第13話『Oh! SAKE!! ~ 準備は怠りなく ~』
次の金曜日。
今は授業中だが世界史担当の帝星先生が「よし、諸君! 授業はここまでだ! 残った時間は各自好きにするが良い。フハハハハ!!」と言ったので、いつもの4人で話をしてたときのことだった。
「そうだ――」
「京都に行こう」
おいおい……返しは悪くなかったが雅矢の奴が困った顔をしてるぞ、美里よ。
「俺は京都に行くぜ。誰がなんと言おうとな」
いいからさっさと行け! つか、睦月……お前がやると絶望的に合わねぇから。なんつーか……京都に向かったはずが、気づいたら稚内にいるような感じだわ、うん。
「ははは、それもいいですが明日から週末ですし、みんなでお酒飲みませんか?」
ほう、お酒とな。そういえば、最近あまり飲んでなかったな。
未成年の癖して最近とは何事だ! とは言わないように。それに、君たちの世界と違って軽アルコール飲料なら18歳から飲んでもよいのだよ。ハッハッハ!
……あと1歳足りないだろ、という突っ込みはナシな。
「明後日の方向を見て一体何をしてますの? 裕哉さん」
睦月の冷静な突っ込みが入る。どうやらウケなかったようだ。
「なんでもねぇよ。それより、久々の『Oh! SAKE!!』というわけですな? 雅矢殿」
無駄に時代劇に出てきそうな悪代官顔をする俺。
「ええ、『Oh! SAKE!!』です。それに、あと2週間もすればGWでしょう。その時の計画も立てれたら良いと思いまして」
「なるほどな、俺はいいぜ! 美里と睦月はどうだ?」
俺がふたりのほうを向くと、何してんだか……美里と睦月はお互いの頬をつねり合っていた。俺の視線に気づくとすぐにやめて姿勢を整えたが、お前らホント仲いいな。
「特に予定もないし、僕はオッケーだよー」
いつもの調子でオーケーサインを作る美里。
あのときはあんなだったのに俺も美里も気にしないでいつも通りの日常を過ごしてる。
いや、きっといつも通りじゃないんだろう。それを表に出してないだけで。
「わたくしもですわ。秘蔵のお酒を持参致しますわね」
手首に包帯が巻かれた手で髪をかき上げながら言う睦月。
昨日家で怪我したときのものらしいんだが、「なんでもありませんわ」と本人が言ってるから大したことではないんだろう。
それにしても睦月秘蔵の酒か……なんか嫌な予感しかしねぇんだが? それでも一応聞いてみますかね……。
「ちなみにどんな酒なんだ?」
「それはもちろん決まってますわ。アルコール度数100%の――」
――このとき、俺は気づいてなかった。俺たちの背後に誰かが立ったことを。
「それはタダのエチルアルコールだろうがああぁぁぁぁ――!?」
ここが教室なのも忘れて叫ぶ俺だが、周りの3人どころか他の連中まで静まり返ってやがる。
よくよく見れば、『奴らは言っている。後ろを見ろと』。
それに気づいた俺が大きな影に後ろを振り向くと――
「ほほう……貴様ら、おれの前で酒の話とはいい度胸だな?」
「げぇっ! 帝星先生!!」
ジャーンジャーンジャーン、ってな効果音が今にも聞こえてきそうだが、今はそれどころじゃねぇ……。やっべぇな……どう言い訳すっかな。
と、思ってたら雅矢が妙に真剣なツラしながら帝星先生に抗議?し始めた。
「それは誤解です、帝星先生。私達はお酒の話をしていたのではなく、『Oh! SAKE!!』の話をしていたのです」
「ほう、『Oh! SAKE!!』とな。では、高橋。その『Oh! SAKE!!』とやらを説明してもらおうではないか」
「はい。『Oh! SAKE!!』とは、とあるアメリカ人が『まぁ! なんて見事な鮭!!』とランカー級の大きさに驚き、感謝しながら食べたのが始まりで、明日私達もそれに倣って大きい鮭を4人で分けて食べよう、という話だったのです」
なんという嘘八百! よくもまぁそんなベラベラと出てくるもんだ。ある意味関心しちまうぜ。
「ほう……」
しかし感心したように何度も頷く帝星先生。まさか雅矢のデタラメ話を信じたのかっ!?
「まぁいい。貴様ら、酒の話をするのは結構だがここは学校で今は授業中だ。もう少し小声で話すが良い。あまり酷いようなら罰として帝星十字陵の建設を手伝わせるぞ」
デスヨネー。
ちなみに帝星十字陵は、この国一の建設会社『帝星建設』が総力を上げて建設中の建物だ。建物つーか、俺たち庶民では顔も拝めないようなお偉いさんの墓らしいが詳しいことは知らん。
「じゃ、続けるか。場所は前みたいに俺んちでいいか?」
帝星先生が教卓に戻ったのを見て『Oh! SAKE!!』の話を再開する俺たち。さっきより少しだけ小声で。
「いいんじゃないかな。僕は賛成♪」
「わたくしもかまいませんわよ」
「私もです」
前回もそうだったが特に反対はなかった。
となると今日は全員泊まりだな。美里と雪にも手伝ってもらって、2階の客間を少し片付けておくか。
――帰ってからこのことをお袋に話したら二つ返事で了承された。前ンときもそうだったから予想はしてたが。
睦月と雅矢が何本か持ってきてくれるらしい(睦月に関してはエチルアルコールは持ち込まないように釘を刺しといた)がそれじゃ足りないだろう、ってことで酒の用意もしてくれるようだ。
それを聞いてた雪もメンバーに追加。前回はまだ15ということもあって参加させなかったが、16だしそろそろいいだろう、というお袋の一声で今年は参加してもいいことになった。ま、そうとくれば一緒に地獄を味わってもらいましょうかねぇ……フフフ。
だが、このときに俺は気づくべきだったんだ。
普段騒がしいお袋が静かに笑ってたことに――。