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【瞳の中の君】  作者: 音香(Otoca )


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3/3

―結ばれる境界―

〈プロローグ ――蓮夜視点――〉


夜の境界は、静かに息をしているかのようだった。


前回の崩壊から一年。


あの時の傷跡はほとんど消え、世界はかろうじて安定していた。

しかし胸の奥のざわつきは消えない。


――りん。


彼女が戻ってくる気配を、夜風が告げている。

縁側に立つ蓮夜の九本の尾が、微かに揺れた。


「…来るな」


理性は叫ぶ。


しかし、心は――否、魂は待ちわびていた。


遠く、赤い屋根が夜に溶けるように浮かぶ。

あの場所に、あの光に、彼女がいる。

確信が胸を打つ。

蓮夜は息を整え、静かに空を見上げた。


「…迎えに行くか」


危険を承知で、九尾狐は再び境界を越える覚悟を決めた。



〈第一章 ―再会の光――りん視点――〉


朝の光が窓から差し込む。


目を覚ました瞬間、胸がギュッと痛んだ。

夢ではない。

暗闇の狭間の空間で耐えて生きてきた。

光など存在しない世界。

しかし今、目の前にあるのは

――赤い屋根、白い光――現実のものだった。


「……また来ちゃったの…?」


声は震え、手は自然にカーテンを握りしめる。


足が勝手に動き出す。


ここは元の現実世界ではない。


なぜかりんにはそう感じた。


ただ、心の奥で呼ばれている。――あの瞳に。


街の景色はいつも通りなのに、道を曲がると空気が変わった。

風がぬるく、木々が揺れ、地面が少し沈む。


「……蓮…夜…?」


名前を口にした瞬間、背筋が震えた。


視界の先、夜の闇に溶けるように白銀の髪と淡い光の瞳が浮かぶ。

彼は蓮夜――九尾狐。

人と妖の間に存在する彼が、ここにいる。


「りん――」


低く響く声が胸に刺さる。


「来てしまったんだね」


蓮夜の目に映るのは、恐怖でも喜びでもなく

――確かな想いだった。



〈第二章 ―境界の試練――りん視点――〉


空気が重く、地面が微かに震える。

赤い屋根の周囲に黒い影が渦巻き、風が渦を描くように吹き荒れる。


「……ここは……」


恐怖で足がすくむ。

けれど心は前へ動かされる。


「りん、後ろを見ないで――私について来なさい」


蓮夜の声は低く、雷鳴のように胸に響いた。


振り返ると、影は人型の妖たちに変わり、鋭い爪と暗黒の炎を揺らしながら迫ってくる。

その数は数え切れず、境界の亀裂から力を吸い取るように集まる。


りんの手のひらに熱が宿る。


赤い光が指先から漏れ、無意識に妖たちを押し返す。


「落ち着いて……力を制御するんだ」


蓮夜は手に触れ、九尾の尾が光を帯びる。

光の波動が周囲の闇を切り裂き、空気がビリビリと震える。


妖たちは咆哮しながら飛びかかる。


一体が空中で裂け、影が粉々に散った。


「――今だ、行くぞ!」


蓮夜の低喝とともに二人の光が交わる。


赤と白の光が渦を描き、赤い屋根の上に広がる。

光の柱が瞬き、亀裂の端を押し戻す。

りんは息を整え、震える声で確認した。


「…はぁ…でき…た?」


蓮夜は力強く頷く。


「だが…まだ完全じゃない。君がいれば、希望はある」


胸の奥がじんわり熱くなる。

恐怖も不安もあるが、光に包まれた彼の瞳を見ると、恐怖は力に変わる気がした。



〈第二章 ―境界の核心――〉


赤い屋根の奥、境界の中心に立つ二人。


淡い光の柱が立ち、周囲の空間が揺れる。

亀裂から黒い影が渦を巻き、押し寄せる。


「りん、私に任せろ」


蓮夜が前に出る。


九尾の尾が光を帯び、妖たちを吹き飛ばす。

しかし、新たな影が次々現れ、力だけでは追い払えない。


りんは手をかざし、心の奥から力を引き出す。

赤い光が彼女を包み、妖たちを押し返す。


「――私も、戦う」


小さな声が大きな決意に変わった瞬間、二人の光は完全に融合した。


光の渦が空を裂き、赤い屋根と光の柱を中心に旋回する。

妖たちは咆哮し、光に触れると粉々に崩れ、亀裂も収まった。



〈第三章 ―心をつなぐ光――〉


戦いが終わり、静けさが戻る。


赤い屋根は月光に染まり、光の柱もゆっくり消えつつあった。


「蓮……」


りんは名前を呼び、胸いっぱいの感情を込める。


「怖くなかった。どんな闇でもあなたと一緒なら」


蓮夜は優しく微笑む。


「私もだ、りん」


壊れ物を扱うかのように髪を撫で、りんを抱き締めた。


光が二人の周囲に柔らかく広がり、境界もこの世界も、二人の想いによって守られた。


夜空の青、赤い屋根に反射する光。

すべてが静かに二人を祝福するようだった。


「ずっと一緒だよ」


「そうだな、りん」


初めて恐怖も不安もなく笑い合い、見つめあった。


蓮夜の顔がゆっくりりんに近づき、そっと唇が触れた。


光の中、二人の心も重なった。


境界の向こうも、この世界も、もう怖くはない。


二人の未来は光に包まれていた。

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