいる気配を感じてドアノブから手を離した。
誰だ? 雪と薐が上にいるなら雪の部屋にいるはずだし、もしかしてボウドロか!?
なんてな。隣の部屋にいるんなら、分からないはずもねぇよなー。二人とも俺の部屋でなんかやってんのか?
何か話し声が聞こえてくるのでドアに耳をそばだててみると――
『あっ……お姉様っ……そこは……!』
『何イイ声上げてんだ? やっぱココがイイんだろ?』
『は、はい……そこがっ、気持ちいいんです……っ!』
『へへ、やっぱりな。雪はココが弱いもんな。アタイも燃えてきたぜ』
『あっ……んっ……お姉様ぁ……』
……えっ? なんぞこれぇ――!!