第4話『見た目お嬢様とイケメンの優男』
おはよう、諸君。水無月裕哉だ。
早速だが、いま俺の目の前で二人の少女(片方は『?』だが)が睨み合ってる。
今にも殴り合いが始まりそうだが、この二人の場合は喧嘩は喧嘩でも口喧嘩。なんで、俺も止める気はなかったりする。
とりあえず、心の中でゴングでも鳴らしておこうか。それ、カーンとな。
「あーら、美里さん。そんなに引っ付かれていては裕哉さんが歩きにくいのではございませんこと?」
どこぞのお嬢様を思わせる口調で美里を挑発する睦月。まぁ、コイツだと違和感があんまねぇよな……正真正銘のお嬢様だし。
「睦月ちゃんもおはよう。相変わらず黒ずくめでいかにも睦月ちゃんって感じだね! それよりも、朝はまず挨拶から、じゃないのかなー?」
美里の反撃。つかこの二人、一見すると仲が悪いように見えるんだが、なんか楽しそうにやってる気もすんだよなー。喧嘩するほどなんとやら〜って奴なんかね?
「それもそうですわね。ごきげんよう、美里さん。ぐぬぬぬ……」
「むむむ……っ」
お約束だが、何が「むむむ」だっ!
人通りも多くなってきたしそろそろやめさせるべきか、と思った途端にケツに妙な手触りを感じる。横を振り向けば「バリバリ現役でホストやってます」と言わんばかりのイケメンが俺の隣に立っていた。
「やれやれ、君たちは相変わらずですね」
「雅矢……そう言いながらてめぇはなにひとのケツ撫で回してやがる!!」
「おっと、これは失礼。ははは」
まったく、コイツは……油断も隙もあったもんじゃねぇな。
この二人――ゴシック調のロングワンピに腰くらいまである黒髪ロングストレート女とサラサラ髪のイケメン男はそれぞれ九条院睦月、高橋雅矢。俺の悪友その2とその3だ。
睦月は名門『九条院財閥』のご令嬢。雅矢は普通の家の出らしいが見ての通りの日本人離れしたイケメン。だが、二人とも性格や性癖は多少(本人たちの名誉のためにこう言っとく)まともじゃない。
なんでかってーと、睦月は蛙とかの解剖実験するたびに息が荒くなったり、みんなで焼肉屋に行けば内臓ばっかり頼んだりする奴で雅矢は行動からも大体分かるように所謂『ゲイ』の男。コイツに誰かが「アッー!」されたって話は聞かないが、本人もそう言ってる。
まぁ行動はアレだが、二人とも俺の大切な友人だ。
「おはようございます、裕哉君。神無月君と九条院さんも。そろそろ時間ですし、一旦切り上げて学校に行きませんか?」
雅矢がそういうと、美里と睦月は同時に小さく溜息をついていつもの顔に戻った。おお、さすが雅矢。この二人のストッパーなだけはあるぜ!
「そうですわね。それでは、早く参りましょうか」
言いながら睦月はひっそりと俺の左手を握る。
なんかコイツの手って冷たいな……冷え性か何かなんかねぇ?
「うんうん――って! なにちゃっかりユウの手握ってるんだよ!」
「これくらい良いではありませんか。あなたは右腕、わたくしは左手。何か問題がありまして?」
「むむむーっ」
「何がむむむだ! ほら、さっさと行くぞ」
これ以上ここにいたらループしちまいそうだ。
「相変わらず賑やかですねぇ。はっはっは」
雅矢、お前も言いながら今度は腰を揉んでんじゃねぇ!
学校までの直線道路をわいわいがやがやと歩く俺たち。右には美里、左には睦月。後ろにはイケメン雅矢と普通なら裸足で逃げ出したくなるくらい目立ってる。
が、「悲しいんだけど、これって去年からなのよね」ってことで嫌でも慣れてしまった自分がここにいる……。
「そういえば、裕哉さん」
俺を見た睦月の頬が何故か赤い……目も潤んできてるような気がする。そんだけでなんか嫌な予感しかしないが、とりあえず聞いてみることにするか……。
「ん? なんだ?」
「今朝、活きの良い蛙を捕まえましたのよ。早速、放課後にでも二人っきりで解剖してみません?」
「やらねぇよ! おい、さりげなくポケットからメスを取り出すんじゃねぇ! つか、学校に刃物持ってくんな!!」
「あら、ご心配には及びませんことよ。このメスはセラミック製で金属探知機にも引っ掛からない特注品ですの」
「そういう問題じゃねぇよ!!」
この女……メスを見てうっとりしてやがる。あぶねぇ!!
「なんでしたら、裕哉さんの股間の鋭いメスでわたくしのほとを――」
「おーっとそこまでだ! 朝っぱらからなにトチ狂ってやがる! さっさと行くぞオラ!!」
「そうだよ睦月ちゃん! そ、それにユウのはそんなメスみたいに細くないっ!」
「ほう? 裕哉君のはそんなにビッグマグナムなのですか。それは楽しみですね」
あああ! なんかもう収集つかねぇから引きずってでも連れてくわ!!
「ああ、裕哉さん……。そんなに激しくされてはわたくしはもう――」
「いいからお前はもう黙ってやがれっ!!」
そんなこんなで学校に到着。なんかいつも以上に疲れた気がするわ……。
睦月の奴はまだトリップしたまま。ますます変なこと言い出しそうだったんで、美里のカバンに何故か入ってたガムテープで口を塞いでやった。
またなんか変なことを考えてやがるに違いねぇ……恍惚してる睦月をそのままに、俺たちは今年度のクラス分けが発表されるのを待った。
※この物語はKENZENものです






