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俺の周りは変と恋ばっか!  作者: 杏 代瑞
春の章
16/18

第16話『晴れ時々押し掛け女中』




 『Oh! SAKE!!』の2日後。春の日差しに気持ちよく身をゆだねていた俺のは、無粋な輩の手で強制的に終わらされた。


「――てください」


 ンだよ、うっせぇなあ……こっちはまだねみぃンだよ……。

 つか、これ誰の声だ? 美里でもねぇし、睦月でもねぇし、薐でもねぇし、雅矢でもねぇし――

 いや、待てよ? この男っぽくも女っぽくも聞こえる声は確か……


「裕哉君、起きてください。もうお昼ですよ?」

「……今起きるっつの。……――」


 いい加減肩を揺すられるのが鬱陶しくなって目を開けて、そのまま固まる。

 しかしすぐに再起動。後に一言。


「誰だお前はっ!?」

「地獄からの使者スパイ○ーマッ! ――って何やらせるんですか」


 ノリツッコミの後、そいつは俺の頭を軽く小突いてきた。


「てか、お前雅矢……でいいんだよな?」


 自信なさげに確認する俺。

 というのも、雰囲気やしゃべり方は奴そのものなんだが、格好はいつもの奴じゃなかったからだ。

 この前見かけたときからコイツがそういう服装を好むことは知ってたが、今のコイツの服装は質素な着物の上からメイドが着るような白いエプロンドレスを掛けた――言わば女中だ。


「はい、雅矢ですよ。ですが、今日は『胡桃くるみ』と呼んでくださいね」

「胡桃? お前、あんときは『桔梗』って名乗ってなかったか?」

「はい。ですが、改名しました。『桔梗』だとそれっぽすぎて面白くないでしょう?」


 そう言って雅矢、もとい胡桃は悪戯が成功したときの悪戯っ子のように笑った。

 コイツのこういうとこ、美里に似てる。いや、違うな……美里は少年っぽさも殆ど感じられないが、胡桃は年相応の少年と少女を合わせた、少し不思議な感じがする。和服とそれに合わせたカツラがそう思わせてるのかどうかは分からねぇが。


「オーケー胡桃さん。んじゃ聞くが、お前なんで俺ん家にいるんだ?」


 今日は休日だがお袋も親父も雪も揃って出かけてるはずだ。当然、玄関には鍵が掛かってる。まさかだとは思うが……コイツも睦月と同じくピッキングかっ!?


「いやあ、今日裕哉君以外出かけるって土曜日に言っていたじゃないですか」

「ああ、そういやそうだな」


 あんときはまだコイツらもいたから、聞いててもおかしくねぇか。


「それで、今日は裕哉君のお世話をしようと思いまして。ああ、別に九条院さんみたくピッキング・ツールを使って入ってきたわけではありませんよ? 朝来たら出かける前のおばさんに会って、中に入れてもらいましたから」


 コイツ朝から来てたのか。全然気づかなかったな……。

 そいや、なんかゴソゴソ音がたまに聞こえてきてたがコイツが部屋にいたからか。よくよく部屋を見れば多少こざっぱりしたような気がしないでもない。


「ん……?」


 ふと机の上を見ると、ベッドの下に隠してたはずのエロ本群がご丁寧にも積み重なれていた!


「おまっ! 勝手にベッドの下漁るんじゃねぇよ!!」

「はっはっは、まだまだ甘いですねぇ裕哉君。エロ本の隠し場所がベッドの下なんて、往年のマンガじゃないんですからベタ過ぎですよ。それはそうと、裕哉君もエロ本なんて読むんですねぇ」

「悪いかよ。つか、男なら誰だって読むだろ……」


 俺だって人並みの性欲は持ってるんだ。エロ本の一冊や二冊くらい持ってるさ。


「別に悪いとは言ってませんよ。私だって持ってますし」

「どうせ、男同士の奴なんだろ?」


 俺がそういったら、何が面白いんだか胡桃の奴はこれ以上ないくらい大笑いして、床をバンバンと叩き始めやがった。コイツの笑いのツボ、いまだに分からねぇ……。


「ははは、まぁそうですねぇ。ですが、最近はシーメールも良いと思うようになりましてね。いやあ、基本ゲイである私から見ましても、あの美しさにはある種の魅力を感じますよ」


 シーメールってなんだ? 直訳すると『海の手紙』か? ――って、意味わかんねぇぞ?

 疑問には思うが知りたいとは思わないので、俺は適当に流して立ち上がる。


「まぁ……俺は下でツラ洗ってくるわ」

「はい。少しホコリが溜まっているようなのでハタキを掛けて落としちゃいますから、下でテレビでも見ていてください」

「おう、ありがとよ」

「ああ、そうだ裕哉君」


 階段を降りようとしたら、まだ何かあるのか胡桃に声を掛けられたので振り返ると――


「お昼ご飯、何が食べたいですか?」


 時々にしか見せない、奴らしくもない可愛い笑顔を見て俺はドキッとしてしまった。

 普段なに考えてるかわかんねぇ飄々とした奴だから、二人きりだとなおさらそう思えちまう。


「……チャーハン。素はグ○コじゃなくて永○園で。あんかけチャーハンだけは勘弁な」


 気恥ずかしくなって顔を背けながら言う俺に胡桃は、


「はい♪」


 たった一言、そう言ってハタキを掛け始めた。だが、その時の笑顔にますます気恥ずかしくなった俺は無駄に急いで階段を降りたのだった。

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