# 第1話 フォロワー1,200人、今日も世界を救います
『フォロワー1,200人。今日も誰にも見られない場所で、世界を救います』
――というのが、南風原ひまりの頭の中で、毎朝繰り返される独白だった。
(新人の平均が5,000人って聞いたとき、正直ちょっと死にたくなったんだよね。でも切り替えた。バズれないなら、バズるための何かを探すしかない。以上!)
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翠霞市の駅前商店街は、シャッターが半分下りた寂れた路地だった。昼時なのに人通りはまばらで、看板の文字も色褪せている。
(まあ、地方あるあるだよね)
ひまり――17歳、魔法少女歴ちょうど3ヶ月――は、スマホの画面をじっと見つめた。
MAGIAアプリのフォロワー欄。数字は動かない。
1,200人。
ぴくりともしない。
ため息をひとつ吐いて、スマホをポケットに突っ込む。MAGIAは、全国の魔法少女が戦闘報告をSNS形式で投稿するプラットフォームだ。フォロワーが増えれば事務局からの評価も上がる。要は、バズれば勝ち。バズれなければ――
『ひまりみたいになる』
新人魔法少女の3ヶ月時点の中央値は、だいたい5,000人。
ひまりの今の数字は、1,200人。
下位5%。
(うん、わかってる。わかってるからっ!)
そのとき、スマホがブルッと震えた。
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【出動要請 ― 翠霞市地域事務局 / 芦田担当】
怪異確認。場所: 翠霞駅前商店街・東側路地裏
分類: メソメソ虫(中型)
出動推奨レベル: C
対応: 南風原ひまり
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「来た!」
ひまりはスマホをポケットに戻してキョロキョロと周囲を確認する。人はいない。シャッター街の外れ、電柱と電柱の間。
「完璧じゃん」
「よし。行くよ、行くよ!」
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路地裏は薄暗く、廃品回収のダンボール箱が積まれていた。地面には泥の染みがある。
(映えゼロ。まあ、変身するには十分だけど!)
ひまりは両手を胸の前で、ぱちんと合わせた。
「――変身!」
光が溢れる。
ピンクと白のグラデーション。ふわっと広がるミニスカートのシルエット。背中でミニマントがなびいて、腰のタックが決まる。
まず、足元から仕上がっていく。白のニーハイブーツ。かかとは低め。次に腰のリボンが現れる。今月のアクセサリはハニーリボンコラボ版で、通常の3倍ほど大きい。色はピンクではなくハニーゴールド。
(かかと低めなのは戦闘で走るから。機能性大事! しかしリボンがでかい。かわいい!)
背中のミニマントがふわりと広がって、縁にゴールドのラインが入る。袖口にも同じゴールドのフリル。コラボの追加要素だ。衣装の横にはハニーリボンタグつきのウエストポーチが下がり、いつもより、ひとまわり大きめに作られていた。
(細かいところまで全部かわいい!!)
最後に髪が解けてふんわりと広がる。ピンクのカチューシャが滑り込んできて、さらにハニーゴールドのリボンが左耳のそばに留まる。
変身完了。
ひまりは一人でポーズを決めた。右手を腰に当てて、左手で指を立てる。ウインク。
「マジカルひまり、参上!」
誰もいない路地に、ひまりの声だけが響いた。
今月のテーマは『お出かけ日和』。バッグを持って街歩きしている雰囲気がちゃんと出ている衣装だった。
(……誰も見てないけど! まあいい。今日も最高の衣装だから、戦闘あとの自撮りが楽しみ)
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じめじめした路地の奥から、音が聞こえた。
ぐしゅ、ぐしゅ。
泣き声のような、湿った音だった。
(まあ、メソメソ虫はいつもこれなんだけど)
路地の突き当たり、ダンボールを押しのけるようにして、それは現れた。
■
高さ3メートル。全身がずんぐりとした体型で、表面がつやつやしている。目のあたりから涙が止まらず流れ落ちていた。ぐすぐすと泣きながら、体をゆらゆらと揺らしている。
「いるね〜、メソメソ虫ちゃん。今日も泣いてる。ごめんね、倒しちゃうよ」
ひまりは両手をかざした。
「マジカルシュート!」
ピンクの光弾が飛ぶ。
「当たれ当たれ当たれ――よし、ヒット! いいねこれ、絵になる!!」
実況しているのは、ひまり一人だけだった。
(まあ、習慣なので)
メソメソ虫は体を丸めて避けようとしたが、狭い路地では逃げ場がない。ぐしゅっ、という音と同時に光弾がヒット。体がぶるっと震えた。
「もう1発――いや、連打! マジカルシュート!!」
3発撃ち込む。ひまりは走りながら距離を詰める。
「ってか、この角度、背景のダンボールがいい感じにボケて映えるかも――あ、来た!」
メソメソ虫が、ぐわっと体を伸ばして反撃してきた。
(どの個体も、だいたいこれをやる。パターン読んでるから大丈夫!)
ひまりは、ひょいとサイドに跳んで避け、着地と同時に大きく腕を振り上げた。
「フィニッシュ! マジカルシュート・フルバースト!!」
光が炸裂した。
どしゃん、という重たい着地音がして、しんと静かになった。
土ぼこりが漂う。
ひまりは息を整えながら、打ち込んだ場所を見た。
「よしっ! 完璧!! 今日の戦闘、けっこうよかったんじゃ――」
(……あれ?)
メソメソ虫が消えたあとに、なにかが残っていた。
小さい。
すごく、小さい。
こぶしほどのサイズの丸っこい何か。芋虫の形をしている。体の色は淡いグリーン。目は大きく、つぶらで、きらきらと光っていた。涙はもう流れていない。
ぱちくり、と目が合った。
「……え」
(なに、この生き物)
手のひらサイズの芋虫は、しっぽの部分をぴょこぴょこ動かしながら、ひまりのほうへ向かってきた。ぴた、と足元に来て、ぷるぷる震える。
(……かわいい。いや、なんで!? さっきまで3メートルの芋虫だったのに!?)
「……えっ、ちょ待って待って! あなたって、さっきのメソメソ虫?」
芋虫はぷるぷると震えた。頷いているのか単に震えているのかは判断できない。それでも、ひまりのブーツの先をちょこっと、つついてきた。
ひまりは、ゆっくりしゃがんで、手のひらを差し出した。芋虫はおそるおそる乗ってくる。温かい。じわじわと体のぬくもりが伝わってくる。
「メソメソ虫……メソちゃん、って呼んでいい?」
ぷるぷる。
「じゃあ、メソちゃんだ」
メソちゃんは、気持ち、少し嬉しそうに見えた。
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変身を解除して、ひまりは普段着に戻った。
メソちゃんはそのまま、ひまりの手の上にいる。ポーチに入れてみたら、すっぽり収まった。小さいのに重みがあって、ずっしりしている。
スマホを構えて、メソちゃんを手に乗せた状態で自撮りをした。ぷるぷるのメソちゃんの目が写り込む。少し、ブレていた。
(まあいいか。かわいいから!)
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【SNS投稿 ― ひまり@himari_mahou_1200】
今日の戦闘報告です!!
ハニーリボンコラボ衣装で出撃してきました!
あと謎の子が手のひらに乗ってます。かわいいので連れて帰ります!
いいね 1 / RT 1 / 救われた 1 / コメント 0
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送信して、10秒経って確認したら、まだ、0だった。
「また0コメント……」
苦笑いがこぼれた。
(まあ、いつものことだし)
気を取り直して路地を出る、が、
――さっきまで寂れた商店街だったのに。
人がいた。
めちゃくちゃ、いた。
老若男女がわんさかと行き交っている。子どもがたこ焼きの棒を持って走り回り、おばちゃんが袋いっぱいに何かを抱えて歩いている。カメラを構えた人までいた。
ひまりは呆然と立ち尽くした。
電柱のそばに貼り紙がしてあった。剥がれかけで、ひらひらしている。
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本日14:00〜
翠霞駅前ミニマーケット 開催!
地元の美味しいもの大集合!!
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時刻は14:10。
変身していた間、ひまりはずっと東側路地に籠もっていたから、まったく気づかなかった。
もし、あの路地ではなくて――この商店街側にメソメソ虫が出ていたら。
ピンクの光弾。3メートルの芋虫。マントひるがえして決めポーズ。ハニーリボンコラボ衣装。フルバーストの大爆発。
それを、これだけの人が見ていたら。
スマホ片手の子どももいる。カメラを構えた人もいる。撮られる。絶対に撮られる。バズる。間違いなくバズる。
(……は?)
(待って待って待って――今日!? 今日に限ってこんなに人がいたの!?)
(私、それを知らずに、誰もいない路地で、全部終わらせた!?)
「うそでしょ……」
ひまりはその場にしゃがみ込んだ。ポーチの中のメソちゃんが「メソ?」と首を傾げる。
(守れてよかった……けど、けど!)
(人生で一番のバズチャンス、自分でドブに捨てた……!)
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次回――メソちゃんが大変なことになる!?(乞うご期待!!)
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8月に完結見込みです!




