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俺の周りは変と恋ばっか!  作者: 杏 代瑞
春の章
12/18

第12話『黄昏どきの告白』

※今回もやはり美里視点です




「……はぁー」


 ますます冷たくなってきてる風に身をふるわせながら自分の手をあっためる僕。姑息ではあるけど、何もしないよりはマシだと思う。

 ユウは近くの自販機に飲み物を買いにいってる。もう少ししたら戻ってきてくれるはず……。


「寒いね……」


 言葉にするとますます寒くなった気がする……。でも、これは多分体だけじゃなくて心も冷えてきてるから……。

 まだかな、ユウ……早く戻ってこないかな。


「……」


 ダメダメ!

 こんな状態でユウとなにを話せるって言うの?

 しっかりしろ、神無月美里。いつもの調子を思い出して! ユウが戻ってきたら言うんだ!

 深呼吸深呼吸――すぅはぁ、すぅはぁ……うん、落ち着いてきた。


「……」


 僕は西の空のかなたに少しずつ姿を消していく夕陽を眺めながら、新緑色のワンピースの裾を直してベンチに座りなおした。

 キレイな夕陽は好き。でも、キレイな月はもっと好き。

 お月さまを見るたびに穏やかな気持ちになるから。今日もあと2時間もすれば夕陽は完全に沈んで、白いお月さまが顔をのぞかせるんだろうね。

 ――って、ぼんやりしながら夕陽を眺めてたらほっぺたにあったかいものを押し付けられた。


「ひゃあっ!?」

「なーに黄昏てんだ? ほれ、ココア」

「あ、ありがと……」


 戻ってきたユウからホットココアの缶を受け取る。ユウが隣に座ったのを見てからプルタブを開けて一口飲むと、ココアの優しくて甘い味が広がって少しだけ体があたたかくなった。


「きれいな夕陽だなー」


 缶コーヒーを飲んで夕陽を眺めるユウ。そんなユウを横目で見る僕は、彼のなんでもない動きが気になって仕方なくて――


「うん、そうだね。ホント、キレイな夕陽……」


 そんな当たり障りのない言葉でお茶をにごしてしまう。


「……」


 黄昏に暮れる無言の公園。近くには他に人どころか猫一匹さえいない、完全に僕とユウだけの空間。チャンス……だけど言葉が出てこない。心のなかに浮かべた言葉を声にしようとしても、結局出せなくて元の場所に引っ込んでしまう。


「なぁ、アリス。なんか話あるんだろ?」


 ユウが僕のほうを向いて言う。


「…………うん。だけど、もうアリスの時間はおしまい。これは美里としての気持ちだから」


 僕はたっぷりと溜めを作ってから頷いて言った。


「……そか」


 ユウは何も聞かないで、ただ頷いてくれた。

 でも、相変わらずユウは意地悪だね……こんなときの僕がどんな話をするか知ってるくせに。ユウがそれを分かってないはずがない。長い付き合いだもんね。

 だけど、こうやっていつもユウを振り回して困らせてる僕もいけないよね……。だから今日――いまここで、はっきりと言おう――。


「ユウは……」

「あん?」

「僕のこと、好き?」

「いきなりナニ言ってんだ? 好きに決まってるだろ?」


 ユウは迷うことなくそう言ってくれた。それが、ユウの偽りのない本心ということは分かる。でも――


「それは……友達としてでしょ?」

「……」


 こんな言い方ずるいと思うけど……僕は馬鹿だからこんなことしか言えない。

 知ってるよ、ユウがこういう恋愛に興味がないことくらい……。幼稚園からの、長い付き合いだもん。

 ワンピースの裾を握りしめながら、僕はユウと真正面から向き合った。


「僕はユウのこと好きだよ。家族も雪ちゃんも睦月ちゃんも高橋くんも好きだけど、世界で一番ユウのことが大好き! 幼稚園の頃から気になって、小学校で好きになって、中学校でもっと好きになって、高校でもっともっと好きになって――今になって、やっと言えたんだ……!」


 そう、やっと言えたんだ。心の底に閉じ込めておいた僕の気持ちを。

 だから僕は――


「美里。俺は――」


 今はこれで満足、とユウの唇に人差し指を当てて先を言わせない。


「言わないで、ユウ。今すぐ返事がほしいって言ってるんじゃないんだ。今日は僕の気持ちを伝えたかっただけだから。だから今は――」


 僕は戸惑うユウに顔を寄せて、なにかを言おうとしているその唇を唇で塞いだ。


「んっ……」


 生まれて初めてのキスは大人っぽくちょっぴり舌を入れてみたりして、たったの10秒くらいだったけど甘い甘い時間に満足した僕はゆっくりとユウから離れて、


「――今はこれで十分幸せ。これが、僕の素直な気持ちだよ、ユウっ♪」


 僕は今日一番の笑顔を見せて、ユウの胸に飛び込んだ――。



☆ ★ ☆



 ――裕哉と美里、共に二人は周りには他に誰もいないと思っていた。だが、それ・・を終始見ていた目が遠くにあった。


「……」


 銀色の髪は尾が長めのツインテール。しかし銀髪には合わない、そのまま社交パーティに赴けそうな赤色のワンピースを着て、目元をサングラスで隠した怪しい姿の少女がそれ・・を見ていた。

 偶然か必然かは分からない。だが、確かに少女は見ていた。裕哉と美里のキスシーンを。


「ナツキお嬢様! 探しましたぞ!」


 後ろから駆けてきた執事風の老人に、少女は振り向いてすぐに声を掛ける。


「ねぇ、ゲンゴロウ」

「はい、なんですかな?」

「あのふたり……誰か知ってる?」


 少女の目線と同じ方向に顔を向けて、『ゲンゴロウ』と呼ばれた老執事はわずかに目を細める。


「あのお二方ですか? ……おお、男性のほうは水無月裕哉様ですな。女性・・のほうは……状況と髪型から察しますに神無月美里様と思われます。どちらも睦月お嬢様のご友人にございます」


 それを聞いた『ナツキ』と呼ばれた少女が、誰かを思い浮かべて嘲笑するような笑みを浮かべた。


「ふーん、あのヘンタイお姉さまにあんな友達がいたんだ。ユウヤとミサトかぁ……覚えておきましょ」

「ナツキお嬢様……実の姉君をそのように言うものではありませんぞ。ささ、大分冷え込んで参りました。これ以上はナツキお嬢様のお体に障ります。お屋敷に戻りましょうぞ」

「ゲンゴロウはいちいちうるさいなぁー。ま、これ以上ここにいても仕方ないみたいだし、もう帰りましょ」

「左様でございます」


(なかなか面白そうなふたりだし、ちょっとお姉さまに聞いてみようかな?)


 歩きながら『ナツキ』は楽し――否、愉しそうに笑う。そんな『ナツキ』を見て深いため息をついた『ゲンゴロウ』は見えない位置から裕哉と美里に一礼し、踵を返して老人とは思えない俊敏さで少女の後ろにいた。

裕哉とアリスのデートはこれで一先ず終わりです。

次話からは再びコメディパートに入ります。

『ナツキ』は今回は顔見せだけです。今後どう絡んでくるかは今は皆様の想像にお任せします。果たしてそれが合っているかどうかは後のお楽しみ。

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