LOG.8 ― 見なかったの? / LOOK ―
——実話。
こんな人生で、マトモは無理だった。
これは、
現実にあったかもしれないし、
無かったかもしれない。
もう一つの結末。
————
帰り道の車内。
ミカは何故かご機嫌。
窓から見える景色を
あ!ホームセンター!
あ!スターバックス!
と、指さして
シンに報告していた。
シン
(なんの遊びなんだ……。)
シンは
ミカが何を考えているのか、
全く理解出来なかった。
赤信号で車が止まった瞬間、
ミカが言った。
ミカ
「あ!お城!」
「見てシン!お城!」
その声は、あまりに自然だった。
ミカは
"初見のリアクション"をした。
ミカが
フロントガラスの向こうを指差し、
ぽつりと言った。
ミカ
「ミカ、疲れちゃった。」
「お城で休憩しない?」
そのお城は、
間違いなく“そういう場所”だった。
休憩4時間3800円。
"そういう場所" だ。
シン
「いや…ダメだろ。」
「帰ろうよ…?」
シンは消えそうなくらい
弱い声で言った。
それもそう。
彼の本心は
大チャンスでウキウキだったのだ。
ミカ
「変な意味じゃないよ?」
こちらを横目で見ながら微笑む。
ミカ
「ミカ、疲れたって言ったでしょ?」
「ただ休みたいだけ。休憩。」
少し間をあけて、
わざとらしく付け足す。
ミカ
「それともなに?」
「このアタシに、
変なことするつもりなワケ?」
シン
「えっ」
ミカ
「良いこと思いついた、条件つけようか。」
「シンがアタシに触ったら、
アタシ動画撮らないから。」
「ラインもインスタも全部ブロックする。」
「だから4時間、我慢して?」
シン
「動画撮らないのは困るな……。」
ミカ
「ちーなーみーにー!」
「アタシからシンに触るのはアリね!」
シン
「それはキツイ。」
「俺も一応男だぜ…。」
ミカ
「ダメ。アタシからは触る。」
「だからアタシに触るの我慢して?ね?ね?」
「インスタ頑張りたいでしょ~?」
心底嬉しそうなミカ。
シン
(いや…でも大丈夫か……)
(理性に負けなければ…)
ミカ
「ほら、曲がって〜」
「シン、早く。疲れたの。」
「曲がんなさいよ、ほらぁ。」
「返事は "わん" でしょ~?」
その声音は、
甘いのに逆らえない圧があった。
シンはブレーキを踏み、
ウインカーを出しながら言った。
シン
「……休憩するだけね。」
ミカ
「うん。“休憩だけ”ね?」
「フフ♡」
どう考えても
休憩だけで済む声ではなかった。
ーーー
ミカは部屋に入るなり、
黒ワンピを
ひょいっと落としてキャミ姿になった。
ミカ
「歩き疲れた~」
肩のライン、ウエスト、脚。
全部が“一点物の彫刻”みたいで、
しかも胸元の
"見えてはいけない先端部"
が、チラッと覗く。
ミカ
「シャワー浴びよ〜」
そして、
バスルームのドアは閉めない。
半分だけ開けておく。
振り返って、にこっと笑う。
ミカ
「見たら殺すからね!絶対見るなよ〜?」
水音。
きらきらした湯気。
濡れた髪の影。
半分開いたドアから
“見える寸前”が漂ってくる。
普通の男なら覗く。
…それでもシンは覗かなかった。
彼は
自分の性欲よりも
マスターや、
関わってくれる人への
恩や繋がりを大切にしていた。
だから、
こんな場所で
やらかすワケにはいかなかった。
シンは、
天井を見て、拳を握りしめて、
息を止めて、
ミカの影を見ないようにした。
ーーー
数分後。
バスローブ姿で戻ったミカは、
タオルで髪の毛を拭きながら、
目を見開いて、
驚いた顔をしていた。
ミカ
「アンタ…」
「……見なかったの?」
怒りでも呆れでもない。
“信じられない”
と
“約束を守った嬉しさ”
が混ざっていた。
やるじゃねぇか、
と聞こえてくるくらい、
ミカは目をキラキラさせていた。
ゲーム終了まで、残り、3時間。




