表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の周りは変と恋ばっか!  作者: 杏 代瑞
春の章
2/18

第2話『元ヤンなお母様』




「ヒャッハー!! 朝飯だぜぇ――おごぉ!!」


 景気付けに世紀末モヒカンの真似をした俺の額に何やら固いモノがヒット!

 床に落ちる前にキャッチしたそれは黄色いレモン。かじってみたら当然酸っぱい。

 良い子のみんなは真似しちゃいけません。輸入モノは発ガン性のある薬が塗ってあるらしいからな。


「いきなり何しやがる! お袋!!」

「あぁ!? アンタが悪いんでしょうが。朝っぱらからくだらない真似してんじゃないよ。ほら、さっさと朝ご飯食べな!」


 言いながらもテキパキと朝食を並べていく金髪のババァ。

 ちなみに雪のヤツは既に半分食べ終わっていて、楽しそうに笑いながらこちらを見ている。


「いい年していつまでもパッキンにしてんじゃねーよ(ボソッ)」

「……ほう? そんなに早く死にたいのかい?」

「……いえ、私が悪うございました。何卒この卑しい私めに朝餉をお恵み下さいまし」


 即座に引き下がる俺。お袋の両手には使い込まれたメリケンサックがはめこまれていたからだ。

 さすが元ヤンキー。迫力満点だぜ……。しかもタダのヤンキーじゃないからな……。


「よろしい。ほら、早く食べないと間に合わなくなるよ」

「へいへい……」


 適当に返事して雪の隣の椅子に座る。

 この金髪の女性は水無月濤恵みなづき なみえ。苗字から分かる通り、俺と雪の母親だ。年齢は……言ったら間違いなくスマキされる……怖えぇ人だし。

 なにしろ若い頃は全国制覇を成し遂げた有名な暴走族『神風夜叉』のレディースの総長だったらしい。そんじょそこらのヤンキーとはわけが違う。

 今でも金髪だし、部屋には当時着てた特攻服やら武器やら置いてあるし、怒らせるとメリケンサックや特殊警棒の一撃が飛んでくる。防犯グッズとして売られてるようなパチモンじゃねぇから、これがまたとんでもなく痛ぇんだ……。


「そういえば、お袋。親父がいないようだが?」

「父さんはさっさと会社に行ったよ。何でもやることがあるんだとさ」

「そか。まぁいいや。いただきまーす」


 親父の紹介なんか後でもいいか。それよりも今は朝飯だ。

 今日の朝飯は、と……銀シャリに目玉焼きにみそ汁に沢庵に……おおっ、納豆があるじゃねぇか!


「裕兄さんは納豆大好きだもんねー」

「おう! 納豆をNATTOHと書いてしまうくらい好きだぜ!」


 早速練って飯に掛けてかっこむ。からしは入れない。納豆にはからしを入れない、それが俺の信条だ。



『――先日施行されたTGSV保護法。それから一日経った街の様子を安田リポーターに伝えてもらいます。現地の安田さん?』



 最近よく耳にするようになった言葉が聞こえてきて、俺達は思わずテレビの画面に目を向けた。


「あー、そういえば昨日施行されたんだったねぇ。まぁ、ノーマルなあたしらにとっては関係ないさね」

「そうだねー。あ、でもみさちゃんは喜んでるかも?」

「ああ、あのコはそうだろうねぇ。そこんとこどうなんだい? 裕哉」

「おおむね、お袋達の予想通りだよ……」


 まぁ、これが施行されたところでアイツが何か変わるわけでもねぇしな。俺を常に振り回すような奴だし。

 テレビの中では、リポーターが忙しそうに街の様子を伝えている。確かにそれっぽい奴らが増えた気がするが気になるほどでもない。

 そもそも、2年前に同性愛(これは元から個人の自由だが)と同性婚は法的に認められている。そして今回施行された法律で残りの奴らが法的に認められたってだけの話だ。

 俺はよく知らんので詳しくは言えないが、なんでもTS、TG、TVといった奴らのための法律らしい。性転換者や俺の周りにいるアイツらのような異性装者のためのものってことだ。

 ただ、TVに関しては少し厳しくて「行為をするに当たって出来る限り美化すること」になっている。ようは、どこぞのおっさんがすね毛も剃らないままスカート履いたり、化粧をしないままひげボーボーでしたりするのはNGってことだ。当たり前のことだが、著しく公序良俗に反する格好もNG。パンツ一丁や水着で街中を闊歩するとか、まぁ誰もやらんとは思うが。


 ふと、盆の上の膳を見ると空だった。いつの間にか食べ終わっていたようだ。


「ふう、ごっそさん! お? 雪はもう食べ終わったのか?」

「とっくに食べ終わって学校いったよ。アンタもそろそろあのコが迎えに来るんじゃないかい?」

「おお……もうそんな時間か」


 テレビの画面の左上を見ると、確かにそんな時間だった。

 このままじゃ納豆臭いんで念入りに歯磨きしてツラ洗って、鉄板入りのカバンを持って玄関先に出た途端、待ってましたと言わんばかりに玄関のチャイムが鳴った。


「はいはい、今開けますよっとー」


 ガラガラッと引き戸を開けると――


「おはよっ、ユウ! 早く学校いこ――ってなに朝から頭抱えてんの?」

「お前の格好のせいに決まってんだろうが……」

「んん? これ? お気に入りなんだけど、どこか変だったりする?」


 そこには『不思議の国のアリス』から抜け出したアリス……もとい、俺限定のトラブルメイカーが立っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ